表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/70

第三章 「ユメ」 1




「お先に失礼しまーす」

「お疲れ様でした~」

 控室兼ミーティングルームになっている会議室を出ていく実習生たち。俺はレポートをまとめながら、他の実習生を見送る。その足取りは実に軽やかだ。それもそのはず、いつの間にやら教育実習期間も終盤。気が付くと、二週間の教育実習期間も、今日を含めて残すところ後三日になっていた。

 俺は会議室内をぐるりと見渡す。そこに真夜花の姿はなかった。どうやら既に帰宅したらしい。彼女とはプールの一件以降あまり話せていない。オヤジのアドバイス通り、時間を見つけて真夜花とコンタクトを取ろうと試みるが、どうにもタイミングが合わずにいた。本格的に疎遠になってしまったようだ。

 水面に映らなかった真夜花。どうにもその事実が気になって仕方ない。普通に考えれば、そんなことあるわけないのだが、この学園で起きている怪事件や幽霊の噂もある以上、もう一度その真偽を確かめようと思っていた。

 今にして思えば、そもそも、あれだけ人がいてプールの水面が凪いだと思う方が不自然なのかもしれない。単純に俺の見間違いなだけとは思うが、真夜花には今日までまともに話せていないと言うか、避けられているような感じになっているので余計気になってしまう。オヤジは分からないことにはとことん向き合えと言ったが、向き合うべき相手がいなければそれは叶わぬ願いである。

 それはそれとして、本筋の事件の方もいまだ解決の糸口が見えていないのも悩ましい。何というか今回の事件に関しては、物的証拠があまりにも少ない。目撃情報はそれなりにあるのだが、それらの証言が事件解決に直接繋がるとも思えなかった。当事者が何の前触れもなく単に意識を失うように倒れたのを見たというものばかりで、そこに第三者の関与があったという類の情報は皆無なので、あまり役にも立ちそうにない。被害者本人の証言としては、意識を失う直前何か不可思議なものを見たというものもあるにはあるが、それは参考程度、話半分だと思った方がいいだろう。

 つまりは、今現在手詰まりな状況だ。

 ものごとの結果には必ずそれが起きる原因があり、俺たち探偵は、その逆順を辿っていくことで事件を解決する。その作業は、完成済みのパズルを一度グシャグシャにばらし、そこにある全てのピースを正しく組み上げるのに似ている。

 だが今、原因に遡れるだけのピースが絶対的に不足している。本腰を入れていないのか警察もお手上げ状態で、最終的には今回の件は、ただの貧血で事件の収束を図ろうとしている。職務怠慢にも思えるがそれも仕方がない。事件の概要だけ見れば、生徒が倒れ、そして、通常より長い期間眠り続け、目を覚ましただけの話だ。

 だが俺は、被害者に実際に会って聞き込みをすることで、この事件がそんな単純なものではないことを知っていた。この事件にはきっと何か意味がある。

 被害者――白雪姫ガールと呼ばれている生徒たちは実に真っ直ぐな心の持ち主だった。各々ジャンルは違うが、その分野で活躍している生徒たちだ。昏睡状態から復帰した彼女たちは、意識をなくしていた期間を取り戻すように、むしろそれまでよりも、より高い目標に向かって努力を続けていたのだ。そして、あの事件の被害にあったことで逆に、自身の才能が大きく覚醒するきっかけになったかのように話してくれた。

 つまり、今回の一件は、当事者に限って言えば、結果としてプラスになったのだ。そう考えると、警察と同じ結論になるのだが、事件は事件だ。何らかの結果を出さなければ依頼者である学園は納得してくれないだろう。

 それに俺自身思うところもある。

 ここに来てまだ二週間も経っていないが、立場は違えど生徒たちと同じ時間を過ごした。授業に出て、共にチャイムを聴くことで、この学園に少しだけ愛着も湧いてきた。

 情が移ったと言うか、共に同じ景色を共有することで至った境地。ここを去りゆく前に、事件の解決は出来なくても何らかの糸口くらいは見つけておきたいと思う。

 ナナコや由愛が、この学園の生徒たちが、安心して学ぶことが出来るくらいには……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