チャカとコナとワタシ。
明けましておめでとうございます
日曜日の昼下がり、彼女は街ブラしていた。
彼女が裏道に入ると、怒号が聞こえてきた。
「おどりゃー、何しやがんじゃー!
いてまうぞ、ワレェ!」
声が聞こえた方を見ると、見るからに893な男が1人の女性を痛めつけていた。
(もう、いてもうてるやん……)
そんな事を思いつつも、よく見れば痛めつけられているのは彼女の知人だった。
速やかなる戦域からの離脱を考えていた彼女だったが、友人の1人を永遠に失うかもしれないと思うと、被害者の命を見限る事が躊躇われた。
彼女はスマフォを取り出し、写真を数枚撮影した。
さらに続けて、今度は動画の撮影。
(これで証拠はバッチリ。)
彼女は行動を開始した。
彼女は何食わぬ顔をして、現場に近づく。
手袋を嵌めたその手には、「出入り口につき駐車禁止」の私設看板。
勿論、一端はコンクリートブロックで固められている。
彼女は、男に背後から近付き、脳天目掛けてフルスイング。
男は一瞬動きが止まる。
彼女は、今更足が震え始める。
男が頭を押さえつつ、彼女の方に振り返る。
そのまま彼女を睨み付けるが、彼女は意に介さない。
今度は男の顔面に目掛けて、コンクリートを叩き付ける。
「ごふぉっ。」
男が声を漏らす。
まだ痛みを認識していないのか、悲鳴ではない。
だが、次の瞬間……
「ごはあぁぁ~!」
男は悲鳴にならない悲鳴を上げ倒れ込む。
血と、折れた歯が飛び散る。
今度は、背中、肋骨部分に叩き込む。
更に、同じ部位にもう一撃。
彼女は、凶器を手放した。
足元には、自身の血に塗れ瀕死の893。
彼女は、男の上着のポケットを弄る。
「あった。」
彼女は、戦利品を手に入れた。
彼女の手には、2丁の拳銃と白い粉が入った袋。
彼女は、それらを手早く自分のトートバッグに入れる。
そして、茫然と自分を見ている友人に声を掛ける。
「し~っ。」
そう言って、人差し指を立てた右手を、自分の唇に当てる。
(さて、どうしようかしら。)
そんな事を考えながら、彼女は現場を後にする。
今回手に入れた拳銃は、リボルバーとオートマティックが一丁づつ。
(警察に届ける前に、撃ってみたいわねぇ……)
物騒だが、その好奇心は理解可能な範囲である。
更に、謎の白い粉。
よくあるのは覚醒剤や麻薬の類。
だが、彼女の頭には、もう一つの可能性が浮かんでいた。
炭疽菌。
911テロの後、プチ流行した病原菌。
(だとしたら、開封するのは危険ね。
でも、炭疽だとしたら、もう少し厳重に梱包するわよね?)
早い所、手放す事を考え始める。
だが、とも思う。
(これ、「イケナイお薬」とかだったら、浄水場の上流の川に流せば、十万単位のジャンキーの完成かしら?)
発想が、テロリストである。
893よりも、テロリストである。
結局、彼女は現場近くの交番に来ていた。
善良な一般市民としては、妥当な判断である。
「落とし物、拾いました。」
何食わぬ顔で、お巡りさんに告げる。
そして無造作に2丁ある拳銃のうち、リボルバー式拳銃を机の上に置く。
ゴトリ。
無骨な音がした。
お巡りさんの表情に緊張が見て取れる。
さらに、隣でキャーギャー喚いていた傍迷惑な酔っ払いが拳銃を見つめている。
「ちょとお、何見てんのよぉ?」
そう言うと彼女は、さらにもう1丁の拳銃を取り出した。
そして彼女は、銃口を酔っ払いに向ける。
カチリ。
「さぁ、安全装置は外したわよ?
事前にスライドを引いてあるか否か、その身体で確かめてみる?」
彼女の言葉に、交番内に緊張が走る。
「落ち着いて。」
お巡りさんが、声を掛ける。
「何言ってるの?
私は落ち着いてるわよ。」
「このまま拳銃渡しちゃったら、的が撃てないじゃない。
折角だもの、生きた的を撃ってみたいと思わない?」
「それに、昼間っから酔っぱらって暴れてるような人間、居なくなっても誰も困らないでしょ?」
……それには世間の4割が賛同するだろうけど、発砲には9割が反対するだろうな。
「さぁ、このまま引き金を引いたら弾が出るかどうか、試しましょうよ。
ふふふふふ、確率は半分の、シュレディンガーの拳銃よ。」
焦りの表情を浮かべる酔っ払い。
既に、漏らしかけている。
ふふふふふふ
果たして彼女はこの後、発砲したのでしょうか?
非常に気になりますが、結末は皆さんのご想像にお任せします。