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ORATORIO (E)SCAPE  作者: しおん
27/29

27 ラグナロク

「今日は、中央広場に行かなきゃならねーんだよな? ったく、オレらに遠出させやがって、ナユタのヤツ、つまんないもん見せたら、ぶっ叩いてやる!」

 ヒースがぶちぶち文句を垂れながら、中央広場に出向く。

 整然と整備された中央広場は、噴水広場のような賑わいはない。ただ、待ち合わせには便利そうな、艶消しの真っ黒なモノリスが鎮座していた。

 慰霊碑か何かではあるはずだが、文字も刻まれておらず、なんの目的で建立されたのかは不明である。

「なんだ、これ」

 イリヤが両手でベタベタと、モノリスに触れている。

「イリヤ、あんまいじらんほうがええって」

 テンは相変わらず心配性で、イリヤの服の裾を引っ張っている。

 やがて、ナユタがユーリと共に中央広場にやって来た。

「おーい、みんなぁ」

 一同は、揃ってぎょっとなった。

 ナユタはにこやかだったが、その姿が血まみれだったからだ。右手には血塗れのナイフを持ち、左手では少年を引きずっている。

「なに、やって来たんだ、おまえ……」

 ヒースが絞り出した声は、掠れていた。

「うん、最後の呪いは、殺人鬼の怨念に支配された村でね。ずっと惨劇を繰り返していたんだ。で、その無限ループを断ち切るために、僕が村人を一人一人殺して回って、浄化してあげたってわけ。後は諸悪の根源のこいつを殺せば悪夢の浄化は成就する」

『俺が、俺が殺すんだぁぁぁ。殺しても、殺しても、死なねぇぇぇ』

「うるさいよ」

 ナユタはにこやかに短剣を振るって、引きずった少年の首を掻き斬った。

「おまえ、人を殺したのか?」

 ヒースが、身構えるようにして尋ねた。

「殺人? まぁ、それもやぶさかではないけどね。今回は霊的に葬っただけだよ」

 ナユタの手元から殺人鬼の少年の姿が消えると、ナユタの全身に張り付いていた血の跡も消え去って、汚れのない姿に戻った。

「最後の、封印だ」

 ナユタの背後に立っていたユーリの手のひらの上には、ダイアモンドの塊が浮いていたが、暴発するようにそれは砕け散った。

『第十ゲート、解放』

 くつくつと、ナユタが俯いて笑っていた。そして、顔を上げると、こう叫んだ。

「魔人アザゼルの復活だ!」

 高笑いが後に続く。

 あははは、あはは、と。

 そのとき、もの凄い音が轟いた。黒い稲妻が走って、モノリスを砕いた。

 中から、胎児のように膝を抱えて、背を丸めた誰かが、浮かび上がってきた。ドクン、ドクンと鼓動が響く。それに合わせて、姿は消えたり現れたりを繰り返していた。

『封印は解かれた。あとは残りの一本の鎖を解き放つのみ』

 地の底から、響いてくるような声だった。あるいは、空の天辺から降ってくるような声だった。

 その左足首には鎖が巻き付いており、アザゼルの自由を奪っている様子だ。

「ダマ、してたのか……?」

 ヒースの声が震えている。

「君たちが都市伝説だと思っていたのは、五十年前にルキフェン・リンドウとイド・イシュタルによってこのアースシアに封じられた、魔人の封印だったんだ。それと知らずに、封印を解いて回ってくれていたこと、君たちの冒険心と行動力には感謝するよ」

