第三章 「ユメ」 11
屋上の扉を開けると、彩音がフェンス越しにグラウンドの方を見下ろしていた。
「なによ?」
悪戯を見つかった幼子のような不機嫌顔をこちらに向けてくる。肩にかかった縦ロールのひと房掴むとそれを指先にグルグルと巻きつけて――放す。そして、また巻きつけては――放す。その繰り返し。どうやら、それが彼女の癖のようだ。そのせいであの髪型になったのか、それとも、この髪型のせいでその癖なのだろうか?
「郷力さん……。あなた、矢追さんと勝負をするのはほどほどにしておきなさい」
「どうしてあんたにそんなことを指図されなきゃいけないのよ」
「指図するつもりはないんだけど、彼女は目標に向かって頑張っているの。だから、その邪魔をしちゃいけないって言ってるのよ」
「目標?」
髪をいじっていた手を止めて彩音はこちらに向き直る。
「そうよ。矢追さんにとっては夢って言った方がいいのかしら? お母さんの夢の実現のために――」
「なん……ですって……」
太眉がピクリと動いたかと思うと、彩音の表情がみるみる険しくなっていく。
「何も、知らないくせに……」
「え……?」
震え、くぐもった声が聞き取りづらくて思わず聞き返す。
「何も知らないくせにっ! あなたに、彼女の何が分かるのよ……。何を聞いたか知らないけど、それは目標や夢なんて、そんな生やさしいものなんかじゃないわ」
「郷力さん、あなた一体何を言っているの?」
どうにも話が見えない。由愛はあんなに楽しげに話をしていたのに、彩音はなぜ怒っているのだろうか? 全くわけがわからない。
「夢――なんかじゃない。あれは、永遠に解けない呪い――。両親に背負わされた悲しい運命なのよ」




