出歯亀なんて言わせない。 筆:遊月奈喩多
1時間後、夕焼けに燃える桃源郷を望む渡り廊下で、ランはバロルの放課後デート提案に対する返事をした。ば、バロルのやつ、案の定すっげぇ浮かれてやがる……。それで、俺とアルはというと、その様子を近くの物陰からじっと見守っている。
ていうかこっちに気付いてなさそうなのはいいとして、うるせぇなぁ、イケメンランキング殿堂入り(笑)のパイセンは……。
「えっ、マジで!? いいの!? わぁ、そっかぁ……! いや、たまんねぇなぁ、えっ、ほんと、マジ!?」
「はい……、あの、やっぱり、お互いちゃんと知らないとって、思ったので……」
「やった! えっ、マジでいいの? マジ……!?」
「あの、冗談みたいに思われたりするのちょっと嫌なんですけど」
「えっ、あっ、ごめんごめん! なんか、夢みたいでさ……」
わぁ……確かに敵対したりすると怖さしかないやつだけど、なんか純愛路線なのか、こいつ?
俺にもこんな頃あったのかな……とかふとしみじみしてしまった。高校生パワー怖い。おうおう、そんなに顔赤くしちゃってさ、若いねぇ。
と、いきなり気分を入れ替えたかのようにケロッとして、スマホらしき端末を取り出して……いや、いい。もうツッコむの疲れてきたぞ、いろいろと。
「じゃーさ、早速だけどここ行ってみない? ランちゃん持ってるバッグとかってここのブランドのやつじゃん。ここに店舗入ったんだって!」
「……はぁ」
「それとさ、1階のここ! けっこう猫系の雑貨とか多くてさぁ~、あっ、ランちゃん猫とかあんまりかな? おれ好きだからつい言っちゃったけど、嫌かな?」
「別に、普通に好きですけど」
「マジで!? やったっ、よかったぁ~!」
やべぇ、なんかバロルのテンションが高ぇ。
なんていうか、年相応の男子になってやがる……!
あと、ランがたぶん意図的にそっけない対応にしてるんだろうけど、わりとスマホの画面に釘付けになってるんだよなぁ、えっ、マジかこのハーフパイセン! 偶然の一致なのかそれとも入念なリサーチの結果なのか――一目惚れっつってるからそれはないか――、ランの興味を引きまくってるぞ、おい!
「それじゃ、もう行っちゃおっか!」
「え?」
えっ、ここから?
そう戸惑っていたランと俺らの前で、突然現れたゲート。
そっか、これだから転移系の妖術使うやつは恐ろしい、デートにおける途中の道を一気に短縮して目的地だけを巡れるんだもんなぁ……。それってかなりいい能力なんじゃないか? やべぇ欲しいその能力、羨ましさがやべぇ、マジでやべぇわこのパイセ、
「いや、やっぱやめよっか」
「え?」
えっ、やめんの?
現れたゲートを収縮させて、ランに向き直る。そして、俺の前に初めて現れたときみたいな馴れ馴れしいフレンドリー感丸出しの笑顔で、言いやがった。
「だってさ、せっかくランちゃんと一緒に歩いたり話したりできる時間を転移で簡単になくしちゃうの勿体ないじゃん?」
「……、はぁ」
………………っ!
「ど、どうしたのエタちゃん! なんか攻撃でもされた!?」
「いや、なんでもない……」
んだよそれ……! ちょっとでも『その能力あれば学生時代のデートとかもうちょっと楽できたんじゃねぇかな、いいなぁマジでほしい』とか思った俺を流れ弾で殺しに来るんじゃねぇよ……っ! やばい、ちょっと泣けてきたぞ!?
「だって泣いてんじゃん、痛そう!」
「痛かねぇ、いや、痛いとしたら俺の心だ……っ」
「ほんとどうしたの、エタちゃん!?」
「いえ、別に一緒に歩くとかするつもりないんで、そこに連れて行ってください」
「え?」
「好きな人とだったらなるべく長く一緒にいたい気持ちもわかりますけど、別にあなたとはそんなことしようと思わないんで」
「あ、そ、そう?」
「はい。……あ、えっと、そうなれるかを知りたいからデートするんですし」
冷たくバッサリと言ってのけたランだったが、そこはあまり刺激しないように、という基本方針に立ち返ったらしい、最後はちゃんとフォローしたぞ? ……ていうかランも「好きな人とは移動する時間でも共有したい」型なのか、そっか……そういうもんなのか?
ダブルパンチを受けながら、俺とアルはゲートに入っていくバロルとランをこっそりと見送るのだった……。
* * * * * * *
半ば再起不能に近い状態にされている俺とは違い、たぶん自分の周りでの色恋沙汰とかを初めて見たらしいアルは若干気まずそうにしながら「え、どうすんの、後追うの?」と訊いてくる。
「あぁ。一応何があるかわかんねぇし、ランからもメッセージ送ってもらうことにはなってるからさ」
そもそも、『何があってもいいように守れる態勢を整える』ってのがデートを受け入れる条件ってランも保健室出る前に言ってたからな。
「おい、エタ! なんなんだよ、あいつ! てかなんだあの黒い丸っていうか、あれでワープしてるってのか!?」
電脳化してるサンがめちゃくちゃ叫んでいる。
これ、実体あったらバッチバチに放電してるような状態なんじゃねぇか? 危ねぇ危ねぇ。
「安心しろ、次に行く場所はランからの報告がなくてももうわかる」
「えっ、ほんとか?」
「この辺りでいろんな店が入るようなデパートなんて限られてるだろ。あそこだよ、あそこ。えっと……」
「「ピーチマートか!!」」
「そう、そこ!」
すげぇ名前だよな、ピーチマート。
いや、確かに桃源郷だけどさ。たぶん名付けたのは爺さんじゃないだろう、じゃないだろうけど……たぶん爺さんとは違う意味でネーミングセンスが残念なやつに違いない。
よし、ツッコミ入れたら元気出てきた!