「ナユタ、おまえ、呪いを解くって言ってたよな?」

「嘘も方便さ」

「おまえ……!」

 ヒースは言葉を詰まらせた。

「特に、君、ヒース。それもこれも、君がルキの遺した手がかりに気付いてくれたお陰だ。どうもありがとう」

「オレの、せいで……」

 ヒースの中で罪悪感と後悔が渦巻いてしているのは、目に明らかだった。

「これは決まっていたことなんだ。運命の因果律は変えられない」

 ナユタの口調は朗らかだった。

「そんな……ウソやろ……」

 テンの心の声が漏れている。

「イド……?」

 イリヤが美しい眉根を寄せていた。

 ユジュンは、言葉もなく、ただ、顔を真っ青にしていた。嫌な感じがする。

「ユジュン」

 ナユタがゆっくりこちらに歩み寄ってくる。

「どうして僕たちの見た目がそっくりなんだと思う?」

 一歩、二歩と距離を詰めてくる。

「それはね、元は同じ人間だからだよ。ルキの複製体レプリカントなんだ」

「な、なに言って……」

 ユジュンは怖気がして、一歩後ろに下がろうとした。だが、ナユタにきつく左手を掴まれて引き戻されてしまった。

「僕たち、人間じゃないんだよ。ルキフェン・ゼラ・リンドウという魔導師が造ったホムンクルス…人造人間なんだよ。僕たちの心臓を動かしているのはね、ここに埋まってる、賢者の石、なんだよ」

 ナユタは左胸の辺りを叩く動作をした。

 いつの間にか、そこは黒いドームに覆われた、奇妙な異空間に移行していた。

 空が暗い。真っ暗闇だ。

「おれは、おれは、宿屋の息子のユジュンだ! お父さんとお母さんの息子だ! お姉ちゃんはメイヨだ!」

 ユジュンはありったけの声で叫んだ。ナユタの言葉を振り切るように。

「じゃあ、実際に聞いてみようよ」

「えっ?」

 ナユタが言って指を鳴らすと、暗闇からユジュンの両親と姉が現れた。

 三人とも、ふらふらと立っていて、ぼんやりとしている。

「あなた方に聞きます。ユジュンは、あなたたち二人の実の息子ですか?」

 ナユタの問いに、

「ああ、確かに、ユジュンは私たちの息子だ」

「私がお腹を痛めて産んだ子よ」

「わたしも出産に立ち会ったわ」

 父母と姉は、あの日のことを回顧している様子だった。

「本当に? そのお産は、死産だったんじゃないですか? 赤ちゃんは死んだまま産まれてきたんじゃないですか?」

 ナユタが呪いをかけるかのように、両親に言って回る。

 両親と姉は、訳が分からず、戸惑っていたが、ナユタの言葉を聞いているうちに様子が変わってきた。

「そう言えば、死産、だったんだわ。それが悲しくて泣いていたら、扉が開いて…」

「老人が現れませんでしたか?」

 ナユタが余計な言葉を差し挟む。

「そう、だったわ。フードを目深に被った老人が赤ん坊を抱いていて……」

『この子を息子として育てなさい。名前は、そう、由旬ユジュンと名付けなさい』

「そう言い残して、赤ん坊を預けて行ったんだ……」

「ウソだ! ウソでしょ、お父さん、お母さん、お姉ちゃん!」

 三人に縋り付くようにして、ユジュンは縋ったが、彼らはユジュンを見ていなかった。

遠くを見て、ぼぅっとしている。

「もういいよ」

 ナユタが指を鳴らすと、同時に両親と姉はその場から姿を消した。

「おじさん、ウソでしょ? ウソだよね?」

 足下のクーガーは黙ったまま、無言を貫いた。否定も肯定もしない。

「おまえの言うことなんて、信じるもんか!」

 ユジュンはほとんど悪あがきでナユタに向かって叫んだ。

「真実を見なよ。往生際の悪い」

 こんなときでも、ナユタはにこやかだった。それが不気味だった。

 と、唐突に地面が抜けた。床が抜けるように。その場にいた全員が落ちた。

 落ちた先は空だった。

 高い、高い空は青く、どこまでも澄み切っている。パラシュートなしで、スカイダイビングをしているようなものだ。

 薄く白い雲をすり抜けて、落ちていく。

 藻掻きながら宙をぐるぐる回る。

「僕たちは固有の魂を持たない。ルキの魂の一部を分け与えられて成り立っている存在。まさしく、魂を分けた兄弟だ」

 そんな、そんなことがあってたまるか。

「もともと、僕たちは一つだった。それが二つに分かたれた。君はルキの中の『陽』の部分を、僕は『陰』の部分を与えられて。だから、一つの存在に戻るんだ」

 凄まじい風の抵抗を受けながら、ナユタはユジュンの右手を掴み、左手も捕まえて、輪になって落ちていく。

「隠された、十一番目の封印『ダァト』は、僕たちだ」

 ナユタは言うと、ユジュンの唇に、自分のそれを重ねた。

 全てを吸い取られる。奪われる。

 大事な核をごっそり引き抜かれた、そんな気がした。

 ユジュンの意識はそこで途切れた。


 なんや、なんなんや!

