第三章 「ユメ」 19
白米、卵焼き。そして、味噌汁。テーブルの上に小学校の調理実習で作るような献立が並ぶ。
本来、今日はオヤジが夕食当番だったのだが不在ということで、急遽ナナコが準備したようだ。正直メインのおかずが欲しいところだが、それを今のナナコに求めるには無理な相談か。何せナナコがきちんと料理を作るのは初めてのことだ。今まで夕飯はオヤジか俺がメインの当番で、ナナコはサラダとかの簡単な料理担当だったので、味に関しては若干の不安を禁じえない。
「…………」
エプロン姿のナナコが直立不動で隣に立って、早く食べろとプレッシャーをかけている。
どうやら、今日のナナコは給仕担当で俺のお世話をするそうだ。本人はバナナを食べていれば満足とのことだ。まあ、ナナコにとっては初めての料理。その出来が気になるのだろう。
仕方がないので付き合ってやるかと、俺は箸を持って臨戦態勢に入る。
どんぶりに盛られたご飯については、基本炊飯器任せで、さっき確認したのもあり大丈夫だろうと、白米を掴んで口に放り込む。
「うん」
噛めば噛むほどほんのり甘い米そのもの味がする。
続いて、卵焼きに箸をつける。こいつも、卵に醤油と砂糖を混ぜて注意しながら焼くだけなので、そうそう失敗はしないだろう。見た目も大きな焦げつきはなく綺麗な黄色をしている。箸で掴むと、ふんわりと適度に弾力があるので、隠し味にみりんか何かを入れているのかもしれない。
口の中に入れて味わう。
――これは!
目を見開くと、俺は急いで味噌汁の入っている椀を持って、それを口に含んで飲み込む。
やっぱり思った通りだ。
「どう……だ……?」
俺が全ての料理に口をつけ終えたのを見計らって、ナナコが控えめに感想を訊ねてきた。
「うん。おいしい」
「ホント?」
「ああ……」
お世辞でなく本当にそう感じられた。
白ご飯はオヤジが炊いたものには及ばないが、俺が炊いたものとほとんど同じ味だった。別にお米が立っていなくても普通においしかった。
卵焼きに関しては素朴だが味付けは絶妙で、外はカリッと中はやや半熟気味の食感。噛み締めると少し遅れて、ジュワーとほんのりとした甘さが口いっぱいに広がった。
味噌汁は、きちんといりこの出汁がきいた実に深みのある味がした。若干薄味なような気もしたが別段気になるほどではない。具も豆腐にワカメ、玉ねぎと定番のものでおいしくいただくことが出来た。
「本当においしかったよ」
箸を置いてきちんと目を見て褒めると、ナナコは給仕用に持っていたお盆を胸で抱きしめて嬉しそうにした。
その姿を見ていると何だかこちらの方が照れくさくなってくる。でも、確かにナナコの料理を俺は美味いと感じた。お米を洗うのに台所用洗剤を使おうとしていた頃に比べると随分成長したと言える。ただ言われるがままに手伝い、食べるだけだったナナコの心境の変化に驚かされる。家に来てひと月。きちんとした料理の作り方もそろそろと思ってはいたが、こんな風に自分から動くとは正直驚かされた。




