第三章 「ユメ」 10
あまり話し込んで由愛の邪魔をしても悪いので、俺はきりのいいところで別れを告げた。
と、席を立った瞬間、俺は誰かに見られているような視線を感じた。ここは丁度奥まった場所にあるので、誰かがこちらを探っていればすぐにそいつが何者か分かるはずなのだが、ぱっと見誰もいなかった。
その場から離れて図書室内を少し歩いてみたが、それらしい人物はいなかった。あまり気にしても仕方がないので、そのまま図書室を出て行こうと出入り口の方に視線を向けると、特徴的な太眉がガラス越しに怪しい動きをしていた。
「何やってんだあいつ……」
ひとりごちると、俺は気配を消して扉の脇に張り付くとそいつの様子を伺う。
もしかしてまた、由愛に勝負を挑もうとしているのかもしれない。
「こら!」
扉を開けて注意すると、
「きゃん!」
小さな悲鳴をあげて敗走を決め込む彩音。ツインドリルが左右に揺れながら上下に伸び縮みしている。
「やれやれ……」
このまま放っておいてもいいが、彩音が事あるごとに由愛に突っかかれば、それだけ由愛の夢の道のりが遠ざかってしまう。一度きちんと言っておいた方がいいだろうと、俺は彩音の後を追った。だが、逃げ足だけは一級品のようで、彩音は脱兎のごとく一目散に俺の目の前から消えた。しかし、どこか間が抜けているのか、階段をパタパタとゴム底がステップする音が聞こえる。敵から逃走する場合は、スピードよりもむしろ自分がどこにいるかを相手に悟らせないようにするのが定石。ましてや足音をたてるなんてもっての外だ。
素早くそちらの方へと移動して、階段の踊り場を見上げると、スカートがひるがえり水色と白のストライプが目に飛び込んできた。まさに、頭隠して尻隠さず。女の尻を追いかけるのは趣味ではないが、俺は足取り重く階段をのぼった。




