第三章 「ユメ」 20
「だけど、急にどうしたんだ?」
「急じゃない。武蔵とむな志はいつもおいしいものを作ってくれる。でも、わたしは料理が出来ない。だから、由愛に色々と教えてもらった」
なるほど……。由愛直伝なら、この美味さは納得だ。
「バナナパンの時、武蔵が由愛のクッキーをおいしいと言っているのを見て、なぜかここの辺りがムズムズした」
ナナコは自分の胸の辺りを押さえた。
「その理由が知りたかった。だから、もう一度リベンジ」
「そうか……」
きちんとおいしいって言ってもらえなくて、こいつなりに、ちっちゃな胸を痛めていたというわけか。
「それは悪かったな」
「問題ない。そんなことより、温かいうちが一番おいしい。だから、遠慮なく食べろ」
「お、おう」
再び箸を握って、味噌汁に口をつけたところでプルルルと家の電話が鳴った。
ナナコが俺を制してから受話器をとった。どうやら知り合いからかかってきたようだ。まあ、家の電話自体ほとんど鳴らないので、学校関係者だろう。
「来ていない……。そう……。確認してみる」
ナナコがこちらに視線を送りながら、
「由愛から」
一体何事かと思って受話器を取ると、由愛が少し早口で、
『ムツミ先生ですか? あの、郷力さんが、まだ帰っていないみたいなんですけど、何か知りませんか?』
壁掛け時計を見ると8時を過ぎていた。今時の高校生からすれば、まだあわてるような時間ではないように思えたが、彩音の家は門限が厳しいらしく、お手伝いさんが心配して連絡してきたとこのことだ。
放課後、屋上でのことを思い出す。彩音の奴、まだ学園で変な妄想しているんじゃないだろうな……。
「あの馬鹿……」
『え?』
思わず素の言葉遣いになる。
「ううん。何でもないの。私の方で心当たりがあるから、ちょっとあたってみるね。だから、矢追さんは家にいて連絡を待ってて」




