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MOMOTARO - legacy -  作者: 遊月奈喩多
Chapter4.不滅の英雄は立つ~Hero~
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いつか合流できる日まで。 筆:月輪あかり

「なにが起きてるんだ……?」


 焦燥に満ちた顔を歪め、苦痛に呻きながら俺の反応を待ち望むゴウガに頭がぐっちゃになる。

 は? なんでキジが裏切るんだ?


 あ、あいつは、爺さんの仲間だろ? カグヤの知り合いだろ?

 俺たちに、薬をくれたじゃないか。



「俺が……俺がいない間に、何があったのか……っ……」

「大丈夫か?」

「ぁ、ああ……あとで、聞かせろ」


 だめだ、頭が回らない。

 戦闘の連続に疲弊しきった身体が、休息を求める。


 ふらふらとしたまま木を背もたれにするよう崩れ、生み出した氷を熱い頭の上に乗せて冷ましながら。


 神経が灼けるような感覚だ。肢体の末端にかけてビリビリとした痛みが残り、深呼吸するたびに遮断していたはずの痛覚が息を吹き返す。


神性領域オーバーロードです。桃太郎』


 カグヤが言った。


『先代の桃太郎がそう名付けました。彼と、そしてあなた。同じ出自をする二人の桃太郎にしか許されない、生命を超越する異端の力です」


 ……いつか聞いたことがある。

 桃ってのは不老不死の象徴らしい。桃源郷にはその名の通り桃があるって言うだろ、人類の楽園に植えられたその果実は、人類が長らく追い求めたその象徴。秘宝なんだ。

 昔話の桃太郎だって、婆さんが拾った桃を食べた爺さんが若返った姿だって説もあるくらいだしな。


『人には、強い恐怖や死を覚悟する瞬間に、まるで世界が緩やかに思えるという現象があります。視界の精度が高まり、体感時間が延長され、脳の処理能力は計り知れないほどに加速する、人の可能性が』

「神経拡張……」

『人には、冷静でいられないほどの状態に陥った時に現れる制御した筋力の解放があります。追い詰められた状態から、普段二割から三割ほどしか使わない力を十割扱えてしまう、そんな人の可能性が』

「筋力、増強か……っ」

『人には、痛みというものがあります。生きるために必要な警戒心を煽るためのものであり、生存性を高めるためには必要不可欠の感覚ですが、その枷を敢えて解き放つことにより選べる選択肢や、覚悟があるのです』

「……痛覚遮断。じゃなかったら、人に無理なんてできるかよ」

『はい。ですがその全ては、生命の崩壊に繋がる要因です。人は痛みがなければ死の淵を理解できない。人が普段の力に制限を掛けるのは筋肉を壊さないため。そして、余りにも間延びした感覚は元に戻ることができず、永久に囚われた植物人間のようになってしまう』


 だが、だが、違う。


 にぎにぎと動かした指の感覚は確かだし、ブレていた視野は徐々に定まる。蘇った痛覚は苦しいが、生存を実感させてくれている。


『先代の桃太郎の真髄は、全てここにあるのですよ、桃太郎』


 爺さんの攻撃の全てが思い浮かぶ。あの速度、あの攻撃力。それは全て、神性領域オーバーロードによってなされていたのだと。


 何も俺の挙げたこの三つが全てだと思わない。爺さんのようにカグヤなしで発動できるほど使いこなせる気もしないし、こんなに反動がきついなら二度目だって使おうと思える日は来ないかもしれないが。


『桃から生まれた選ばれし人。あなたの生命力は、無理をしてこその真価がある』

「………」

『先代は常に身を賭して英雄となりました』

「……がんばるよ。俺だって」


 深呼吸する。

 ひとまず、目の前の問題に立ち向かおう。


 ◆ ◆ ◆

 

「――夕餉を食べることになったんだ。あの子供が目を覚ました途端、腹が減ったって騒ぎ出したから」


 十分ほどの休息ののち、洞窟に戻ってから。

 つらつらと語り出したゴウガを尻目に、焚き火のところにあった小さな鍋にはその残り物が残っていたみたいで、腹が減っていた俺をそれに手をつける。


「おかゆというのか、キジは慣れた様子で作ってくれたよ。俺と、えっとラン。熊太郎も、みんな食べていたよ」

「美味いなこれ」

「――でも、あいつ何か仕込んでたみたいだ」

「おおおおおい! もっと早く言えよ!」


 食べちゃった! 食べちゃった!

 こいつ確信犯だろ! わかってて黙ってただろこいつ!

 ペッペっとすでに呑み込んでしまったそれを吐き出すこともできずにしていると、ゴウガはすぐに苦笑しながら訂正をいれてきた。


「ごめん。正確には俺一人だ。毒なのか、あるいは睡眠薬だろうけど、俺は耐えれなくて。うっすらとした意識のなかで、俺にだけそれが仕込まれたんだろうなってのは会話があったから気づけた」


 ……ゴウガだけを?


「なんて言っていたんだ?」

「そこまでは聞き取れない。おぼろげな意識だし、ただ俺だって鬼だ。マスターの元で育てられ、最後の鬼としてそういう訓練は積んでるから、すぐに眼を覚ましては奴に言った。何をしたって」

「おう」

「ただ、気づいたらそこには大きな怪鳥が一匹いて。たぶんあいつが呼んだんだろうな、二人を乗せて、ちょうど去ろうとしているタイミングだったんだ」

「………」

「目があったよ。だから聞いた。でもあいつは何も答えない。答えないどころか、俺に攻撃してきた。銃よりも早い羽根を飛ばして」

「ランと熊太郎はどうしてた?」

「見えなかった。だけど――だけど、おかしいだろ。とりあえず止めなきゃって、調査に行ってくれてるお前たちがいるのに」


 なにか。なにか違和感がある。

 それがなんなのかはわからないけど、キジが悪だとも、ゴウガが間違ってるとも思えない。

 情報が少ない。


「そういえば、なんで狂鬼化してたんだ? お前の能力ってどういうやつなんだよ」

「ん? え、ああ……あれ、なんで俺は……?」


 先ほどの状態に、正気があったとは思えない。それこそ今目の前で呆然と尽くしてるゴウガが証明だ。

 たしか、たしか、桃源郷内でこいつが暴れたときはミヤが操っていたんだったか?

