第三章 「ユメ」 16
「それ以外の方法?」
「そっ。郷力さんも矢追さんの隣に立って、同じ夢をみればいいのよ。矢追さんが道を踏み外すのが不安なら、あなたがずっと側にいて彼女を支えてあげればいいと思わない?」
「アタシが矢追さんを支える……」
彩音の前髪を風が優しく撫でる。サラサラと音が立てて流れる前髪。
「あなたにはそれが出来るはずよ。スポンサーじゃない、パートナーとして矢追さんを支えてあげることが……。郷力彩音さん……。あなたにならね」
俺は人差し指で彩音を指し示した。
「でも、アタシは……」
小ぶりだが形のいい胸が震えている。厳しい現実から目を逸らすように視線を落とす。この子は知っているんだ。今の自分の実力では由愛と同じ道を歩くことが出来ないことを……。でもだからと言って、
「諦めるにはまだ早いんじゃないかしら?」
人差し指を立ててウィンクしてみせる。
「矢追さんのこと、絶対に泣かせてやるんでしょ? それって、夢を叶えた後――感動の涙を流すってのもありでしょ」
「そんなの、出来るわけないわ」
震える彩音の頭をポンポンと軽くタップする。
「まずイメージするらしいわよ。夢を叶えるにはね」
「イメージ……?」
「そう。夢が叶った時のイメージを頭の中で想い描く。叶えるのよ。二人で力を合わせて夢を叶えるイメージをね」
うなずく俺に彩音は目を閉じて自分の夢を――未来を思い浮かべているようだった。
「アタシが由愛の隣に……」
イメージが効きすぎたのか、彩音がにやけ面で身悶えている。これは長くかかりそうだな……。
「それじゃあ私はもう行くけど、くれぐれも危ないことしちゃ駄目よ」
「あっ! ちょっと!」
背を向けた俺にちょっと待ったコールがかけられる。
「どうかしたの?」
「えっと……。あの、その……」
振りかえると、彩音が両手を股に挟んでモジモジと腰をくねらせている。
「トイレなら、向こうに――」
「ちがーうっ!」
「なら何?」
髪をかき上げて言葉を待つ俺に、
「あっ……。ありがと……」
「ん?」
あまりにも小さい呟きに思わず聞き返す。
「だから……。ありがとっ! って言ってるのよ! あなた意外といい人ね。『何も知らない』なんて言ったのは取り消すわ。こんどー先生」
照れくさいのか、チロッと舌を出して彩音はおどけた。
「強い人は自分の非を認められる人。何より他人に感謝出来る人よ。郷力さん、あなたならきっと夢を叶えられるわ。頑張って」
そう言って親指を立てて見せると、彩音は心底嬉しそうに笑った。
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