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カリフォルニア・ロールド・ハロウィン後編

元号が!変わっている!去年のハロウィンに間に合うように書き始めたはずなのに・・・

後編です。どうぞよろしくお願いします。

『上がってきたぞ。企業連のウィザードだ数16、いや20!』

一体型モノクルディスプレイの骨伝導フォンから地上のオペレーターが伝えた。

「了解。シンドリー、ヒューブは隊を率いて降下。俺たちロイド隊は会敵後ツーマンセルで散開。総員戦闘態勢!」

『ロイド1了解』『ロイド5了解』

「数はトントン。行くぞ!死者の行進だ!」

 現実には存在しない仮想粒子の青い輝きが夜空に18本の線を引く。黒ずくめのローブにカボチャ頭、古びた箒に跨るその姿は典型的な魔法使いだ。それこそ一種の笑いを誘うほどに。

 ブゥン…と鈍い音を立ててジャック・オ・ランタン型ヘルメットの両目に魔術の火が灯る。

 5㎞ほど先の企業連側もこちらを確認したのかレーダーに反応する魔力係数が跳ね上がった。

 折しも月明かりのない闇の夜である。漆黒のローブがその体を覆い隠し、ロイド隊の6人はまさに飛行するパンプキンヘッドとなって夜空を流星のように進む。

 ジュッ!ジュッ!ヒュンヒュン!と閃光がはしり、いくつかは弾け、いくつかは稲妻の軌跡を残して消えた。

「情報通りか。奴らいい装備してやがる」

 いまだ数キロ離れた地点からの狙撃に散開するロイド隊もそれぞれが古式の杖を構えた。

「…ラトニング・ボルト!」

 極短詠唱とともにロイドの杖から稲妻の弾丸がほとばしる。短い詠唱時間であったが彼我の相対速度はかなりのものだ。数瞬のうちにもはや1㎞の目前まで迫った企業連の魔術師の影をバチバチと炸裂する雷光が照らした。

 企業連の薄青の障壁がロイドの雷を防ぐ。闇夜に照らされたその姿はさながら機械化された特殊部隊のようだ。

 全身に漆黒のアーマーを纏い、その手にした魔術式携帯レールガンの砲口はまっすぐにこちらを向いていた。

 敵魔術師がゆらりと視線を向ける。のっぺりした最新鋭の対魔術ヘッドギア越しに視線が合った気がした。サイコロの目のような5つのセンサー・アイが嗤いかける。

「ッ!」

バチバチッ!とロイドの障壁がこれまでになく大きく揺らいだ。直撃弾だ。だが、予想に反して動揺を見せたのは敵側の方だった。

「そのオモチャは効かないぜ」

 ロイドは冷や汗を流しながら首から下げた反発磁界タリスマンを確かめる。

 情報通り敵のレールガンの弾丸はニッケル-タングステン合金のようだ。大方米国OEMの対戦車用レールガンを「どこぞの企業」が携帯用に再設計したものだろう。

 本来は発電機付きの運搬車両で運用される代物だ。それを無理やり携行用に再設計したところであくまで実験兵装の域を超えない。

 当然実用に足るはずはない…のだが、そこからが魔術の出番だ。

 威力も出力も足りない実験兵器に雷撃魔術「ライトニング・ボルト」を上乗せすればこの通り。数キロ先から魔術障壁を揺るがす超兵器の誕生である。


ギュアッ!

 ヘッドギアに内蔵された高感度微小脳波センサと戦闘予測AIによって大脳インプラント無しにトリガが引かれる。

 ニッケル‐タングステン合金の弾体が重金属プラズマ炎を引いて夜空に超音速の線条を刻む。

 企業連に支給された新装備、携帯型サーマル・レールガンの反応は上々だ。

 バレルロールを繰り出すロイドの脇をレールガンがかすめる。あれを躱すか。企業連の魔術師は「ほう」とため息めいた称賛を漏らした。

 ハナビシ重工謹製のヘッドギアに表示される予測射撃線はそう悪くない。だが、最初の一発以外直撃していない。

「何かタネがあるな」

 企業連の戦士はレールガンを構えたままHMDを魔力操作し、数秒前の敵軌道をハイスピード解析にかけた。

 会敵した魔術協会の術師の機動は良い。良く動く。実力も並ではないだろう。今回の協会側の越権行為は本気と言うことか。

 だが今はそれ以上に注目すべき点がある。内蔵AIによってハイスピード再構成されたコマ送り動画を見るに、僅かではあるがレールガンの弾体が着弾ギリギリのところで弾かれているのだ。

