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第一章 「運命の女(ファム・ファタール)」 2

 それから、俺たち二人は集合時間ぎりぎりに会議室に滑り込んだ。

 一時間目はオリエンテーションで、今回の実習では主に一年生のクラスを受け持つようになっているらしく、そのせいか一年の学年主任が俺たちの研修のとりまとめを行うとの説明があった。

 オリエンテーション終了後、各々、自分が選択した教科の担当教師へ付いて本格的に実習開始となった。

 俺の担当の先生は四十過ぎの小柄なおばさんだった。小西のぞみ先生。旧姓、佐久間のぞみ。二児の母親で、大学で知り合った旦那さんも教師だとか、どうでもいい身の上話をこちらが訊いてもいないのに色々と話してくれた。そんなおしゃべりな小西さんの長すぎる自己紹介で午前中のカリキュラムは終了した。

 そんなこんなで昼休み。

 俺は事前にこの学園に潜入している相棒と合流するため、約束どおり中庭へとやって来た。中庭には既にランチボックスを広げた生徒たちが思い思い昼食をとっている。

 梅雨とは言え今日は快晴なので、外で食べる食事は普段の二割増しでおいしく感じられるだろう。しかし、本来日陰ものの探偵がこんな目立つ場所で落ち合うのはどうかとも思ったが、下手に人気のない場所で合流して他の生徒に噂になっても馬鹿らしい。結果、教室以外で生徒の最も多い中庭ということで落ち着いた。

「ふぅ~」

 俺は大きく息を吐き出して、くだんの待ち人を探す。目立たないようで意外と目立つ奴なので、見つけるのにそんなに時間はかからないだろう。そんなことを考えていると、

 クイッ――。

 と、スーツが後ろに引かれる。

 振り返ると、そこにはちっこい少女が、俺の上着の端を掴んでこちらを見上げていた。

「武蔵……」

「お、おお。ナナコか」

 少女へと振り返りその名を呼んだ。目の前の小さな少女。夏用の白いセーラー服に身を包んだ女生徒が、今回の潜入捜査の相棒のナナコだ。

「悪い遅くなった」

 ナナコは俺の謝罪に、フルフルと頭を左右に振って大丈夫だと意思表示している。相変わらず無口で冷静な奴だ。おろしたての真っ白い夏服に黒い髪が、強いコントラストとなって目に眩しい。見慣れていないせいか、ナナコが女子高生の姿をしているのは妙な違和感をおぼえる。

 と言っても俺たちはそんなに親しいわけではない。知り合って一ヶ月経つか経たないかくらいの関係だ。

 この子は、ゆえあって親元を離れ、うちの探偵事務所で預かっている女の子だ。なので、本来、『お客様』的立場なので俺たちの仕事の手伝いなんてしなくてもいいのだが、『働かざる者食うべからず』と、自主的に探偵仕事の手伝いを所望してくる。

 そういう姿勢だけは評価するのだが、ナナコは口数が少なく社交的な捜査には向いていないので、いつもは難易度の低い猫捜しなんかを手伝ってもらっている。しかし、今回は女子校への潜入任務ということとオヤジの指示もあって、急遽俺のパートナーとしてこの学園に転入、潜入してもらっている。

「それにしても、もう少し小さなサイズの制服はなかったのか?」

 ナナコが着ている制服は明らかにサイズが合っていない。

「これが、一番小さなサイズ」

 冷静に答えるナナコに、俺はそうだろうなと納得する。

 年齢不詳の、自称十六歳のナナコだが、その風貌は普通の女子高生とはかけ離れた容姿をしている。良くて中学生、悪くすると小学生といった感じだ。

 それは、ナナコの生い立ちに起因するものであり、ナナコは愛情遮断症候群――愛情遮断性小人症とも言われる一種の病で、そのせいで本来十六歳の女の子が享受すべき発育が阻害されている。詳しい原因ははっきりしていないが、子供の頃、両親や家族、他の人と関わらず、十分に愛情を受けずに過ごすと、身心の成長障害や発達障害が起こって身長や体重が十分に成長しない子供になるらしい。

 だが、その原因となるものは前回の任務で解決した。医者からは、病気も回復しこれからは十分に成長すると言われているので、いずれはこの制服もナナコに合うんだとオヤジは言っていた。ともあれ現在の率直な印象としては、制服に着られている感は否めない。

 しかし、当の本人はそんなことはあまり気にしていないようで、マイペースで気ままにやっている。

 ナナコは俺の相棒バディではあるが、ナイスバディではないと言うわけだ。


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