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MOMOTARO - legacy -  作者: 遊月奈喩多
Chapter2.黒装束現る~Encounter~
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人と鬼とを繋ぐ架け橋。 筆:月輪あかり

「スキュア!」

「うぉわぉ!?」


 咄嗟に翳した右手から、まるで串のように細く鋭利な氷柱を産み出しては目の前の存在へ射出する。

 奴は――バロルと名乗る男は、俺のその攻撃に対して悲鳴をあげるだけでなにもしなかった。ように見えた。


 突如として空間に現れた〝穴〟が氷柱を呑み込んで消えると、後には「問答無用か……」と肩を落とすバロルと目の前の不可解に動けなくなってしまう俺だけが残る。

 ……理解が追い付かないでいると。


『解析、魔力残滓の読み取り、登録データとの照合、……完了。六〇パーセントの鑑定クリア。妖術の一種であることを確認しました。どうやら、空間と空間を繋ぐゲートであると推測し、攻撃を無力化された模様です』


 ……妖術? 新たなるカテゴリが出てきて困るんだが……。

 迅速な対応ですぐさま俺に答えを与えてくれるカグヤの利便性を垣間見たような気がして、これは爺さんの言っていた通り役に立つものなのだろうと感嘆する。

 その上で、ワンモア。長身痩躯な黒装束(今はラフなのだが)はまるで打って変わったような態度でいまそこにいて、そのことに申したい気持ちもあるが、それ以上に黒装束相手が油断ならないことも理解している。

 攻撃の手は緩めたくない。


 早速とばかりに昼間覚えたばかりの術式を構築した。


我が腕が、かの苦境(スティーリア)を打ち破る力と(・スクロ)ならんことを(ペトゥム)

 ――ラテン語で、意味は氷の銃。


 身体中から溢れでるは極寒の冷気だ。ただし、俺はなにも感じない。こと低温には強い身だからな。

 吹雪のように俺を中心として吹き荒ぶ銀色の力の流れ。大気を凍てつかせて震わし、月光を反射させる雪の花が舞う。

 それは途端に収束し、前方へ差し出すように翳した両の掌のうちへと集中していった。

 手元にグリップのように固まった氷が形成され、握り込む。パリパリと少しずつ質量を増築していきながら氷は形を顕にしていく。

 産み出されたのは銃身四十センチの片手銃の形を取る、――二丁の氷塊だった。


 不思議と手に馴染む。こんなに握りしめても、冷たくもなければ突き刺すような痛みも感じない。肌に張り付かない。

 俺がもし熱でも持っていれば、氷の銃は氷の形を保っていられずにたちまちのうちに溶けて機能不全となるだろうが、あいにくと身体は冷えきっているおかげでそのような事態に陥ることはなかった。


 アルのような余程の熱攻撃でも受けなければ溶けないし、アルのような高温の炎にも堪え忍ぶための溶岩渡り、ひいてはキャッチボール修行だ。

 まだ二日の経験値でしかないが――つまり、今日一日の成果を我がかいなに込めさせてもらう。


「臨戦態勢バリバリなのかっ、二日前はそんなじゃ無かったよねっ――とりあえずちょっと待ってくれって!」

「ヘイルショット」

「問答無用だねえ!?」


 一対のソレを振り上げて構え、荒々しさの目立つ作りの銃口をバロルへ差し向ける。

 打ち出すは――スーパーボール大の雹弾×2。豪速球にも射出したソレは、避ける素振りも見せないバロルの肩を貫く(急所は外した狙いだった)――かと思えば、やはり空間展開したゲートに飲み込まれて、その場にはなにも残らない。

 くそっ、厄介だな。


 カグヤに打開策の考案を一任しながら目の前の強者に対して警戒体制を張り続ける。


「ヘイルショット/スプラッシュ」


 術式を組み換えて再度発射。

 今度も、同様に大きな弾が飛んでいくが、少し違うのが付加したスプラッシュ(飛散)の術式だ。

 きりもみ回転でまっすぐ飛んでいく二つの雹弾。が、中間地点で散開。刹那的に直径二メートル程の弾幕が眼前に展開され、戸惑うバロルにどう対処するか見守れば――


「なっ」


 一つの大きなゲートでまるごと全てを呑み込むと、同時に俺の周囲に無数の小窓のようなゲートが俺を取り囲む。

 それに嫌な予感がして、すぐに結界を張ろうと足元からドーム状に氷膜を張っていくが――


 ソレは、俺の渾身の一撃だ。


「ぐぁっ!――チィ!」


 呻きと、盛大な舌打ちと共に貫かれたふくらはぎの痛みに悶える。

 無数に屈折展開で俺を取り囲んだゲートは、その一つ一つが細やかな破片となったヘイルショットを吐き出す出口だったようで、半分の結界と銃身の壁でなんとか持ちこたえるもののダメージを喰らってしまう結果となった。


 ――ほぼほぼリフレクションじゃねぇか!


