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第三章 「ユメ」 13

 だが、なぜだ?

 俺はあるひとつの疑問に行き当たる。

「なぜ、あなたはそんなに事情に詳しいの?」

 彩音は、うつむいたまま自嘲気味に笑う。

「言ったでしょ。矢追教授の反対を押し切り、無理やり実験を推し進めたスポンサーがいたって……。そんな愚かな人間だって子供は作れる。親にはなれるのよ」

 そうか、彩音はそのスポンサーの……。それでその罪滅ぼしをしようと、由愛のことを気にかけていたのか。

「子は親を選べない……。被害者も、加害者もね」

 誰に聞かせるともなく彩音は、ポツリと漏らした。

「あなたはこれでもそんなものが矢追さんの目標だって、夢だって言うの!」

 屋上を強い風を吹き抜けていく。

「それは……」

 俺はいつの間にかフェンスの金網を握りしめていた。

 見下ろすと、グラウンドには、元気な声をあげて陸上部が、額に汗して月末に行なわれる大会を目指して練習していた。もしかするとこの中には、将来オリンピックにいくような選手もいるかもしれない。

 それはとても夢のあることだ。だが、彩音の言ったことが真実ならば、彼女たちがみている夢と、由愛がみている夢の本質は違っているだろう。

 熱を持った鉄のフェンスが指に食い込んで痛んだ。それが俺を現実世界に引き戻す。全身が粟立つ。気が付くと、俺は寒くもないのに震えていた。由愛が夢だと口にしたもの。それは、たかだか15、6の子供が背負うには過ぎた重責だ。それを彼女はいつも涼しい顔で、あまつさえ夢なんて言葉で笑って話していた。

 それなら、由愛にとって夢ってなんなんだ?

 そんなことを考えたところで、夢のない俺には分かるはずもない。

「…………」

 俺はうつむき押し黙ることしか出来なかった。

 そうやっているうちにも夕日は落ちていき、足元の影が徐々に伸びていく。どんなに願っても、この影の先端には絶対に追いつくことが出来ない。それは絶対に叶わない夢だ。

 その影が、由愛と話した、『アキレスと亀のパラドックス』のように思える。


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