平穏ならとっくに崩れ去ってる 筆:遊月奈喩多
こんばんは、遊月です!
久方ぶりの更新と相成りました!
いよいよ復学したエターナルフォースブリザード! 彼の日常は、果たしてどう変わったのか……?
本編スタート!
「あ~、一週間ぶりの授業はこたえるなぁ~!」
もちろん、停学中に受けていた爺さんの指導もとんでもないものだったが、なんか学園で受ける座学とかってそういうのとはまた違った疲労を貯めるよなぁ……。
もちろん、元の世界みたいに「こんなの何に使うんだよ?」なんて内容のものは一切ない――というのは言い過ぎかも知れないが、ほぼ全科目が何かしら使い道のある知識を叩き込む科目だった。
むしろこの世界でこの先も生きていくならまず必要になるだろう科学的な知識やサバイバル術、それに人間と鬼の歴史について学んだりとかしてるから、そういう意味では平和ボケしきった世界の学校よりモチベーションが違う。というか低いモチベーションでは生きていくのが難しくなっていくのがこの世界なんだ。
「おぉ、エタちゃんお疲れモードじゃん! 大丈夫、まだ1限だよ?」
「次は保守訓練の時間だよ? エタくん倒れちゃいそう……」
「はー、保守訓練って、何それ?」
『ヴァルハラ・アスガルドにおける「保守訓練」とは、桃源郷の外壁が外部の侵攻によって許容範囲外の損傷を受けた前提に基づく防衛の訓練です。いつ、何が起こるかわからない世の中だから……という意見が高まり、科目として始まりました』
「わっ」
「え、エタくん、その声どこから聞こえたの?」
「あれ、それアレ? なんかセンセーの指導で貰ったやつ? 何それすっげぇ、喋んの?」
あ、そっか、ふたりともカグヤのこと知らないんだったな。今日までに既に何日かカグヤと接してるから、ふたりの反応が初々しく感じてしまう。ていうか、こんなガッツリ外に声聞こえるんだな、大体ひとりのときに話してたから失念してたぞ。
幸いにして教室のなかには他のクラスメイトの姿はない。ていうか、え、移動教室? それにしても移動すんの早くないか? まだ授業終わったばっかじゃんか。
「訓練は壁の近くでやるからね」
「たぶん残ってるの俺らだけじゃね? 行こうぜ、エタちゃん!」
いや、遠くねぇか? わりと距離あったような気がするんだけど……あっ、外を見ると大勢で歩いてる生徒がかなりいる。やべぇな、あの光景。とにかく、俺らも向かわないとだよな!
案の定、廊下は静まり返って、校内に残っているのは本当に俺たちだけかも知れない状態だった。
あぁ、保健室行きたかった……!
復学して気になったのは、まずサンのこと。
カラスにやられて――たぶん周りには俺がやったことになっているんだろうが――かなりの重傷を負ったサン。俺たちが停学を食らっていた期間は療養していたということだったが、一応今も大事を取って保健室で過ごすことになっているらしい。
休み時間になったらいの1番に駆けつけて様子を見に行きたかったけど、また次の休み時間になりそうだ。許せ、サン。
「あれ、エタくんじゃん! はろー、もう停学解けたん?」
「……何なんだよ、あんた」
「お~? 学校だと一応先輩だよ、おれ? そんな露骨に嫌そうな顔しないでよ」
さっそく壁までに向かおうとしていた休み時間。
いきなり俺の前に現れたのは、停学期間中に俺の前に現れて、鬼に関する秘密とその圧倒的に思える強さを俺に曝していった長身の男――バロルだった。
「この人……っ!」
「なにエタちゃん、こいつに会ったの!?」
あのとき顔は見えていなかったはずだが、やはり2人ともやつが放つ気配でわかったのだろう、あのときのやつのひとりだ、と。ランもアルも、たぶんランは一応周りに生徒がいないのがわかってたからだろうが、すっかり臨戦態勢に入っていた。
「ちょっ、やめとけ、そいつヤバいから!」
たぶん仕掛けたら、今度こそ手加減なんてせずにやられる……!
それこそ、たぶんこの中の誰も生きて帰れないくらいのことをされかねない。
こないだの夜に嫌ってほどやつの能力を味わわされた身としては、少なくとも何も対策をできないうちは、アルもランも止めるしかなかった。訝しげに俺を見るふたりを尻目に、バロルの方は「まぁそうだよね」と言いたげにこちらを見つめてくる。ぐっ、勝利を確信した余裕の表情が腹立つなぁ……!
「うんうん、エタくんは学習能力高いねぇ。ふたりとも、若いうちからそんなカッカしてると生きてくの大変じゃない? ま、おれもみんなとはそんなに歳変わんないんだ……け、ど……?」
ん、なんか様子おかしくね?
余裕たっぷりだったバロルが、急に固まった。
そして、急にその場に屈んだかと思うと、こう言い放った。
「ねぇ、待って。待って……! サタニックランページサイクロンちゃんマジか……! ランちゃんマジか……!」
「あなたにランちゃんとか呼ばれたくないんですけど」
うわ、対してランは怖いほど辛辣ゥ!
当然と言えば当然なんだけど――俺だって問答無用で攻撃したわけだし――、ただそれにしても、なんかランがすげぇ怖い! なんだろう、この怖さ。あ、そうだ、爺さんがネーミングセンスのことでそこらの子たちにからかわれたときを思い出すわ、この怖さ……!
爺さんほどの危険度は感じないけど……あぁっ、アルが怯えて生まれたての小鹿のようになってる!?
