第二章 「青い春」 9
「ふぅ~」
まるで世界が変わって見える。
オヤジに去勢された俺は、堂々とした立ち居振る舞いで女子校の廊下を歩く。正確には、『去勢』と言うよりは、『虚性』とでも言った方がいいのだろうか。
つまりオヤジは、『虚』偽の『性』転換手術を俺に施した。
学園潜入時いつもは、単なる女装の姿でしかないが、虚性手術を施された今の俺は裸になってもほぼ女性の体つきになっている。例えば、普段は胸の膨らみを出すため、ブラジャーに詰め物をしているだけだが、今日は本物と違わぬモノが付いている。
その場で軽くジャンプすると、たゆんたゆんと大胸筋に張り付けられた偽りの胸――虚乳が上下に弾む。
「おお……」
初めての感覚に自然と感嘆の声が漏れる。
女性はいつもこんなものを装備しているのかと思うと、尊敬の念を抱かずにはいられなくなる。
ゆったりとしたジャージに隠された、水着の下の虚性用スーツを確認するように軽く体を動かす。スムーズに動作する全身の筋肉。俺を女性化させたそれは、ぴったりと体に吸いついて一体化している。
オヤジが施術をしたので、詳しくは説明出来ないが、簡単に言うと、極薄の肉襦袢を身にまとっているような状態だ。
当然ながら、探偵とは言わば影のように存在で、自分の存在をいかに殺してその場に溶け込むかが事件解決の鍵となる。それ故、探偵のスキルに変装は必須で、オヤジくらいのベテランになれば、完璧に他人になることだって出来る。それはもはや特殊メイクの域に達しているほどだ。
オヤジが施した女体化特殊メイクも、例え俺が裸になってもぱっと見、男とはばれないだろう。それくらい良く出来た逸品で、人工物のものと本物の肌の繋ぎ目は、近づいて見てもほとんど判別出来ないくらいだ。
ってオヤジの奴こんな技術力があるなら、自分自身の化粧をもう少し頑張って欲しいと思うのだが、オヤジなりのこだわりがあるようで、それは無理な相談なようだ。
何はともあれ、これで無事水泳の授業に出られそうだ。