こうして俺たちは意気揚々と、ふたりの後を追ってピーチマートに向かうのだった。
「ていうかエタちゃん、俺たちなんか趣味悪いやつらになってない?」
「あ、それ俺も思った」
「気にすんな、ランに何か危ないことあっても困るだろ」
ぐぬぬ、図星を突くんじゃないぞ、アル……!
そして今度こそ、俺たちは意気揚々とピーチマートに向かうことにした。あっ、サンだけは電脳状態で校内からは出られないらしかったから、俺とアルのふたりだけだけどな。
向かった。
あぁ、向かった。
向かったんだが……。
『今 雑貨店』
『映画館 入る』
『次 3階の喫茶店』
結局バロルの隙を見ながら送っているからだろう、いつもの話し口調とか学園でのことを知らせてくれるものよりもだいぶそっけない報告メッセージを辿りながらふたりの後をつける俺たちの斜め前の席では。
「さっきの映画よかったよね」
「そうですね、まさか最後に桃から埋まれた赤ちゃんがアレクサンドロスだったなんて……。ほんとに、ほんと……」
「そうだよね、ランちゃん『桃尻の征服王とわたし』気になってたって言ってたもんね。なんか原作は読んでたんだけど、なんか映画で改めて見たらおれもちょっと泣いちゃったよ」
「『も』ってなんですか、泣いてたのはあなただけです」
「ははっ、そうだっけ?」
「そうですよ」
「そう? まぁいっか、いい話だったのは変わんないもんね! あっ、今日のおすすめだって、これ頼んでみない?」
なんだ、このいたたまれなさ……!
ほんとにさっきのアルの言葉が突き刺さるんだけど! 俺ら、ほぼほぼただ友達の放課後デートを覗いてるだけだよね、これ!?
ちなみに俺は見てたぞ、ラン普通に泣いてたよな、ラスト! で、バロルがさりげなく差し出したハンカチ使ってたよな? なに、そのどっかでいそうなラノベヒロインみたいな切り返し方!
まぁ、バロルの方が普通に泣いてたせいで、見たくもない野郎の泣き顔をメインで見ることになったのはちょっとキツかったけどさ……! ちなみにアルはというと、たぶん気まずさに耐えられなくなったのだろう、喫茶店の隣にあるゲーセンで時間を潰していることにする、と離脱してしまった。
くっ、俺だって気まずいよ……!
周りにいるのは女子会と思しきメンツや、あとはランとバロルみたいな学生カップル。野郎のひとりカフェって、ほんとタブレット持ち込んで充電しながら仕事やってるときくらいしかなかったってのに……!
「いかがなさいましたか?」
「あぁ、いや、なんでもないっス」
ひとりで唸っている俺はなかなか客たちのなかでは浮いてるのかも知れない、周りはみんな楽しそうな団体客ばっかだもんなぁ! くっ、居づれぇ……!
そんな、一種の拷問みたいな時間をどうにか過ごし、特に出番とかもないまま帰り道。俺はゲーセンから出てきたアルを伴って、相変わらずふたりの後をつけているわけだが……、うん。
ていうかさ、いつの間にか、普通にふたりで歩いてねぇか?
え、なんか親しげになってね? てかバロルお前、近い! 近いって! 咄嗟のときに間に入ったりできねぇだろうが! ……なんて焦ったりする必要がないくらい、バロルとランは(一見)和やかに今日の放課後デートの話をしている。まぁ、傍から見ても普通に楽しそうなデートだったしな。
んー、ほんとに俺ら、ただの趣味悪いやつらになっちゃってたんじゃ……?
いやいや、俺らはもしものときにランを守るためにいるんだからな……!
だいぶ暗い物陰から、じっとふたりの様子を見ていたときだった。
不意に、バロルが声をあげた。
「あーあ、おれもランちゃんと同じ、普通のナパージ人として生まれたかったなぁ」
「え、どうしたんですか、急に?」
ほんとどうしたんだ? 唐突な言葉に、ランも思わず問いを投げ掛ける。それに対して、バロルは少しだけ寂しそうに言葉を繋いだ。
「ねぇ、ランちゃん。そんなにおれのこと信用できない?」
くっ……、顔がいいだけになんかそういう台詞が様になるなぁ……と思っていたときだった。
あれ、なんか視界明るくなってね?
ていうか、目の前にランいるよな、え?
気が付くと、俺とアルは、唖然としているランとどこか落ち込んだ様子のバロルの前に座り込んでいた。え、マジで? 離れた場所の俺らまで転移させられんの、その能力?
どうしようか思い付かずに、つい助けを求める視線を送った先のランが、なんとも言いにくそうな複雑な顔をして俯いているのを見て、ようやく俺の喉は動いた。
「……いや、マジ?」
もう俺ら普通に邪魔者じゃねぇか、これ!
エタ:「いや、なにいきなりガチガチの恋愛系のノリ出してんだ、あのパイセン!」