 イドは文字通り、飛ぶように空を駆けていた。

 アザゼルの封印が解かれたシグナルが飛んできて、慌ててねぐらを飛び出した。

 ルキフェン・リンドウと共に行ったあの封印は少なくとも五百年は保つ算段だ。たった半世紀しか経っていない今現在、破られる筈がない。

 訳がわからず、とりあえずアザゼルを封じた、中央広場のモノリスを目指して駆けたのだった。


 よく分からない空間にいた。

 地面があって、確かに二本の足で立っている。

 だが、霧が濃くて周囲の様子が分からない。

 ユーリは見通しを確保しようと、腕で霧を払って悪足掻きした。

『全ゲート開放確認。魔人アザゼルの封印を解除します』

 どこまでも無情な電子音が響く。

 そして、モノリスにはヒビが走り、砕けた。

 魔人復活のときがきた。

「ルキさま! ルキさま!」

 ユーリは振り返り、辺りを見回しながら、師の姿を探した。だが、どこにもその姿は見えない。ユーリは絶望した。

「ああ! アザゼル復活のエネルギーの反作用を利用して、転生を成し遂げるのではなかったのですか」

 地面に突っ伏し、握りこぶしで叩いた。

 ナユタとユジュン。二体のホムンクルスを融合させ、ルキの魂を降ろす器とする。それが今回の計画の根幹だった。ユーリが待ち望んだルキの復活だ。

 と、ひたひたとこちらへ歩いて来る誰かの足音がした。

「ユーリ」

 その声音は少し高く、渋味が抜けているが、まさしくルキのものだった。聞き間違おうはずもない。

「ルキさま?!」

 顔を上げたユーリは、霧の奥からまろびでてくる、青年の姿を目に留めた。

 それは、それこそ穴が空くほど見た、写真の中の二十五歳当時のルキフェン・リンドウその人だった。素っ裸で何も身に付けていないが、長い髪が大事な部分を隠している。

 ユーリは立ち上がると、歩み寄って、羽織っていたマントを脱ぎ、ルキの腰に巻き付けた。そうでもしないと、あまりにも惨めだったので。

「ルキさま! 転生に成功したのですね!」

「いいや」

 ルキはかぶりを振った。

「俺の未来予測の想定よりずっと早く、アザゼルと癒着し、変容したたホムンクルスの魂に拒絶された。もう、ヤツの魂の粗方は取り込まれているらしい。俺はこの子らの中に残った、残留思念でしかない。転生は失敗に終わったようだ。計画は俺の予想外の方向で頓挫したらしい。既に魂も肉体も俺の手から離れ、それぞれの子らのものだ。じきに俺は消えるだろう」

「そんな……!」

 ユーリは泣くまいと、ツンとくる鼻の奥の痛みに耐えた。

「こいつ、腹に一物ありだ。何かやらかす気だぜ。気をつけろ」

 ルキと相まみえるのもこれが、最後だろう。

「愛しています。今までよりもずっと、深く!」

 ユーリは心痛を叫んだ。ありったけの想いを込めて。

「俺もおまえと同じ思いだ。ユーリ。次に生まれ変わったら、同じ時代ときを共に生きよう」

 ルキはふと笑って、ユーリの頭を撫でた。

「ルキ、さま……」

 しあわせを噛み締めている時間はなかった。ルキの黒瞳が、ヘテロクロミアに切り変わったのだ。

「ルキとの感動の再会は終わった?」

「誰だ」

「僕だよ、ユーリ。分からないの?」

「ナユタ?!」

 ナユタだ。片割れのユジュンと融合を果たし、成人男性の肉体を手に入れて、今ここにいる。

 霧が晴れた。

 狭い範囲に皆がいた。

 意識もある。

 ただ、状況を飲み込めないだけで。

 ここはさっきまでの奇妙な空間ではなく、現実世界の中央広場だった。

 辺りは暗くなり、街灯がついて、空には満月が浮かんでいる。

 無惨に砕け散ったモノリスの前には、魔人アザゼルと思われる個体が、粛然と立ち尽くしていた。アザゼルは本来白目の部分が黒く、黒目の部分が赤い。魔人特有の瞳をしていた。伸び放題の髪は白髪で、あちこちに跳ねている。