「何らかの加護か」

 そう判断したフルアーマーの魔術師は協会側の魔術師の中で一際鋭い飛行を見せるカボチャ頭に苦笑した。

 ロイドと魔術師の視線が交差する。そして、企業連の手練れはつまらぬ仕事で出会えた思わぬ強敵の存在に感謝した。

「楽しいな!これだから!」

魔術師は戦場に生きる者。日常に戻れば恨みっこなしの殺し合いが本分だ。空中機動のさなか、企業連の戦士はジャックナイフめいた軌道を繰り出し、反動で砲身をガチャリと折りたたんだ。


 単純に腕がいい。ロイドはカボチャ頭の中でひとり舌打ちした。

 これだけの高速戦闘で防御を要する至近弾を平気で当ててくる敵はウチの魔術協会にもそうは居ない。

 反発磁界タリスマンも元々は米国で開発を打ち切られた実験兵装だ。

 強磁性体であるニッケルに反応してレールガンをはじき返す…そういう子供じみた空想の果てに作られたものの、解決できない出力不足と精密機械との致命的な相性の悪さで開発中止になった失敗装備。

 

 魔術の強引さがその本来の運用法を可能にする。


 サルベージされたこの技術兵装が、今後の対魔術レールガン戦の基本装備となるだろう。

 一撃必死の弾丸が飛び交う中で涼しい顔をしていられるのもこの手のひらサイズのデバイスのおかげだ。

 だがそう何度も直撃弾を喰らう訳にはいかない。ロイドのタリスマンは今や隠し切れない熱を帯び、HMDのインジケーターに表示される負荷は75%を超えていた。

((あのサイコロ⚄目のヘッドギアの中身は知った顔かもな。))

 ヤマキかソーイチか、あるいはどこかで一緒に仕事をしたやつか。弾速の問題もあるだろうが、相手の攻撃は至近弾を繰り返すのに、こちらの雷撃は初撃以来かすりもしない。

 魔術協会側のネタは割れているとは言えこうも一方的なのはいただけない。ただ・・・

((見回すに強いのはこいつだけで、他は大したことはなさそうだ))

 各隊員の反発磁界タリスマンの負荷率を見るに落とされもせず落ちもせずといったところか。あ、敵が一人逝ったな。

 反発磁界タリスマンに痺れを切らした企業連側の一人が突撃したところに、こちらの隊員が飛び蹴りを喰らわせて撃墜しているところだった。

 大方やんちゃ坊主のレヴィン辺りだろう。体操の鉄棒めいて空中に固定された箒から大車輪のごとき軌道で繰り出す強烈な飛び蹴り。あれは魔法と呼んでいいのだろうか?

 特撮ヒーローキックを喰らった企業連の魔法使いは体をくの字に折り曲げ、闇夜に墜ちて行く。

 味方を落とされた企業連のペアはレヴィンの箒への着地を狙わず、落ちていった味方の救護に回ったようだった。

 じわじわと数を減らす企業連側に対し、こちらはまだ誰も落とされてはいない。戦況はこちら有利に傾いて来ている。


 ロイドは左方の攻防からチラリと視線を戻す。企業連の手練れは・・・居ない。


((しまった!奴はどこに!))

ふと味方の攻防に気を取られた一瞬、ロイドは自分が相手にしていた企業連の戦士を見失った。そして次の瞬間、視界の端に流星のような光を見た。


 企業連の手練れは討ち取られた味方の姿を見る。そして、ロイドが一瞬、自身から目を離したことに気付く。

 ヘッドギアの奥に潜む目が猛禽のように細くなった。

 グンッ!とまるで壁にぶつかったかのような急制動、そして空を蹴りつけた急上昇。

 ジャックナイフめいた反動を利用してレールガンを折りたたむ。協会の魔法使い「レヴィン」がこちらに気づく。

((遅い))手練れは短く噛みしめるように呟いた。

 ランタンヘッド越しにも分かるレヴィンの敵機撃破に浮ついた顔、漆黒の戦士の接近はその歓喜の顔を一瞬で恐怖に塗り染めた。

 ソードオフ・レールガンの穂口に火が灯る。

「焔加槌《 ほむらかづち》!」

 企業連の手練れの声がリンと無音となった虚空に響いた。まるで刀を抜き放つかのような動き。手練れはレールガンを振り抜いた。


((まずい!あれは、あの構えは!))

