いつの世も変わらない英雄譚のその後 筆:遊月奈喩多
とうとう8話目……
今回は少し過去の話が多め?
爺さんに連れられた巨大な壁の向こうにあった楽園のような世界で、俺は「猿」と呼ばれるおっさんに出会った。そして、なんと爺さんこそが桃太郎だったことを知ることになる……! っていうか、マジすか爺さん。じゃあ、ここって俺が知ってる童話の『桃太郎』から何十年も経った後の世界ってことか?
す、すげぇ……。
あんな昔々な雰囲気たっぷりだった世界が、たった数十年後にはこんなスチームパンク顔負けな世界に変わっちまうってことかよ? 圧倒されながらも、やっぱり爺さんと「猿」とかいうおっさんの会話には気になることが多過ぎた。
爺さんのネーミングセンスが壊滅的なのは俺のエターナルフォースブリザードって名前からも明らかなんだが、「猿」が言うには麗刃って名前がかなりまともな部類だったとか、そういうこと。
それってさ、爺さんがその名前をつけたってことだよな?
麗刃。
今この世界を覆っている鬼化ウイルスOGREを発生させうる唯一の鬼として名前が挙がっている純血の鬼。そもそも、この麗刃の呼び方には、ある可能性があるように感じた。もちろん、OGREに感染して鬼になった人々との区別とした呼び方でもあるんだろう。
けど、純血といわれると、もうひとつの可能性だって考えられる。
この世界には、純血だけでなく混血の鬼もいるんじゃないか――そういう可能性だ。いたからどう、というのは具体的にはわかりようもなかったけど、なんかこう……俺が前にいた世界ではそういう物語とかあったりしたから。
ちょっと普通の人間と違う能力持ってたりとか、そういうのってなんか憧れねぇ?
――なんていう俺のモノローグなんて歯牙にもかけず、爺さんと「猿」は会話を続けている。何やら思い出話に花が咲き始め、俺たちがここに来たときに爺さんに絡んできた子供たちのひとりが虫を捕まえただとかそんな話にもなり始めた。飽きた俺が赤ちゃんらしくぐずりそうになったとき、猿が口を開いた。
「それにしても、マスターがここに来たってことは、マリアちゃんはもう?」
「――――、」
爺さんも、少しだけ辛そうに黙り込む。
といっても、短い間だけでも一緒にいたからか、なんとなくわかる。爺さんがほんの少しでも辛そうな素振りを見せたときは、その時点でかなり――月並みに言えば張り裂けんばかりに辛い状態なんだろう。どうやら猿もその辺りをすぐに察したらしく、「不躾なことを言いましたね、申し訳ない」と詫びを入れていた。
「いや、決まっていたことが幾分か早まっただけのことだ。お前が気にすることじゃないさ」
少し寂しそうに、爺さんは言った。
そんな状態でも相手を気遣うようなことを言うその姿に俺は、やっぱりなんだかんだで英雄だったんだろうな、と思わずにはいられない。それよりも――と、爺さんは深い溜息と共に首を振った。なんだろうか、心労なのか何なのか、一気に10くらい老けたように見える。
「お前はさっき、俺があの鬼退治をしたことで数十年平和になったと言ってくれたな。たが、本当の意味での平和なんて訪れてはいなかったよ。俺が打倒しようとしていたのは、人間に敵意を持って、他の民にもその敵意を持つように煽動していた一部の鬼だ。それは、あの旅の中で言ったな?」
「えぇ、あっしはそんなマスターの心意気に惚れて今までお仕えしてますからね。犬のやつもそうですし、きっと雉だってそうだったに違いないですよ」
「あぁ、俺自身もそれを実現できると信じていた。俺は、どちらかが上に立つだとかそういうものを繰り返しているこの世界を変えたかったんだ。いつしか手段が目的に変わっていたって、そこは揺るがずにいたつもりだ。それでもな、何も変わらなかった」
それから爺さんが語ったのは、俺の知る桃太郎の華々しい英雄譚のその後の現実。
鬼退治によって煽動者を一掃しようとした若き日の爺さん――桃太郎。
彼らはそれによって桃太郎が旅の中で思い立った「人間と鬼の対立のない世界」を実現したかに思えた。けれど、結果から言えばそれは叶わなかった。
桃太郎からの報告を受けた当時の政府高官たちは、約束していた政治的和解に先立つ準備という口実で、指導者の大半を失ってまだ混乱がやまない旧鬼ヶ島に侵攻したのだ。
ひとりひとりが超人的な力を持っていた鬼たちも、コミュニティが壊滅状態になっていたゴタゴタと、それから強い経済制裁や国内情勢の混乱によって疲弊していたところを突かれてほとんど無抵抗に近い形で捕縛されたのだという。そして、それから始まったのは、それまで鬼が人間にしてきたのと同じような暴虐の数々。俺が予想していた人間と鬼の混血も、その流れでかなり行われたのだという。
…………聞いていて胸くその悪い話だった。
望まない形で進んだ事態を、桃太郎はどう思いながら見ていたのだろう? 英雄の名の下に行われる暴力は、歯止めがきかなくなりやすい。いつの時代も、きっとそれが多数に迎合する人間のサガってやつなのかも知れない。そこに、英雄自身の意思は関係なくなってくる。
なんだろう、もちろん俺は元々はこの世界の人間じゃないからなんとも言えない部分はあるけど、今起こっている災いは人間に対するなんらかの罰なんじゃないかとすら思ってしまう。もちろん、爺さんみたいにそれで大切な人を喪った人だっているわけだから、そんなことを言うわけにはいかないけれど……。
けど、鬼を追い詰めた人間が今度は追い詰められているこの状況は、何か因果めいたものを感じずにはいられなかった。
話は終わり、その最中に何度か『桃太郎』や人類をフォローしていた猿も黙ってしまった頃。爺さんは「だから、今度こそ」と呟いた。
「今度こそ俺たちは作らなくてはいけないんだ、争いのない世界を。OGREの根絶と、鬼との間の争いの平定。この戦いを、人類最後の戦いにする為に」
爺さんの瞳に、決意の火が灯るのがわかった。
だからこそ、不屈。
だからこそ、無双。
だからこそ、英雄。
桃太郎は再び立ち上がったのだ。今度こそ、平和を取り戻すために……!
ん、おいちょっと待ってくれ。
これ爺さん主人公じゃないか?
おーい、俺! 俺!
異世界転生って、したやつがモブになることあんの?
桃から生まれて、氷系の奥義使えるよ、俺!?
「もちろん、エターナルフォースブリザード。お前もだ」
忘れてたと言わんばかりに俺に呼び掛ける爺さん。
いやそれ、完全に主人公が躊躇してる仲間を引き入れるやつじゃねぇか!
がんばれ、エターナルフォースブリザード!




