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第二章 「青い春」 12

 全く面倒なことになったな。と、思う間もなく気付けは試合は終盤に差し掛かっていた。端的に言うと、ワンサイドゲームとなった。

 由愛&ナナコペアが強過ぎる。

 二人は高い運動神経で、プールを縦横無尽に泳ぎ回り自陣にきたボールを受けてはアタックを決めた。一方、俺たちの方はいまだ1点も取れずにいた。逆に、彩音と俺はどちらも泳ぎが得意ではないのか、スパイクされたボールはほぼザル状態で楽々とポイントを相手に献上している状態だ。それに何より、決定的なのはチームワークの差だった。由愛とナナコの息はぴったりで、的確にこちらの穴に向かってボールを打ち込んできた。

 今も俺たちが何とか返したボールを楽々と受け、悠々とナナコがトスを上げる。それを由愛がジャンプ一番、スパイクを打ち込むと、バレーボール大のビーチバレーボールが水面に叩きつけられ、跳ねた水しぶきが彩音の顔面に盛大にぶっかけられた。

 15点先取制の、14点目が決まる。もはや後がない。

 ピキキと彩音の広いおデコに青筋が走る。

「もー! このアタシの足を引っ張るんじゃないわよ」

 怒りの矛先は、なぜか巻き込まれたはずの俺に向けられる。それにしてもこれが、仮とはいえ教師に対する物言いか? というか、こいつは本当にお嬢様なのだろうか? アホ。ヘタッピ。クズ! と、彩音の口から飛び出す罵り文句が、小さな幼子のものでしかないので逆に心配になってくる。

 いい加減本気を出してやろうかとも思ったが、全力で動いてよからぬものがポロリするのはもっとまずいので、ここは甘んじて汚名を被ったままにしておく。

 どちらにしろあと1点で勝負が決まる。さっさと試合を終わらせよう。

 ポーンと緩やかな楕円を描くサーブが由愛によって上げられるも、俺の方はどうにも届きそうにもない。だが彩音は試合を諦めていないようで、一矢報いようと無理なボールに手を出して、何とか命を繋ぎ止める。その姿勢はある意味尊敬に値する。俺の方も、そこまでされると何とかしたいと思い、彩音が繋いだボールを打ちやすい場所へとトスした。

 まあ、これで綺麗にスパイクが決まって1点でも取れれば、彩音も満足するだろう。

 しかし、既に彩音の方は怒りが頂点に達していたのか、トスされたボールを由愛に向かって思い切りアタックした。どうして、人のいない場所を狙わないのかね?

 勢いをつけて由愛へと牙をむくボール。

 が、由愛は別段焦ることもなく、飛んできたボールに対応するため一歩後ずさると、両手を伸ばしてレシーブの構えをする。しかし、由愛が受けようと突き出した腕には上手くボールが当たらず、両腕を合わせて強調された胸に当たると、ナナコの頭上にトスがあがった。ナナコの方も何を思ったか、十分に衝撃を吸収し宙で滞空しているボール目掛けて思い切りジャンプしたかと思ったら、彩音へとフルスイングでアタックした。

 ――ドン!

 よせばいいのに、由愛と同じ動作をしようとして、足を滑らせた彩音は顔面でボールを受けた。ダラリと鼻から血が流れ落ち、黒目が天を仰ぐ。

「アタシは、まだ……、やれ……」

 ダラリと力なく垂れ下がる肢体。残念ながら再起不能のようだ。ビーチボールゆえに衝撃は致命的ではないはずなので、おそらく精神的ダメージがでかかったのだろう。気絶した彩音は大の字になって水面を漂った。

 その後、由愛が彩音を保健室へ連れて行くのを見届けて、ようやく俺は本来の監視作業に戻った。


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