鬼ヶ島異文録・変 筆:遊月奈喩多
こんにちは、ようやく更新できました!
指輪から語られるこの世界のこと……
「お、鬼ヶ島パンク!?」
カグヤに教えられた事実に、俺は思わず声をあげずにいられなかった。
だって、なんだよそれ!? 確かに、OGREを精製しているという麗刃の話を聞くと、鬼も相当高い科学技術を持っているらしいことはわかっていたけど……。
「じゃあ、あの壁とかこの桃源郷のなかとかも、全部元々は鬼の技術だったってことか……」
『端的な事実としては、その理解に誤りはありません。ですが、現在桃源郷に転用されている技術に関しては英雄桃太郎に譲渡されたハイテクノロジーの一部に、…………サルがアレンジを加えたオリジナルのものでもあります』
……なんで一瞬言い淀んだんだ、カグヤ?
そんなことも気になりつつ、聞かされた過去にまずは驚くしかなかった。もしかして、鬼が持っていた『宝』って、そういうテクノロジーだったってことか?
「ていうか爺さん、そんなもんよく持ち帰ったな」
「あぁ……」
ん、この話になってから、爺さんの様子がだいぶいつもと違うような気がする。鬼ヶ島関連のことはあんまり話したりしたくないもんなんだろうか……? 確かに、爺さんがサルにしていた話を思うと、絵本で読み聞かされていたような単純な英雄譚にはならなさそうだしな……。
やがて、爺さんは早めに寝るように告げたあと、自分の部屋へと戻っていった。……ん、確かによく見るともうわりと早くはない時間だ。「明日もまた指導は続くから、英気を養えよ」といつもの冷静な口調で言い残した爺さん。それを見届けたあと、急に『ふふ、』とカグヤが笑った。
「え?」
ていうか、なんか凄いな! 笑うのか、カグヤ?
『失礼しました、エターナルフォースブリザード。英雄桃太郎は、あなたが心配されているような精神状態ではありませんでしたよ?』
「え、どういうことだ?」
『彼は単純に、自分の過去の話を自分以外の口から語られることを好まないのです。一般的に言うと、羞恥の感情に近いのでしょうか? もちろん、あなたの懸念も100%無縁とは言えませんが、そういうところは相変わらずだ、と思わず微笑ましくなってしまって……』
なんだ、カグヤって、もしかして爺さんのオカン的存在なのか!?
なんとなく幼い印象を受ける声のオカン(イメージも必然的に幼くなってしまう)に面倒を見られる爺さんを想像して思わず笑いそうになりながら、ふと思った。
この際だし、この世界について知らないこととかをあらかた訊いちゃってもいいんじゃないか? ずっと気を失ったように眠っていたからか、爺さんからは早く寝るように促されてはいたものの、眠れそうにない。
「えっと……」
いろいろ訊けるって思うだろ?
そうすると、逆に何から訊いたらいいかちょっとわからなくなってくるんだ。たぶん、そういう俺の動揺みたいなものも、たぶんバイタルチェックとかそういうものでわかってしまうんだろう、『どうかなさいましたか?』と尋ねられてしまった。
ちょ、煽るなって、ちょっと待ってくれよ!
昔からこういう『好きなものをご自由に』系弱かったんだって! よく行ってたビュッフェバイキングだって何からどういう風に食べるとか迷って時間使っちまうタイプだったんだから……っ!
そう迷っているうちに、逆にカグヤから尋ねられてしまった。
『エターナルフォースブリザード。今宵、月は見えていますか?』
「え?」
そういや、目が覚めてから外なんて全然見てなかったな……。
部屋の窓から外を見ると、電気の明かりが全然ない草原に、蒼白い月明かりが注いでいる。なんというか、普段だったら――少なくとも俺が元いた世界だったら気にも留めていないような、けれどどこか幻想的な光景だった。
「えっと……月なら出てるぞ? なんつーか、わりと綺麗だ」
『そうですか。では、エターナルフォースブリザード、お手をかけますが、少し外に出ていただいてもかまいませんか? 外で夜風に当たるのも、悪くはありませんよ?』
「あ、あぁ……」
なんとなくだけど、カグヤの声には従った方がいいような気がした。というより、その頼みを聞いてあげたくなるような声だった。庇護欲を誘う――なんていうと、「そんな立場じゃないだろ」ってツッコミがどこかから来そうな気もしたが、それにしても、なんて言ったらいいんだろう、カグヤの声にはどことなく――わかりやすく言おうとしたら本気度としか言えないが、そういうものがとても強いように聞こえたんだ。
で、結局外に出た俺なんだけど……。
なんていうか、もうこの世界に来てだいぶ経つけど、こういう夜にだけはなかなか慣れないなぁ。
俺がいた世界では、もう当たり前のように夜もそこら中で明かりが灯っていた。眠らない街――なんて呼び名の場所だってたくさんあったし、実際そんな名前で呼ばれていなかった俺の街でさえも、明け方くらいまでそこかしこで若者が騒いでいたり、深夜徘徊に勤しむやつらがいたり……何よりも夜でも明るいものだった。
けど、この世界の夜は本当に暗い。
よくよく目を凝らせば、どこかしらに人家の明かりが目に入ったりもするが、それにしたってほとんど明かりがないに等しい。それに、どこかしこから流れていた車だの何かしらの店だの、そういう人工的な音も、どういうわけかこの世界にはない。
ほんとに、こういうときに普段のオーバーテクノロジーはい喜んで、っていう感じの部分といかにも昔話っていう世界観の落差を感じてしまう。爺さんたちが持って帰った技術の全部が合わさったらなんかいろいろ均等が取れてくるのかね……いや、それはそれでもったいないのかも知れないな。
出てみたら出てみたで、こうやって見上げる月もわりと悪くない。
昔の歌人とかが月やら何やらを見ながら詠んだらしい和歌とか短歌とかそういうのをよく覚えさせられたもんだが、あの頃の「月なんて見て何が楽しいのやら」っていう味気ない感想も、今は出て来なかった。まぁ、だからって別に月を見ながら詩を作ったりしたいとまでは思わないけどな。
『わぁ…………』
と言っても、俺の指に付いているカグヤは今にも何かしら言い出しそうなくらい感動しているみたいだったが。なんか、ますますこの世界のこととかを訊きにくくなってきたぞ? すっげぇ水差すこと言っちまいそうなんだが……!