 禍々しいオーラをまとっているのがここからでも感じられた。

 クーガーが無謀にも、体当たりを食らわそうとして、激しく跳ね飛ばされていた。

「キャン!」

 そのまま、地面に叩きつけられる。クーガーはだらしなく舌を牙の間から垂らして、動かなくなった。

 アザゼルにノイズが走る。姿を保てない。

 ナユタが、ひたひたとアザゼルの前へと歩いて行く。

『我の中に、畏怖の念と共に刻まれている。ルキフェン・リンドウとイド・イシュタルの名は』

 あの最凶最悪の厄災と謳われたアザゼルが、ナユタに向かって跪き、こうべを垂れた。

「もう、君の魂は僕の中にある。僕たちホムンクルスには、幾つか面白い(ユニーク)スキルが付与されていてね。その中の一つに『捕食』があるんだ。だから、こうやって僕は君を捕食した」

 ナユタが右手の平をかざすと、空間が歪んで、かろうじて形を保っていたアザゼルの残滓を取り込み、食らってしまった。アザゼルの魂が宿主であるナユタに定着したということらしい。有り得ないことが実際に起こっていた。

 そこにいるのは、最早、魔人アザゼルを超越した何か、だった。

「あははは! これで完全なる魔人の力を手に入れた! この力を使って、復讐してやる!」

「おまえ、最初からそのつもりで……?」

 信じられない、とユーリは目の前で起こっている現実に思考がショートしかけていた。

「ルキの立てた計画を、逆に利用させてもらったんだ、飼い犬に手を噛まれるってこのことさ。なんて充足感だろう、あるべき姿に戻るってことは! 力が漲るこの感じ、爽快だ! あはははは!!」

 ナユタは愉快そうに笑い声を上げた。

 そして、叫んだ。

「『暗黒エレボス』!」

 雄叫びと共に、ナユタの背後に巨大な漆黒の竜が現れた。

 あれが、ナユタの『同胞はらから』か。

 ナユタは竜の背に飛び乗ると、この中央広場から飛び去った。満月を目指して、竜は飛び上がって行った。

「ユーリ! ユジュンが、息してねえ。心臓が、止まってる!」

 イリヤの声は悲痛だった。その腕の中ではユジュンが生気を失い、顔色をなくしていた。

 ユーリはイリヤの元へ駆け寄り、しゃがんでユジュンの様子を確かめた。

「おそらくは、ナユタが賢者の石と魂を根こそぎ抜き取ったのだろう。それで、鼓動が停止し、生命活動を維持出来なくなった。これはもう、ユジュンとは言えない。ただの空虚な抜け殻だ」