な、なんか心なしか窓から吹き込む風が強くなってないか? え、気のせい、いやいや違うっしょこれ、ラン本気で苛ついてねぇ!? ちょっ、待てって! それヤバい、バロルの反撃だとかそういうの以前に、もう、ほら、教室の窓とか震えてきてっから!
どうにか止めようとしたけど、ヤバい、「ラン、ラン! おーい、ランさーん?」と呼び掛けることくらいしかできない……! その間にも、ランの周りの空気の流れがヤバいことに……!!!?
そんな流れを変えたのは、バロルの一言だった。
「一目惚れしました! おれと付き合ってください!」
「……え?」
あまりに予想外!
ていうか斜め上過ぎるだろ、いくらなんでも! なに死闘演じてからひと月も経たないくらいの相手に告白してんだ、この鬼ハーフ先輩はよぉ!? ランにとっても予想外だったのだろう、風が弱まったのは、まぁ幸い……か?
「そっかぁ、こんな可愛い子が後輩にいたなんて、ていうかこの世にいたんだね、え、なに、おれ二次元の世界に迷い混んだわけじゃないよね……?」
ヤバい……こいつノリが画面越しで見てた推しアイドルに実際会ったときのドルオタみたいになってやがる! リアルに頬をつねるな!
といっても、ここまでがバロルがこちらを油断させるための手なのかもしれないし、そもそもこいつのスイッチが切り替わったらその瞬間に下手したら全滅もありえる。
まだ、油断するわけにはいかない……!
身構えていると、もうどうしようもないくらい上機嫌な様子のバロルが「安心してくれよ、エタく~ん!」と言ってきて……あぁ、なんだこのハイテンションすっげぇめんどくさい。
「おれが大事な子に傷なんてつけるわけないじゃんか! あぁ、なんてこった! もうランちゃんがいる限り、おれは君たちとは戦えそうにないや! はっはっは、神様ありがとう!!!」
わぁ、ヤバい人だ……。
こんな露骨に天に向かって宣言するやつ、漫画とか小説の中でしか見たことねぇ。ほら、ランもかなり引いてるし。
「……あっ」
「え?」
「悪ぃ、たぶんおれら遅刻だわ」
「はぁ!?」
言われて廊下の時計を見ると、確かにもう2限が始まっている時間だった。たぶん、俺がぼーっとしてたのと、バロルの屈み込みタイムを挟んだのと、まぁいろいろ原因はあるだろうが、確かに遅刻だ。
「おいおいどうすんだよバロルパイセン! あんたのせいでまた教師陣に目ぇつけられんぞ、俺ら!?」
「落ち着いて落ち着いてエタくん、なんかキャラ変わってるよ?」
「あんたほどじゃねぇけどな!」
「エタちゃんと……えっと、バロル?がなんか漫才してる……」
アルから静かな感想が漏れるが、こいつと漫才とゼッテーごめんだからな!?
そう思いながら睨み付けていると、バロルが首をコキコキと鳴らし始めた。え、なにする気だ? まさか俺ら調子に乗り過ぎた? え、処されるのか……!?
「エタくん、だから、おれは紳士だよ? 恋人のいる場所で誰かをどうこうなんてしないよ」
「恋人じゃないですけどね」
あ、やばい。ランがかつてないほど怖い、今日。俺もアルと一緒に生まれたての小鹿やってていいかな、これ? 笑顔が氷のように冷たく見えるなんて、今時の高校生怖いなぁ! あっ、バロルも一応今時の高校生か、いや怖すぎるだろ高校生!
「よしよし、エタくん。なんかおかしなテンションになっちゃってるけど安心していいよ? おれは本気で何もしないから。ていうかお詫びさせてよ、さすがにここの先生たちから怒られんのって怖いし? 怖い思いさせちゃうし?」
あ、もう遅刻して怒られるのは確定なんだ……。
「だからさ、ちょっとだけ楽させたげるよ!」
バロルがそう言ったかと思うと、突然俺たちを黒い何かが包んだ。
そして、何ひとつタメなんてなく、門の前に来ていた。あの、もうちょっとさ、「ん、ここは……?」ってなるような要素とかねぇの? そんな感想すら持ってしまうくらい、まるで普通に歩いたようにあっさりと、学園の廊下から桃源郷と外界を隔てる門の前……体感でいうとたぶん10km近くあるんじゃないかっていう距離を一瞬で越えてしまったのだ。
改めて、転移系の妖術(カグヤ曰く)ビビるわぁ……。
ちなみに、教職員――特に爺さん――からの説教は「ビビるわぁ」どころではなく、一応は飄々とした風に見せていたバロルですら、若干ビビってたんじゃないだろうか……。
肝心の訓練自体はほぼ組手のようなもので、言ってしまえば俺やアルがやっていた修行や、なんなら普段の授業でも実技とかいってこういうのやってるし――という内容で、(爺さんが見てなければ)緊張感も何もない内容だった。
ちなみに俺はというと、たまたま近くにいたという理由でバロルとやらされることに。あっさりやられましたとも、それが何か? こういう術使う系のやつにあるまじき強さだわ、こいつ!
「あー、でもやっぱおれの能力知ってるだけあって肉弾戦に持ち込もうとしたのは凄いと思うよ?」
近接戦でも普通に強いやつが敗者に言っていい台詞じゃねぇ! こんなことならランと組手……、と思って見た先ではアルが見てるだけで震えてしまいそうな有様になっていて、もしかしたらこっちの方がマシだったかな、とも思ってしまった。
そんなこんなで保守訓練も終わり、ようやく次の休み時間。
保健室に足を運んだ俺は、思わず言わずにいられなかった。
「え、サン。それどゆこと?」
それどゆこと?




