第二章 「青い春」 2
「あの、手伝います」
走り高跳びの道具を片付けていると、さりげなく由愛がマットの反対側を持った。
「ありがとう」
感謝の言葉に由愛は笑顔で応える。その隣には無言で二本のポールとバーを手にしているナナコがいた。
「ナナコも、ありがとね」
控え目にうなずくナナコ。
「それにしても、矢追さん、凄かったわね。いいものを見させてもらったわ。ちゃんと測っていたら高校新の記録が出ていたんじゃない?」
「そんなまさか~。そこまでは跳んでないですよ。それに、今日はちょっと調子が良かっただけですよ」
「またまた~」
そんな謙遜しなくてもいいのにと思ったが、それが彼女の性質なのだろう。自身のスペックの高さをひけらかすでもなく、当番でもないのにこうやって嫌な作業も率先してこなす。生粋の委員長体質ってやつなのだろう。
「そうよ! 今回はたまたまあなたの調子が良くて、アタシの方の体調が悪かった。だから、アタシは負けてなんかいないんだからねっ!」
進路を塞いでズビシと由愛を指差す生徒が一人。ご丁寧に、もう片方の手を腰に当てて、ポーズをとっている。
何だ?
変なのがどこからともなく湧いてきた。
「次は、絶対に泣かせてやるんだから!」
フンスと鼻息を荒くしている女生徒。 ツインテールがドリルのように渦巻き縦ロールになっている。縦ロール? バターロール? いや、どちらかと言うと、チョココロネか? 何か腹減ってきたな。
「誰だ?」
俺は後ろを歩いていたナナコに小声で訊ねた。
「ゴーリキだ」
「ゴーリキ?」
何だか強そうな名前だ。
「はい。郷力彩音さん――郷力財閥の一人娘で、文武両道に秀でた凄い方なんですよ」
由愛の追加説明に、目の前の郷力彩音と呼ばれた女の子はフフンと得意げに口の端を上げる。
「ゴーリキはいつも由愛と競争している」
「違うわ。矢追さんがアタシに対抗してくるから相手をしてあげているだけよ」
彩音は、フンっと首を限界まで曲げると、眉を左右シンメトリーに傾けた。ああ、あの特徴的なツインテールと太眉はさっき由愛の前に飛んで失敗した生徒か……。
由愛の方を見ると、別段気にする様子もなく、マットを持ち直していた。
それを見ていた彩音は何を勘違いしたのか、
「今度はどちらが速く体育倉庫へ道具を片付けるか勝負ね。アタシはどんな勝負だって受けて立つわよ!」
と、唐突にナナコが手にしていた二本のポールをひったくると、プリプリとお尻を振って体育倉庫へと向かっていた。
その後姿を見ながら、由愛に彩音のことを訊きなおすと、彼女は小学校からの友達で幼馴染なのだと、彩音に優しい視線を向けながら教えてくれた。
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