第三章 「ユメ」 4
「でも、私は知りたいんです。ページをめくった先に何があるのか。最後のページの結末は一体どんなものが書かれているのか。私はとても気になるんです。読んでいるのは難しい専門書なのに、私にはなぜかそれが、名作と呼ばれた物語を読み進めていくような、至福の時間なんです」
再びめくられるページ。
「夢が叶うかどうかは分かりません。だけど、途中で諦めてしまったら、絶対に夢は掴めない。それだけは確かなんです。だから、私は諦めません。そして、夢に向かうその時間こそが母を感じられる、夢のような時間なんです」
そんなことを言って胸の前で小さくガッツポーズしてみせる由愛が可愛らしくて、俺はつい顔をほころばせてしまう。
「何かおかしかったですか?」
「ごめんなさい。そうじゃないの。矢追さんって、可愛い顔して意外と熱い人なんだって思ったら、ちょっと……ね」
笑いをこらえている俺に、
「そうなんですよ。私は熱い女なんですから」
由愛は腰に手を当てて、エッヘンと胸を張ってみせる。
「すごく、大きいわね……」
と、由愛が目を丸くする。俺も、「え?」と呆けた。
そう言えば、俺の視線が、ツンと上向きをしたバストに向けられているのに気が付く。
「いえ、夢の話しよ。夢の!」
なんとか誤魔化そうとそう口走ると、
「触ってみます?」
「いいの?」
思わずマジになって、両の手のひらが綺麗なお椀型の形にスタンバイする。と、由愛は、「も~。冗談ですよ」と胸を隠しておどけてみせる。
「だけど、本当に夢って、そういう熱さやひた向きさ、矛盾を超えて努力した人だけが叶えられるのかなって。そんな風に思います」
「そうなのかもね」
肯定はしたものの、俺には由愛が言っていることに手放しに共感出来なかった。なぜなら俺には――。
「ムツミさんの夢は先生になることですか?」
ドキリとした。俺の中にあるわだかまりと言うか、スッキリしないものを見透かされた気がして心の臓が激しく跳ねる。
「え? 私? 私は……」
思わず言いよどむ。
改めて、『夢』なんて訊かれると返答に困ってしまう。
今俺は探偵なんて真っ当でない職に就いている。それは俺を捨てた両親を捜すためであり、実際、両親を見つけたいとも思っている。しかし、それは夢と言うよりもむしろ、自分自身に課したノルマ――カルマと言った方が良いんだと思う。それに悲しいかなたとえ両親を見つけたとしても、具体的にどうしたいということもない。ただどんな奴から俺という人間が生まれたのか一目見たいだけだ。つまり、それは由愛の言う所の『夢』とは大きくかけ離れている。
「夢……か……」
腕を組んであれこれと考えてみても、やはりちっとも思い浮かばない。
仮とは言え、教育実習生にふんしているので、適当に「教師になるのが夢よ」と答えれば良いのだが、なぜかそうすることは躊躇われた。なぜならそれは嘘だから……。偽りの夢を答えることは出来ない。こんな俺でも夢に対して真摯でいたいとでも思っているのだろうか?
「う~ん。ちょっと今は思いつかないかな?」
と苦笑いを浮かべる俺に、
「そうですか……」
由愛は少し寂しそうな表情を浮かべたかと思うと、
「でも、それでいいんだと思います。夢って無理に見つけるものじゃないですからね。私自身、気がついたら今の夢を抱いていたって感じですかね? 何でもいいから自分に合うものを頑張って続けていれば、自然と夢は見つかるんだと思います」
にこーと満面の笑顔を咲かせた。彼女には本当に驚かされる。どちらかと言えば後ろ向きな俺だが、由愛がそう言うだけで、なぜかそうだと信じてしまえるのだから。
だから、俺も最高の笑顔で返す。
「そうね。そうだといいわね」
フフフと二人で笑いあう。




