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MOMOTARO - legacy -  作者: 遊月奈喩多
Chapter2.黒装束現る~Encounter~
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戦場に咲くはかくも無残な赤い華 筆:遊月奈喩多

イベント戦(?)の続きですね

さぁ、はたしてどんな戦いになるのか……

お楽しみくださいませ!

「ぁ、あぁぁぁぁぁっ!!! い、いだ、い……ぁぁぁっ!!」

 屋上で無様に転がっているだけの俺とは違って、サンは向かってくるアイザに対して臨戦態勢みたいだ。


「アイザとか言ったな、よくもオレのダチに手ぇ出してくれたな……!」

 バツッ――――――――!!!!


 空気が震えた。

 一瞬だが、関節の痛みを忘れてしまうくらいに、空気が変質していたように感じた。よく魔法の実技演習中にサンがふざけてバチバチと放つ静電気程度のものとはわけが違うらしい。

 ランは風属性以外にもいろいろな適性を持っているという規格外な存在らしいが、こと能力の精密性という点においては、サンもランに負けず劣らず優れている――というのは、どうやら俺みたいな編入生以外には周知の事実らしい。考えてみれば、雷なんて一歩間違えれば命に関わる能力、相当な制御ができなきゃいけないには決まっている。そういうことなのだろうか、いつもサンは雷の能力を弱めに使っているらしい。


 だから、そんなサンが本気で雷を使おうとしているところなんて、お目にかかることがなかった。それは、まさに大自然で行われる放電。えっと、確か雷が電気だって証明したのはアメリカの学者だか弁論家だかだったか? そんなやつのキメ台詞と言えば……


人よ、その探求は遍(フリーダム)く祝福されるべきも(・オア・)のである(デス)!!!」


 ドォォォォォ…………ン


 一面、光。

 たぶん周りの空気は一瞬だけ焦げ付いていたのだと思う。

 辺りには焦げたような臭いが充満して、少しだけ動く足を動かそうとしたとき、静電気レベルの痺れが身体中に走った。恐らく、本来なら周りにいた俺たち全員が感電しているような落雷だったに違いない。周りで俺たちを嘲笑うように見つめていた黒装束たちは全員腰砕けになって立てなくなっている。中には気絶しているやつもいるみたいだ。

 それを、俺とアルが静電気程度の痺れしか感じないようになっているのは、きっとサンが電流の細部まで制御しているからと言うほかない。

 改めて、化物なんじゃないか、この自慢の友達はよぉ……!


 半ば勝利を確信してやつのいる方角を見た俺は、絶句した。


「ふーん、素晴らしいね。こんな能力を使える子たちなら、確かにミヤの魔法を破ることもできるに違いない」

 影響があったのは、雷の余波ともいうべき衝撃と風だけだったのか?

 そこには、帽子こそ吹き飛んではいるがあとは無傷のまま、涼しい顔でサンに向かって微笑んでいるアイザの姿があった。やつは、なんとも余裕のありそうな顔でまだ焦げ付きそうな空気に手をかざして、冷静に分析でもしているみたいにあれこれとブツブツ呟いている。

 そして。


「うん、まぁこれくらいなら返せる(・・・)かな」

 次の瞬間、眩しい光が辺りを包んで。


 そのとき、どうしてそんなことをできたのかはわからない。

 ただ、必死だった。

 なんとかしなくては。

 直感で察してしまったんだ、アイザがしようとしたこと。

 返す(・・)

 どういう原理なのかはわからない、ただ、アイザはサンからの雷撃を無傷で受けただけでなく、それをサンに撃ち返そうとしていた。


 必死に俺は叫んだんだ、「避けろ、サン!!!」と。

 間に合わないことなんてわかっていたが、それでも叫んでいた。


 その結果なんだと思う。

 とにかくがむしゃらに、無我夢中に。

 気が付くと、空には巨大な薄氷が浮かんでいた。それが、アイザがサンに向かって撃ち返した雷だと気付くのに、1、2秒を要した。氷の能力を持つ俺自身がそうなのだから、他のやつはもう少し。

 それは、アイザも例外ではなかった。空を見上げて、初めて驚いたように眉を動かしている。


「へぇ、まさかこんな芸当をやってのけるなんて凄いな……! 初めて見たよ、こんな能力!」

「そうかよ……!」

 うぅ、くそ! 肘を曲げられたショックのせいで、話すだけでアイザが怖くて仕方ない! 奥歯がさっきからガチガチ言いまくってんだよ、ちくしょう! だけど、だけどな……!


 そんな近くで氷を見てると、怪我するぜ?

 何せ俺の作った氷像は……すぐに砕ける!


「アル、俺らの周りを覆ってくれ!」

「? ――――、オッケー、エタちゃん!」

 さすが初対面から「親友」を名乗るだけあるな、すぐに思惑を察してくれたか! アルが熱の結界を俺たちの周りに張るのと、雷を封じ込めた氷像が爆発するように砕けたのは、ほぼ同時だった!

 無数の氷が、超高速の弾丸になって辺りを撃ち抜く!