 その数瞬前、ロイドは遠隔操作でレヴィンの反磁界タリスマンを最大出力で起動した。焦りがどっと滝のような汗となって吹き出す。もはやロイドにはうっかり敵を見落とした失態を気にする暇すらなかった。

((間に合え!))

 ギュオオオッ!と常人が耳にしてはならない音が夜空に響く。ロイドが見失った企業連の手練れは一瞬のスキをついて標的をロイドからレヴィンへと切り替えた。

 思わず目を背けたくなるような輝きを放つプラズマブレードが振り抜かれる。全開の障壁をあっけなく砕かれたレヴィンは、恐怖の悲鳴を上げる間もなく、夜の帳に吸い込まれていった。

「チッ」

 ロイドは思わず舌打ちする。レヴィンの反発磁界タリスマンは一瞬で焼き切れた。なんて奴だ。

「蹴りに刀に!どいつもこいつも!魔法を使えよ」

ロイドは毒づく。

 レールガンは原理上、弾丸を発射する際に高温のプラズマを生成する。本来は銃口から力なく放出されるだけのイオンを、どうやら奴は、企業連の戦士は何らかの魔術で留めて剣の形に生成したらしい。

 ゆるりとこちらを向く企業連の・・・あの太刀筋はソーイチ?いやシデン・スタイルか。とロイドは嘗ての記憶を頼りに判断する。

 紫電の剣士とロイドの視線が再び交差した。剣士のレールガンから緩やかにプラズマの輝きが失せていく。恐らくは仕様外使用だからだろう。光剣の持続時間は短いらしい。

 そもそも銃器を無理やり剣として使うバカがどこに居る?思いついてもやらぬぞ、普通。

 ザッ!短いノイズとともに協会側の司令部から通信が入った。

『こちらHQ、ロイド。聞こえるか?』「ああ」ロイドは短く返す。

『お前にしては手こずっているじゃないか』

「シデン・スタイル使いが居る。日本人は本当に剣がお好きだ」

『そうか』「戦況はこっちがいいはずだ」

 タリスマンは冷却済み。負荷率はグリーンまで低下している。これならば、あのプラズマ剣の一撃ぐらいは耐えるかもしれない。

『王女殿下がお怒りだ』「・・・そうか」

 事情を察したロイドのこめかみに焦りが浮かんだ。ヴィクトリアの状況を察するにどんな仕打ちが待っているか・・・今からでも胃が痛むようだった。

「地上部隊は?」『健闘している。が、地の利は向こうにある。術式への干渉が始まった。すまないが早めに合流してくれ』

 やはりかと、ロイドは生唾を飲み込んだ。

 チラリと漆黒の面を見やる。宙に座すその顔はロイドに何も語りかけない。勝てるだろうか?他の雑魚どもと違って此奴はホンモノだ。

 「了解」と返すロイドの視線の先にたたずむ紫電の剣士は、終わったか?とでも言うように首をかしげて見せた。

「ああ。第二ラウンドだ!」


 湿っぽい高架下、ロイドは一人ため息とともに紫煙を吐き出しながら歩む。ついと使い魔が差し示した屋台に滑り込んだロイドは一言「熱燗」と頼んだ。

「ああ。ロイドさん。お久しぶりです」

 短髪の好青年が酷くくたびれた様子のロイドに声をかけた。

「よう、ソーイチ」

 言いたいことはわかっているな?とロイドが言い終わる前に、ソーイチと呼ばれた青年は懐鞄から「かぼちゃの煮つけ」を取り出した。

「それと」と包みを一袋、ロイドに手渡した。

「すいません」

店の中で持ち込み料理のやり取りをしたソーイチは屋台の店主に詫びの会釈をした。

「いーよぉ」

と店主は快く返す。


ロイドは少し混乱した。


「父からです。楽しい一局だった、またお手合わせしたいと」

 この野郎!と怒鳴りかけた声をロイドはため息に変えて吐き出した。

 ロイドはてっきり先ほどの死闘の相手がこの目の前に座る青年だと思い込んでいたのだ。

「・・・なるほど。こっちはもう遠慮したいね」

