第三章 「ユメ」 15
「なんですって?」
「矢追さんはそんなことで、人生を棒に振ったなんて思わないわ。矢追さんはいつも前向きで、どんな運命でも笑って受け入れられる強い子よ」
「そんなこと――ですって……。矢追さんはいないはずの母親の幻覚まで見て、妄想にとりつかれて……。恨んでいるのよ。悪夢のような研究を! 両親を奪った人のことを! 絶対に許しはしない」
「本当にそう思っているの? 郷力さんも本当は矢追さんがそんな人じゃないって分かっているんじゃないかしら?」
ギリギリと奥歯を噛みしめ、激しく詰め寄る彩音を諭すように俺は言った。
「だけど、アタシのお父様が、彼女の両親を……」
「親がどうだとか、そんなの関係ないじゃない。矢追さんは矢追さん。あなたはあなたなんだもの」
カタカタと震えている肩にそっと手を乗せる。
「アタシは、アタシ……?」
それでも納得できないのか彩音は寂しげに顔を伏せた。
「それとも好きな人のことを信じられないの?」
と、彩音の顔がピーンと持ち上がる。
「なっ! ななななっ……。急に何を言っているのよ! そんな突拍子もないこと!」
口では否定しながらも明らかに動揺している。
「違うの?」
「そ、そんにゃの、あなたには関係にゃいじゃない」
顔を真っ赤にして抗議する。ホント、わけが分からないけど、分かりやすい奴だな……。
「矢追さんのこと、ずっと見守っていたんでしょ? 好きじゃなければ、そんなこと出来ないわ」
「うっ……」
図星をつかれて、彩音はグーの音も出ないという顔をした。
「そんな恥ずかしがることないわよ。好きって想いはもっと誇っていいものだと思うわ」
「べ、別に……」と口をとがらせてそっぽを向く彩音。
「それに、好きなんて、友達なら当たり前でしょ?」
「ともだち?」
「ええ、友達」
笑ってみせる俺に、彩音は目を丸くした。
「友達、だから矢追さんのことが好きなんでしょ?」
「そう。友達! 間違いなく友達!」
「よね? だったら矢追さんの前に面と向かって立ちはだかる以外にも、彼女の側にいることは出来るんじゃないかしら?」