 ミヤは死んでいる。死体は朽ちて消えていたはずだ。


「俺は自分で制御できない。必ず誰かが引き金を引くんだ」


 じゃあ誰が?

 んん、まて、ちゃんと当時を思い出せ。


 桃源郷内にゴウガが突如として現れ、それに続くように屋上へ俺らを呼んだバロルは、確かこういったんだ。

〝マスターの命令だから逆らえなくてね。正しく、転移させたのはおれだ。そしておれだって不本意だ〟

 と。いつもヘラヘラしてるくせに、真剣な眼差しであいつは言ったんだ。


 なら、狂鬼化させたのはマスターか?

 だが一度は沈静化したのに、カラスとの戦闘中に再度目を覚ました時があるから、カラスである可能性も――いや、あの時ゴウガは一度たりと元の姿に戻ることはなかった、狂鬼化が継続していたものだと考えて、カラスである線は薄い。


 マスターは誰だ?

 浦島校長だろうか。でも、浦島校長もすでに死んでいる身。

 だったら誰が? まさか麗刃はここまで介入できるのか?


「俺は……大丈夫なのだろうか」

「………」


 正直リスクしかない。根が良いやつなのは認めるが、それにしたって不安定が過ぎる。


「少し一人にしてくれ」

「ああ……ちょっと、滝に当たってくる」


 洞窟を抜け、バシャーンと川のなかにダイブしていった大男を見送りながら。


 考えろ、時間がないんだ。

 人手が足りないのは事実だ。事実だが、このまま旧鬼ヶ島へと向かうとして、こいつを連れてって大丈夫なのか?

 くそ、答えが出ない。


 ぐるぐるぐるぐると洞窟内テントを歩き回る。

 キジの野郎がいらついて仕方ないな。

 どうする?

 と。


「……あん?」


 テントの裏に凝縮した空気の塊を感じた。

 目線の高さにできているそれは壁のようだが、何かおかしい。文字? 文字なのか?

 不可視で見えない。

 ……凍らせるか。


「これランのだよな……」


 徐々に凍結し、霜が寄り集まってその空気の塊に輪郭を生む。明確にそれが文章であることに気づき、ヴァルハラ・アスガルドで国語を学んでおいてよかったと思いながら。

 たしかにそれは、ランの残した置き手紙のようだった。


〝鬼のいる前で読まないこと。――安心して、エタくん。私は無事だよ、熊太郎くんも、キジさんも味方だから大丈夫〟

「……っ」


 鬼ってのは、ゴウガだよな。


〝まず第一に、君たちがいない間に行動に移したのは情報源を減らすためだそうです。本当はこうやって置き手紙にしてエタくんに知らせるのもダメらしいんだけど、心配するだろうから〟

「………」

〝私は今から麗刃を切り離すためにキジさんと安全な場所へ行き、治療します。熊太郎くんは着いてくって言うので、クマさんが心配しているようだったら安心してくださいと伝えてください〟

「もうそのクマもサンもいねぇんだよラン……」


 悔しい。ぎゅっと握りしめた拳に、勝手に選んでどっか行ったキジたちを恨めしく思ってしまいながら。


〝麗刃についての情報。鬼への精神干渉ができる可能性があるとキジさんが言っていました。なのでゴウガくんの前で不用意に情報は漏らさないこと〟

「なるほどな……」


 結局麗刃なのか。この置き手紙、文章量から言ってゴウガが寝ている間に残していたんだろう。だとすれば、ゴウガの狂鬼化が精神干渉によるものだと仮定して、それが起きたのは目覚めた直後……。

 キジの目的に麗刃が勘づいている可能性もあるな、あっちもあっちで心配だが。


〝エタくん達はそのまま旧鬼ヶ島を目指してください。こちらは一足早く迂回しながら向かうので、その時には合流できるように。


 ――俺と、ゴウガ。アルの特攻隊。

 サンとクマはカラスに拉致され、すでに旧鬼ヶ島に。

 そして、キジとランと熊太郎は、麗刃を追い込むための治療へと目指す。


 最終的に行き着く先は旧鬼ヶ島しかなくなったわけだが――みんなと、再び生きて会えることは出来るのだろうかと。

 つい、不安に苛まれて嫌な気持ちになりながら。


〝がんばろう!〟


 その最後の一文にひどく勇気づけられて。


「……もういいか?」

「ああ。ゴウガ。俺はお前を信用する。だから、一緒に来てくれ」


 ――真実は言わない。必要以上のものはゴウガに教えられない。

 それはゴウガに対する警戒ではなく、ゴウガを介した麗刃に対する警戒として。

 それでもやつは、俺の差し出した手を受け取るようにそのでっかい手を押し当ててきた。


「ああ。利用されるだけなんて不本意だ」


 それはゴウガなりの覚悟だろうか。


 ――そうして俺たちは、旧鬼ヶ島を目指すことにした。

アフターワンショット

「お前、疲れてるんだろ? 急いでいるなら夜目が効くから夜の間は俺が運ぶよ」

「なにゴウガすごく優しい」

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