 こうなるとまた話が変わってくる。

 ゲートに飲み込まれた俺の技が逆に敵の攻撃手段としてゲートから吐き出されるとか、悪夢でしかない。

 汎用性に優れている技だな、と素直に感嘆する。


「はぁ……」


 すると、今までヘラヘラと笑みを浮かべていた口許を手で覆って隠せば、バロルは数段声のトーンを落とした〝切り替わった人格〟で感想を漏らした。


「少し友好的に接してみれば、すぐにこれか。野蛮人は困るね」


 応急措置的にふくらはぎの貫通痕を氷で塞ぎ止血する。ぐぅうう……痛い……痛いが、俺自身の攻撃力とも思うと感慨深いものもある……言ってる場合じゃないが……。


 とと、それどころじゃない。

 バロルは細めた眼で俺を射貫くと少し思案するような素振りを見せたあと、またスイッチを切り替えたようにテンションを高めて宣った。


「落ち着いた? じゃあちょっと話そうじゃない、エタくん。ここで戦うデメリットが、君にも無いわけじゃないデショ?」

「………」

「おれも別に問題起こしたくないんだよね。そんなことしたらマスターに怒られちゃうし、おれだって桃源郷の住民だからさ」

「……なに?」

「まぁ、やろうと思えば君を高度二千メートルから落としたり、ウイルス濃度の高い地域に捨ててきても、場所を移動した上でおれが直々に殺してやってもいい。感電の恨みもあるし」

「………」

「嘘じゃないってのは判るだろ? このゲートがあれば、いかなることも赤子の手を捻るように出来てしまうんだよ。例えば……」


 奴の手元に二つのゲートが作られたかと思うと、刹那。

 ぬるっと後方から一対の腕が首もとに伸びてきて、俺の顎筋を撫でてくる。

 その嫌悪感に弾かれるよう逃げ出せば、地面を踏みしめた足のふくらはぎの痛みもそこそこに、狙いも定めず雹弾を一発お見舞いしても新たなるのゲートのなかに消された。


 期待を込めた一撃じゃなかったのは確かだが、こうも簡単に対処されては――

 隙 が 無 い 。


「判ってもらえて何よりだ」


 こともなげにフフンと笑みをこぼした長身痩躯にムカついた。


 ◆ ◆ ◆


「今日のおれはオフだから、別に戦うつもりはないんだよ。非戦闘体勢ってやつ。エタくんがそんな敵愾心バリバリで来るとは思ってなかったけど」


 ひとまずの休戦状態となった折、たはぁーと息つくように当初のような人懐っこさを披露しながらバロル。


「なんでこんなとこにいるんだ?」

「理由なんて単純でしょ。ここにはおれも住んでるから」

「……なんだって?」

「あれ、知らないの? おれ、君の一学年上」

「はぁ!?」


 まっ、……いや、どういうことだ? 俺たちの敵が、俺たちと同じ桃源郷に普通に暮らしてるだけじゃなく、俺たちと同じ学校でORGEウイルス対策のための授業を受けてるっていうのか?

 ……いや、校長が黒幕なら、あり得ない話でもないのか。


 でも、待ってくれ。おかしいだろ。アイザには、あるものがあったじゃないか。桃源郷の民とは相容れぬ、決定的なにかが。……生憎と、目の前のバロルには見当たらないのだが。

 しかし。

 否定したい気持ちから、俺は核心をつく。


「……アンタら、鬼なんじゃねえのか」


 眼が細められる。

「へぇ。よく判ったね」

「やっぱりか」


 一九〇センチ程の背丈。痩ぎすで、肌が白く、後ろへ流す髪は黒く一束に結われていた。

 高潔そうで、黙っていれば絵画のよう。けれどそのうちの心象は騒がしく、なつっこく、どこか抜けていて、時に軽快で、時に冷徹にも染まる〝気まぐれ屋〟

 ある種自己中心的な感情に乗っ取られやすい者。

 目の前のバロルを、今まではそう認識していたが、それが全てとは思えない。

 こいつには、まだ隠している顔があるようだった。


「いかにも。おれにも角はあるんだけどね。一番小さく目立たないからか、桃源郷のなかにいても気付かれないと言われてしまって、ここにいるという訳さ」

「ただの鬼でもねーよな、アンタ達。……この混血野郎」

「おぉ! そこまで理解できているのか! すごいな君は、要注意だ」


 しまった。核心を狙いすぎたせいで、知れた情報は多いが警戒心を抱かれたか。

 ……今さらな気もするけれど。


「そうだ。おれたちは混血の鬼。あるいは人。現存する最後の鬼種、それがおれたち五人なんだよ」


 爺さんの話では、最後の生き残りとされる麗刃は公表された存在ではなく、言わばマル秘機密。偉大なる貢献を納めた桃太郎のわがままから存在することを許された純潔種であり、関係者以外に知る術はない。

 無論、それは浦島校長も含む話であり、目の前の人物が存じていないのも道理だろう。


 しかしそんななかで、鬼種の血を継ぐ最後の五人だと、バロルは認めた。教えてくれた。

 他に生き残りが存在する可能性がない以上、つまるところ、ORGEウイルスを除いた真たる鬼種は黒装束と麗刃しかいないことになる。


 これは、世界を救おうとする桃太郎サイドにとっては有益の何物でもない……!


「もっとも、おれにもこっちの生活があるので、言い広めることはおすすめしない。これは脅しだ」

「………」

「おれたちは人なんだ、仲良くしよう」


 ――鬼と人が相容れない世界で、これ以上ないほど嫌悪感に覆われた言葉だった。


 ◆ ◆ ◆


 そして。

 それから、五日の時が過ぎ、俺は久しぶりにヴァルハラ・アスガルドの停学処分が解除された。

感染者を除いた真たる鬼種の総数が露わとなり、絶滅か、種の保存か。人の英雄はどちらを選び、未来を作るのか。

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