「どうすれば、いいんだ」

「ナユタから賢者の石と魂を取り返すしかない。ナユタとユジュンの魂が完全に統合される前に、引き剥がさなくては。あまり時間が経つとまずいな」

 ユーリが苛立った様子で、右手の親指を噛んだ。

 一方で、声が上がる。

「クーガー、クーガー!」

 声の主はテンだった。

 ヒースと一緒に、倒れたユジュンの愛犬に触れている。

「駄目だ……死んでる」

 ヒースが絶望的な言葉を落とし、顔を伏せた。

「そんな、ユッちゃんだけやなく、クーガーまで……」

 声のトーンをテンが落としかけたそのとき、クーガーの背中に光の亀裂が走った。蝶が繭から羽化するように、そこから一人の成人男性が姿を現した。

 青年は長身の美丈夫だった。蒼い髪は長髪で、見たこともない異国の衣装を身につけている。

『我が名は晴明はるあきら。ルキフェンがユジュンを守るために仕込んだ、隠し球だ』

「ハルアキラ? クーガーなん?」

 光り輝く清明を見上げて、テンが尋ねる。

「ユジュンの『同胞』か」

 冷静を取り戻したユーリだけが、事態を把握していた。

『そうだ。ユジュンの肉体が朽ちぬよう、中に入って保とう』

 言うと、清明はユジュンのもとまで行って、すぅっと姿を同化させた。二人の影が重なり、ドクンと一度だけ鼓動が跳ねたような音がした。

「お願い、ナユタを、ナユタを助けて! このままじゃ、ナユタが『ヒト』でなくなっちゃう!」

 ナユタの側に居られなくなって、右往左往していたセラフィータが、ユーリではなく、イリヤの胸に縋り付いた。

「分かった」

 意を決したイリヤが、可哀想な妖精を肩に止めることを許した。

「ナユタを、追いかけねぇと。ユーリ!」

 機能停止シャットダウンして動かないユジュンを抱えながら、イリヤが叫ぶ。

「追いかけるって言っても、ヤツが何処に行ったかなんて分かんのかよ」

 ヒースが言うことも尤もで、ナユタが飛び去って後を追尾するにも距離が開き過ぎている。

 ユーリは思考を巡らせた。

『こいつ、腹に一物ありだ。何かやらかす気だぜ。気をつけろ』

 ルキの忠告が脳裏をよぎる。

 ナユタのこだわり。腹の底に溜めたわだかまり。

 母を殺した、村人たち。

「そうだ、ナユタが生まれ育った村、アルテイシアのスルジェ村がナユタの目指す場所だ! ナユタの恨みの対象は、母を殺した村の人間たちだ。あの村に復讐しに行ったに違いない」

 ユーリは閃いた。ナユタを突き動かす原動力は、母を奪われた恨み、ただ一つだ。

「アルテイシア? こっから列車でも二日、三日はかかるぜ」

 どうすんだよ、とヒースがユーリを焚きつける。

「任せろ」

 ユーリは立ち上がると、『同胞』の名を呼んだ。

「出でよ、『アマルガム』」

 光が立ち上り、そこに小型の飛竜が姿を現した。

「これの背に乗んのか?」

「そうだ」

 ヒースの問いに答えながら、ユーリは真っ先に『アマルガム』の背に乗り込んだ。続いて、ユジュンを抱いたイリヤが、テンが、乗る。ヒースは最後にテンに手を引っ張られながら乗り込んだ。

「せめぇな」

 ヒースは文句を言うが、本来飛竜は大人二人を乗せればいっぱいだ。そこに大人一人と子供が四人も乗るのだから、ぎゅうぎゅう詰めなのも当然だ。

「行くぞ」

 飛竜がまさに飛び立とうとした、そのとき、イドが中央広場に駆け込んできた。

「おまえら、何やってんねん!」

「イド! 帰ったら、全部、話す」

 イドはこの件の関係者だろうが、今は時間が惜しい。イリヤが声を張り上げる。

「イドさん、クーガーの死体の面倒、よろしゅう頼んます」

 テンも声を張った。

 飛竜は上昇する。バタバタと羽を羽ばたかせ、やがて直進した。

 陸を越えて、海に至った。飛竜の滑空は不安定で、腹が海面に水切りのようについて、海水が跳ねた。

「もっと、高く飛べねぇのか!」

 ヒースが、がなる。

「定員オーバーだ! 気張れ、『アマルガム』!」

 そのユーリの言葉に奮起したのか、ゆっくりとだが『アマルガム』は高度を上げて行った。




ORATORIO (E)SCAPEというタイトルについてですが、本来ならこの後にgoatがつきます。

もとより、scape goatはescape(逃げる)とgoat(山羊)を合わせた合成語です。やがて「e」がとれてscapeになった、と。隠された11番目のセフィラ(ダアト)だった、ユジュンとナユタを当てはめてEをカッコでくくったんです。それがタイトルに込められた意味。つまりは、

オラトリオ→聖譚曲→ルキの計画

エスケープ(ゴート)→贄の山羊→ユジュンとナユタ

を指しているのです。

英字のタイトルはダメというタブーを破ってでも付けたタイトルです。

分かって頂けたでしょうか。

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