本当にいたたまれない。 筆:月輪あかり
「電脳化。一種の幽体離脱だ」
「はぁ?」
いやいや、確かにサンは寝台に寝ている。妙にハイテクな診療機器に囲まれて、点滴を充てられてる姿はどこか痛々しい。
しかしそれを差し置いて、空間にぷかぷか浮かんでいるのが半透明のサンだ。
……もしかして死んでしまったのか。
「成仏してくれな……?」
「ちょ、お前ダチに対してひどいんじゃねーの!? 生きてるわ! まだ死んでねぇわ!」
猛烈なツッコミに耳がキーンとする。
しかし、久しぶりにサンと会話するとどこかほっとするような感慨があった。
この何気ないやり取りが奪われていたかもしれないと思うと、ゾッとするし、今を噛み締めてしまう。
「大丈夫なのか?」
「ああ。ただ肉体に意識を残してると、痛みがまだ走る。それはちっとキツいからいまこうやって切り離してるんだよ」
「便利だな……」
「だろ? だがこの状態だと何も出来ねぇ。せいぜい色んなとこを飛び回ったりするくらいだな。そうそう、昨日は女子更衣室見てきたぜ。電脳化は誰の目にも観測できるからそっこうでバレたけど」
「ブッ、なんだよそれ!」
「笑えるだろ? ……エタ、俺は元気だぜ。お前は大丈夫か? 久しぶりだな」
「おう」
サンはあの日、俺の仇を取ろうとしてくれた。俺のために戦ってくれたんだ。
感謝してもしきれない、どうしようもないって言うのに、いまヤツはこうやって俺を気遣わせないように立ち回ってくれる。
……ほんと、絵に描いたような好青年だよ。
「そんな状態なら、どうせなら俺の家まで来てくれてば良かったのに」
「残念。肉体からはそこまで離れられねーよ。せいぜい学園の敷地内までだ」
「俺、ここ1週間ずっと爺さんにしごかれていたんだぜ。死ぬかと思ったよ」
「ほぉ、そりゃ楽しみだな。オレが復活したらさっそくタイマン張ろうや」
「こえぇな。……でも、楽しそうだ」
その時には、俺はもっと強くなってやる。
……と、後からランとアルがやってきた。バロルは居ないらしい。
ランのやつれた表情が印象的である。
「おーエタちゃんサンちゃんに会ったんだね!」
「こんな状態なら、もっと早くいってくれりゃこんなに心配しなかったのに」
「バーカ、お前はもうちっと反省しろよ。先走って骨やられやがって」
貶しあって笑いあう。
うん、こんな友情も、ありなんじゃないんだろうか。
「ところでラン。何かあったのか?」
「う、ううんっ、なんでもないよ……」
話題を、ひどくやつれた表情を浮かべているランへ移したサンが、彼女の返答にどこか首を傾げる。
おもむろに俺たちの方にアイコンタクトを飛ばしてくるけど、肩を竦めるのに留めておいた。
本人が言わないなら仕方ない。
って思ってたんだけど、「やっぱ聞いて……」と思い詰めた風にランが口を開く。
耳を傾けよう。
「あの、そのさ。さっきデートに誘われた……」
「「「はぁ!?」」」
いや、ちょっと待て。流れ的にたぶんバロルの野郎だよな!?
はっ!? もうあいつ行動に移してんの!? 一目見てすぐにサンに告白したときは異常だと思ったが、もう!? バカじゃねぇのあいつ!?
「誰が?」
「あっ、そっか、サンちゃんは知らないんだっけ」
「悪いサン、あとで説明するからちょっと待て。……は? いつの間に?」
「う、うん。えっとね、ほんとにさっきだよ。今日の放課後からデートしようって言われちゃった……」
うわぁ、すごい青ざめた顔だ。
そうだよな、ラン、初っぱなから毛嫌いしてたもんな、仕方ないよな。俺もあいつは好かないぜ。
ていうか、あんな飄々としてるヴァンパイアみたいな見た目のやつがドルオタみたいな姿みせてきたら誰だって引くだろ。
「返事は1時間後って言われたんだけど、私はどうすればいいの……?」
泣きそうな表情で俺たちを見渡すランが本当に不憫で仕方ない。
ラン、モテモテだもんね。うん。たぶんファンクラブのメンバー調べたらきっとバロルの名前が一桁台に居そうだけど言わないであげよう。
本当不憫だな!
「嫌なら断りゃ良いんじゃねーの?」
相手が誰だか理解してないサンが気楽にもそんな言葉を投げ掛けてくれるが、全くだ。
それができたらそれが1番良い。
でも出来ないんだよなぁ……!
「サン、お前バロルって知ってる?」
「あー、校内イケメンランキング殿堂入り」
ぶは!
ちょっ、それは噴く……っ!
黙ってれば美形だもんなぁ。喋るとざんねんな性格だ。
「そいつが実は、敵の1人で、ランに告白してきたんだよ、今日」
「なんだそりゃ」
荒唐無稽な話だが、事実なのだから仕方ない。
理解するのに苦労するような素振りで呻くサンを置いておき、改めてランに向き直る。
「さてどうするか」
「うん……ちょっと考えるの手伝ってほしい」
アルは……おパカだからな。
俺が考えるしかない。
さて、1番の問題はバロルが気まぐれ屋で、何をしてくるかわからない、ってとこだ。
ランに告白したのも気まぐれの可能性が高い。以外と考えてるタイプの人種らしいしな、俺みたいに。
だけどその上で、やつの言葉が嘘であるわけでもないのは事実だ。
とすると、言葉通り受け取っていいだろう。
よって、告白自体は本音。ブラフや気まぐれなんかじゃなく、やつの真意となる。
つまれば、それを否定すれば癇癪を起こす可能性が高いって訳だ。
「あいつの言葉は嘘だと思うか?」
「……認めるのは嫌だけど全部本心だと思う……」
ふいに脳内をリフレインするのは上機嫌なバロルが漏らした、『ランちゃんがいる限り、おれは君たちと戦えそうにないや!』とかいう台詞。
これは強い。
一度敵対した俺だから言えるが、あの強力なゲートを敵に回さないで済むのは大変に助かる。
そう簡単にこっち側についてくれる訳じゃないだろうが、ちょっとでも融通が聴くならいくらでもバロルに取り入った方が良いだろう。
つまれば。
「あの……ラン……言いづらいんだけど」
彼女も同じ結論に行き着いたようだ。
絶望的な表情に心苦しくなるけど。
「デート……了承してください……」
「う……」
ビクビクと震える声音で頼み込む。
ちょっとランが怖く見えます。いや、怖い。
「やっぱり……?」
「あいつをなるべく刺激したくない。体感したと思うけど、やつの力は一瞬な上に範囲が広い」
たぶん、あのときランやアルを含めて転移させたのは、足止めした罪悪感から……ってだけじゃなく、牽制の意は含まれているはずだ。
正しく、俺たちに力を見せつけるための。
「頑張るね……」
「頼む」
こればかりは仕方ない。
ランにしか出来ないことだからな。
デートは一体どうなるんだろう?(悪い顔)




