第二章 「青い春」 14
「あの、違うんです。今日は、ちょっと体調が悪いだけって言うか、だから、そんなに気にしないで下さい」
それはそうか……。みんながみんな由愛みたくプールでウキウキ気分というわけではないのだろう。
「そっか。なら仕方ないですね。それじゃあ……」
他に何か楽しめそうなものでもあっただろうかと思案していると、
「そろそろ次の授業があるので」と真夜花が立ち上がった。
俺もつられて尻を上げると、座りっぱなしで虚性スーツが凝り固まったのか、足をとられた。
何とかバランスをとろうと踏ん張ったが、大きく体勢を崩して前のめりにつんのめると、丁度そこにあった真夜花の胸に思い切りダイブした。流石に虚乳と違って天然ものはクッションのバネが違う。ポヨーンと俺の体をはじき返した。
思わぬ衝撃に、俺は二歩三歩と後ずさり――。
――ジャパーン!。
盛大に水しぶきを上げ、プールへと落下した。
「おっぱいがなければ即死だった」
わけの分からないことを呟き、額からしたたり落ちる汗を拭う。
生徒たちが何事かとざわついてこちらに視線を向ける。
プールの水面が大きく揺れ動き、それに呼応して、マガイモノの胸がたゆたう。俺は、ニコリと周りに振りまき自らの無事を知らせる。その様子に生徒たちは安心したのか、ため息を吐き出し動きを止めた。そのほんの一瞬、常にせわしなく躍動していたプールの水面の波が凪いだ。
「大丈夫ですか?」と真夜花がスタート台に手を付いてこちらを見下ろす。
俺は自身の体を見て、着衣の乱れ、特に虚乳や股間の前張りを確認して、
「ええ、だいじょう――」
『ぶ』と言いかけて言葉を飲み込む。
凪いで鏡のようになった水面に真夜花の姿が映っていないのに気付く。左右反転されて映ったスタート台のコースナンバー『4』は視認出来るのに、コース台の上にいるはずの真夜花の姿がどこにも映っていないのだ。
「どうかしましたか? もしかして、怪我とかしたんじゃ……」
心配そうに視線を投げかける真夜花は確かにコース台の上にいた。
俺はもう一度水面を見る。が、既に水面は大きく波打っていて、その事実確認は困難になっていた。
「あの……」
なおも心配そうに身を乗り出している真夜花に、俺は大丈夫だと告げる。
「いや~。何だかさっき水面に、赤糸さんの姿が見えなかったから、ちょっとビックリしちゃって……」
プールの水を両手ですくって自身の顔を映す。そこには紛れもなく、偽者の俺の顔があった。さりげなく、真夜花の方も見てみると、きちんと逆さまになった真夜花がいた。
「だけど、多分、私の勘違いね」
あり得ない現象を、ハハハと笑い飛ばすと、両手を開いて雫を落とす。
が、真夜花の方は、至極真面目な顔をして、
「そう……、ですか……」
そう言い残すと、一人でフラフラとその場をあとにした。
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