不可侵の大地を踏む 筆:遊月奈喩多
6話目に突入しました!
OGREウイルス、純血の鬼・麗刃。
閉鎖されたナパージ。
数々の秘密が露になってくるなか、物語は進みます……!
爺さんが見せた涙に思わず感極まりながらも、旅の方針は決まった。
鬼化ウイルス――OGREについて何か知っていそうな純血の鬼、麗刃を捜すこと。そして、その前に爺さんが信頼しているやつがいるという、北の地域に向かうことにした。きつくない程度に調節してあるおんぶ紐――けっこう悪戦苦闘しているようだった――でしっかり俺の身体を固定した爺さんは、どこか不気味な鳴き声がそこかしこから聞こえる森の中をヒョイヒョイと歩く。
すっげぇな、俺がいたところも、いわゆるコンクリートジャングルなんて揶揄されるような場所だったけど、自然のジャングルを見ると、ボロニアとポークビッツくらいの差がある。
時々現れる獣を狩ったりしながら、爺さんは俺にまだ色々話をしてくれていた。
「人間といわゆる鬼たちは、俺が生まれるよりも前はそれなりに共存していたみたいだ。パワーバランスがうまくとれていたかららしいが、なんとかやっていた。その頃はまだ、旧鬼ヶ島もそのまま『鬼ヶ島』という名だったってことらしい」
爺さんの話も、相当前の記憶を遡ったものらしく、少しうろ覚えな部分もある――と前置きされた。ただ、鬼ヶ島の名前が変わったきっかけは、もはやこの世界の人類史に刻まれるような出来事らしい。
きっかけはなんなのか、それははっきりとは伝わっていないらしい。ただ、ある出来事があって鬼が危険視されることになったのだという。一般的には、鬼の青年が暴力沙汰で尋常じゃない被害を出したことでナバージの世論がすっかり鬼ヘイトに傾いたということになっているが、爺さん曰く「調べれば調べるほど実像が見えなくなる事件」だったらしい。
そうやって高まった熱のまま、鬼は迫害されて、追いたてられて、最後に追いやられた僻地――『鬼ヶ島』でほぼ絶滅して、「鬼はいないから」と『鬼ヶ島』の名前もなくなったのだという。
中には人間に対する恭順の意思を示すことで生き延びたものもいたというが、結局はそういうものもいなくなって、今残っているのはOGREを作ったと思われる麗刃だけ。
「マリアの感染以来あの辺りからは遠ざかっていたから、いま旧鬼ヶ島近くがどうなっているかはわからない。だから、準備はしておくに越したことはない」
……という話を、木の間を伝う蔓草に掴まったりしながらしてしまえるところに何か常人ならざるものを感じるなぁ、爺さん……。なに、若い頃ジャングルの王者だったりしたの?
「そのために、まずここに来る必要があったんだ」
そういう爺さんに釣られて前を見ると、そこには巨大な壁が聳え立っていた。……いや、デカすぎないか?
その壁は、どこまでが壁なのかわからないくらい高かった。
爺さんがすぐ傍にたっているからなのかわからないが、壁を境に空がまったく見えない。ありふれた言い方をすれば、天にまで届きそうな高さだった。それに、横幅だって、ほんとどこまで伸びているのかわからない。
ナパージを横断しているんじゃないかと錯覚してしまうような、巨大な壁だった。
そんな大きさのものが、どうして目の前に来るまで見えなかったんだ?
俺の疑問に爺さんが答えるよりも先に、壁から声が聞こえた。
『認証コードを入力してください』
無機質な、機械じみた声。どこから聞こえてるのかわからないようなその声に、爺さんは事も無げに5桁の数字で答える。
『認証しました。おかえりなさい、人類最後の砦へ』
な、なんだ? なんかすっげぇ物々しいこと言わなかったか!?
一瞬そうも思ったが、風圧による洗浄室や消毒部屋など、数々の設備を見るにつれて、そして爺さんのしてくれていた話を聞くと、そういう名前も仕方ないことなのかもしれない、と思った。
外の国々から切り離されたナパージ国民にとっては、OGREに汚染されていない地域というのはきっと最後の砦なのだろう。
「エターナルフォースブリザード、心しておけよ」
壁の中にある検査施設を出る直前。爺さんが、不意に俺に声をかけてきた。え、いったい何を警戒すればいいんだ……? ていうか赤ちゃんが自力で警戒できることってたかが知れてるよ、爺さん……!
俺のそんな気持ちは伝わってくれたらしい、爺さんは「安心しろ、大したことじゃない」と笑いかけてきた。おっ、なんか新鮮だな。
「壁の向こうは、今までいた場所とはかなり違う。驚くことになると思うから、心の準備をしておくことだ」
え、そんなに……?
少しだけ不安になってぐずりそうになりながら、壁の外の景色を見たとき。
あまりの驚きに、涙どころか、呼吸まで止まりそうになった。
あっ、魔法を登場させてない……!
そして、壁の向こうに広がっていたのは……
次回に続きますっ!