 落ち着いてみればソーイチの魔力は一戦した後にしては乱れが少なすぎる。

 先ほどロイドが相手をした企業連の手練れ、シデン・スタイル使いの剣士はどうやらソーイチの父、と言うことらしい。

「大規模な騒動だったと聞いています」

 ソーイチが切り出した。

「はぁ」

 とロイドはため息をつく。

「まあなんとかかんとかってとこだ。式自体は成功したが、あれじゃ本来の4割も効果をしないだろう」。

 企業連の攻撃部隊は陽動。

 本命は日本の陰陽連のサポートを受けた術師による「ハロウィン殺し」の改竄だった。

 なんとかソーイチの父達、企業連部隊を追い払ったロイドたちが地上部隊に合流して術式を発動させた時には既に、ヴィクトリアが編み上げた式の2割が蚕食されていた。

 発動はしたのだ。遠隔召喚のリソースとしてこの国の魔力を使うことは出来なくはなっただろう。

 しかし、当初の予定通り「この国のハロウィンを殺す」ことは到底かなわない。せいぜいバカ騒ぎしようと立ち上がれば少し気だるくなる程度だろう。

「へい!熱燗!」「ドーモ」店主からロイドは左手で酒を受け取った。

「・・・そこまで話していいんですか?」

 魔術師は秘密を守るもの。つい先ほど参加していた作戦の結果を部外者の、それも少なくとも企業連側の縁者へ漏らしたロイドの姿にソーイチは驚いた。

「もともと俺はフリーだ。それに魔術協会もさっきクビになった。守秘義務とやらも無効でいいそうだ」

 ロイドは肩をすくめる。自信作の術式を穢されたと憤ったヴィクトリアはその怒りのまま本国へと帰国してしまった。

 最後の最後にクビを切られたロイドは結果として、協会側の打ち上げにも参加できず、かといって国へとんぼ返りする気も起きないでいた。

 手持ち無沙汰になったロイドは責めてもの八つ当たり先として、紫電の剣士、ソーイチを探していたと言う訳だ。

「結果は散々。お前の親父さんにもからかわれるし。」ロイドはかぼちゃの煮つけを一切れ頬張る。

「骨折り損のくたびれ儲けって訳だ」

 ロイドはローブの中から包帯とギプスでぐるぐる巻きになった腕をソーイチに見せた。

「ハンドレールガンは仮にも精密機械だぞ。ソレで殴りつけるってどういう神経してるんだ?」

「はは・・・うちの親父らしいですね。」

 とソーイチは返す。

「きつく言っておいてくれ。」

 そう言ってロイドは席を立った。

「奢ります」と言うソーイチに軽く頷いたロイドは右手からギプスを取り外し、店主に会釈した後、指先の感覚を確かめるかのように右手で暖簾を押し開いて夜の街へと出た。

 急速再生の骨痛はかなり引いていた。


 ソーイチがロイドに渡した包みの中身はカリフォルニア・ロールだった。

 どうやら、執務官の話も筒抜けらしい。

 あるいは、あの執務官が「今回ばかりは協会側も本気だ」とソーイチの父に泣きついたのかもしれない。

 後で聞いた話では、このカリフォルニア・ロールは日本人がアメリカ人に合わせて作ったものらしい。

 これはこれでうまい。と、手巻き寿司を齧るロイドの姿は、再び闇夜の中へと溶けて行った。

可能ならばあと数本リハビリで書いた後に長編シリーズに戻れればと思います。

可能ならば・・・

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[一言] 2年以上更新に気づかなかったとは…… 重厚でスタイリッシュ、こういった文体が再評価されている気配もありますし、執筆意欲発表威力は、保たれていてください……! 日本におけるハロウィン騒ぎの元…
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