 熱と空気の層を織り混ぜた結界によって俺たちには届かなかったものの、地面に倒れ伏していた黒装束たちには――そしてアイザにも――、もろに直撃することになった!!!


「ぐあっ……!? あっ、がぁぁぁっ!!」

 蜂の巣にする、なんていう表現がたまにあるが、実際にそんな様子を見ることはなかった。だから、初めて見たときの怖気は、きっとこの先も忘れやしないだろう。

 間近で氷の弾丸を受けたアイザの皮膚はところどころ(えぐ)れ、穴だらけになった服は、黒いはずなのになんだか赤く見えるくらいの血に染まっている。なんとか頭と胸を(かば)ったらしい腕なんて、俺が負ったのなんて話にならないくらいの傷を負っている。

 貫通したのだろうか、何ヵ所かはぽっかりと穴が開いており、更に肘は砕けているようで、所々骨が露出した部分もある。赤黒い血液でべっとりと塗られてしまった肘は、鳥肌混じりで見つめている俺の前で力尽きたようにグラ、と垂れ下がった。どうやら関節も砕け、皮1枚で繋がっている状態らしい。右肘がまるで公園のブランコのようにぶら下がってしまった。


「今だっ!!!」

 改めて凄くないか、サン?

 俺なんてそんなアイザの有り様を見て、あまりの惨状に(おのの)くのが精一杯だ。それなのにサンときたら、アイザを含めて黒装束全員が満足に動けないことを冷静に把握して、そして突っ込んでいける果敢さ!


「オラオラオラオラオラオラァァァッ!!!!」

 そしてほぼ無抵抗に近い状態になったアイザに叩き込まれる連打! 雷をまとった拳が剥き出しになった神経組織を焼き焦がしていくのが、肉の焦げる臭いでわかってくる。

 ひと昔前の不良みたいな頭をしてはいるものの、普段は面倒見よくてとにかく優しいやつであることはわかっている。そんなサンが、ここまで本気でキレている姿というのは、なかなか見られるものではなさそうだ……とか謎の感想を抱いているうちにも、サンの猛攻は続く。


 ぐしゃ、ぐじゃっ!


 だんだんグズグズになっていくアイザの身体は、殴られていくたびに熟れ過ぎた果物が潰れるときのような音を立てている。サンが本気で撃った雷をあんなにあっさりと撃ち返してきたやつは、もう立っていられそうにないような状態だ。


「オォォォォォォォォッ!!!!」


 叫び声は高らかに、学内での実技も含めたテストの結果から「桃太郎の再来」とまで謳われている、まさに次世代の英雄。

 そんなサンが今まさに、平和を守るために悪を討つ――――そんな場面のはずだった。はずだったのに……!


 雷をまとった拳が、アイザを殴り倒すことはなかった。

 いつ現れたのだろう、アイザの背後にはカラスと呼ばれたスレンダーな女が立っていて。

 まるでそうするのが当たり前のように突き出された手が、サンの胸を貫いていた。


「ぁ……、…………ぇ……?」

 口から血を噴き出しながら、サンが掠れた声を発する。

「アイザ、撤退しましょう。このままではあなたが死んでしまう」

 そんなサンのことなんか素通りして、カラスはアイザに呼び掛けている。それを見ている俺たちはというと……ただ呆然としていることしかできないでいた。

 いや、何が起こってるんだよ?

 サンが、アイザを倒す。

 もう、そんな流れだったじゃないかよ。

 それがどうして、こんな……?


「だ、め……だ、ファイ、る……を……」

「既に回収しました。この場所に留まる理由はありません」


 アイザの執念に答えた冷たい声に、「え、」と声を漏らしたのは誰だったろう? 俺かも知れない、俺の後ろで能力を使った代価である火傷に(うめ)いているアルかも知れない、それとも、サンが……?

 え、どういうことだよ……?

 ファイルは、ランの風で遠くに運ばれたはずだろ? それを追うカラスを、ランが妨害して……それで、ファイルは守られたはずだよな、そうだよな!?


 なら、カラスが左手に持ってるファイルは何だよ?

 なんで、ここに戻ってきてるのがランじゃなくてこいつなんだよ!??


 そう、問い詰めたい。

 それで、サンに不意打ちを食らわせたカラスをぶっ倒して、満身創痍のアイザに最後の一撃を加えればいい。アルも火傷に苦しんでいる今、それができるのは俺だ……わかってる、そうわかってるのに、なんで俺の身体は動かないんだよ!!?


 何もできない俺の前で、カラスは事も無げにサンの胸から手を引き抜く。そして、呻き声を上げながら操り糸の切れた人形のように転がるサンには目もくれずにアイザを抱き抱えた。

 そして、突如発生した黒い竜巻がカラスたちを包んだかと思うと、もうそこには誰もいなくて。

 残されていたのは虫の息で転がるサンだけだった。


「屋上には上がるなと何度も……ん、どうなってるんだ、これは! すぐに救護班を呼ばなくては……!」

 バタバタと遠ざかる教師の足音を、俺は無力感と共に聞いているしかなかった……。

複数人の敵がいるっていうことは、こういうことですよね(絶望)

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