ていうか、月見えるのか、カグヤって?
『やはり火山の中からではなく、こうした静かな平原で見るのがいいですね、月は。桃太郎はその辺りを昔から解さないのです』
なんだ、こののろけ話を聞かされてるみたいないたたまれなさは?
ていうか、なんだろうな、妙な違和感があるんだけど……。
『そうでした、肝心なことを忘れていましたね。エターナルフォースブリザード、あなたの尋ねたいことを聞かせてください。可能な限り返答します』
「ん、あぁ……何訊こうかってずっと考えてんだけどさぁ……。あんまりちゃんと浮かばないんだよなぁ、なんかどうでもいいこと訊いちゃいそうでさ」
訊きたいことは、それこそ多すぎるくらいあった。
パッと浮かんだのは、さっきその意外な一面を聞いて驚かされた鬼ヶ島のこと。少なくとも俺の知る絵本の鬼ヶ島とはわけが違うらしい。そこらのSFが泣いて逃げるような世界観っぽいし、そこはかなり気になる。
ほぼ同時に浮かんだのは、学校の屋上で対峙したアイザたちのこと。あいつらはほんと、なんなんだ? たぶん浦島校長が個人的に従えてるやつらだろう、というのがランの推測だったけど……。
それに、そこまでして浦島校長が隠そうとしているファイルの中身……アルが聞いた噂だと『最初の鬼』に関する何かだっていう話だよな、謎でしかない。
あとのことは、正直わからないところが多過ぎて訊く段階にまで絞れてないってのが本音なんだよな……あー、何訊こうか。
「じゃあ、ちょっと訊いていいか? ひょっとしたらどうでもいいことかも知れないんだけど」
『あなたが訊きたいと思ったことは、きっとあなたに必要となることだと推察します。よろしければ、どうぞ』
「鬼って、いつからいるんだ?」
それは前々から用意してた質問ではなく、たった今ふと思い浮かんだ疑問だった。長すぎるくらい続いている争いは、爺さんが終わらせようとしても終わらなかったその応酬は、いつくらいからあったのだろう?
そういうのもあったし、たぶん『最初の鬼』の噂もよぎってはいた。最初の、ってそれまではいなかったってことなのか?
まぁ、そんななんてことはないような疑問だったが、カグヤから返ってきた答えに思わず言葉を失いかけた。
『そうですね……少なくとも鬼がナパージに渡来したのは100年ほど前だと記録されています。それ以前のことについては、“恐らくナパージ人と同じくらいの歴史を歩んだであろう人種だ”と仮定せざるをえませんね』
その答えには、鬼がナパージのどこかで自然発生した何かではなく、ナパージの外にはわりとうようよいるのかも知れないことが示されていた。
それって、なかなかバイオハザード的な世界観じゃないか?
一部を持ち帰っただけでこの桃源郷を作れるようなオーバーテクノロジーが、ナパージの外には溢れてるってことで……もしかしたら、OGREのウイルスとか、逆に言えばワクチンも量産できるレベルだったりとかするのかも知れない。
それに……。
「なぁ、今さ、あんた鬼のこと、」
「あれ? そこにいるのはもしかして……えっと、エタくん、だったか? あー、なんつーか……こんばんは」
「――――――っ!?」
唐突に声をかけてきたやつを見て、俺は不覚にも、カグヤに訊こうとしていたことを忘れてしまうくらいショックを受けた。
正直初めて見る顔だったが、まとう空気でわかった。
そこにいたのは、この間の屋上でアイザと一緒にいた黒装束のうち、サンの雷で動けなくなっていたやつらのひとり――――長身痩躯の男だった。
「あ、名前言ってないよね、おれ? おれはバロルっていうんだ。よろしくね、エタくん!」
「…………っす、」
なんか、屋上に現れたときとのギャップがすごくないか、こいつ!?
黒装束も、オフのときはフランクなんです、きっと(笑)




