第二章 「青い春」 1
――ピッ!
「次!」
――ピッ!
「次!」
――ピッ!
「次!」
小西先生が首からさげたホイッスルを鳴らすと、健康的な太ももを振り上げて女子生徒がそそり立った棒へと向かっていく。その勢いのまま、思い切り汗にまみれたマットレスへとダイブ!
絶景かな絶景かな。
マニアにとっては生唾ものの光景を俺はうなずきながら眺める。
今日の実習は走り高跳び。
順番に並んだ女子校生たちが次々と大股開きで、マットへと飛び込む景色は実に壮観だ。
しかも、ここ白百合女学園は古き良き伝統により、体育の授業は紺色のブルマ着用で行われている。
十代の健康的な太ももは見るからにはち切れそうな弾力があり、鋭利な針先で刺したらパンと音を立てて弾けそうなほどだ。また、体操着の半袖から伸びるぷにぷにの二の腕が、加速度を上げるほどに激しく揺れるのも感慨深い。
まるで夢でもみているかのような情景。まさに生命の神秘。これこそ、健康美。『This is the 健康美!』、『健康美・オブ・ジ・イヤー!』と言っても過言ではないだろう。そして、走り高跳びのバーが高さを増していくほどに、生徒にまとわりついているぜい肉は排除され、より美しいフォルムが洗練され、俺はかつてローマのコロシアムで開催された女神たちの競技会に迷い込んだような錯覚に陥った。
しかし夢に終わりは付きもので、そんな至福の時が永遠に続くはずもなく、バーが150センチの大台を越えた所で次々と脱落者が増えていった。そして、バーの高さが155センチにもなると、残っている生徒は三名のみになっていた。
その中に、ちんちくりんのナナコの姿があった。自らの状態を確かめているのか、ピョンピョンとナナコはその場で軽く跳ねる。と華奢な体が上下するのにあわせて、競技の邪魔にならないようにまとめられたポニーテールが波打つ。
意外なことにナナコの運動神経はかなりいいようだ。肉体的なハンデをおして、かなり健闘していると言えるだろう。それに今までの跳躍を見ると、実に伸び伸びとトラックを駆け、かなりの余裕を持ってバーを飛び越えていた。
――ピッ!
「次!」
ナナコは、小西先生の合図と同時に片手を上げると、白いしなやかな太ももを上げた。初動はやや緩やかに、そして、徐々にそのスピードを上げ、思い切り踏み込み、飛んだ。
ほとんどの生徒と同様、ベリーロールでの挑戦だ。左手がまずバーを通過し、左足と同時に真っ平らで何の障害物もないボディがバーを中心にして回転し、ナナコは危なげなくマットへと着地した。
――イッたか!?
だが、ナナコがマットから体を起こそうとした直後、バーがほんの少し揺れたかと思うと、重力に引かれるまま落下した。
はらりとマットにこぼれ落ちる黒髪。どうやら、ナナコの体はバーに触れなかったが、ボリュームのあるポニーテールの束が引っかかってしまったようだ。ナナコの背後でファサアアア――と黒々とした羽のような髪が波打つ。しかし、身長150センチ未満のその体ではこの辺が限界だろう。自分の身長以上の高さを飛べるだけでも大したものだ。
次の生徒も失敗し、最後は由愛に順番が回って来る。
由愛は背筋をピンと逸らし、大きく伸びをするように手を上げた。その反動を利用して、スタートダッシュを始める。
カモシカのような両足が大地を踏みしめ、徐々に加速度を上げると、由愛の大きな胸が左右に揺れる。その揺れはメトロノームのように正確で、普通に考えると邪魔になりそうな双丘も、ここまで綺麗にリズムを刻まれると、逆にあの二つのオモリでバランスでもとっているんではないかと錯覚してしまうほどだ。
由愛は勢いをつけたままのスピードで地面を蹴ると、青空目がけて飛んだ!
その瞬間、やたらと時間が長く感じられ、由愛の姿がコマ送りのようにスローモーションに見えた。
なだらかな曲線を描いて宙を舞う美しい肉体。頭のてっぺんから足のつま先に至るまで、あたかも神が計算し創り出したかのような造形美を、誰もが息を飲んで見守る。
背面跳びで後頭部から飛び込んだ由愛の体が、弓のようにしなやかにしなる。
凹凸のある弓が走り高跳びのバーと水平になった瞬間、大きく伸びをしたせいかブルマから染み一つない白い体操着が飛び出す。
チラリとのぞく可愛らしいおへそ。へそ出しのままのけ反る肢体。
綿100%の布地を押し上げるようにツンと張ったバストが天を仰いだかと思うと、今度は安産型のヒップがキュッと締まって太ももが垂直になって見事に160センチに設定されたバーを越えた。
バーの方も微動だにしていない。いや、確認するまでもなく由愛の体はその遥か上をいっていた。おそらく170センチくらいは飛んでいただろう。
音もなくマットへ着地した由愛が、「やった」と小さなガッツポーズをしたところで静止した時間が動き出す。
漏れる吐息。現実に一気に引き戻された観客が一斉に溜息を吐き出したところで、授業終了のチャイムが鳴りお開きとなった。




