第八話 魔剣士ユノと冒険者ギルド
目の前には、街を囲むようにして大きな土壁が聳え建っている。ユノたちはそれを一瞥してから、止めていた歩みを再び始めた。
街に入る入り口には門番が立っており、街に入ろうとする人に対して検問をしている。
それ以外にも、街に入るためにお金が必要らしいことが、この長い行列に並んでいる時に確認できたことだ。
それ以外では、
「なんかかなり見られてるわね」
「それは…だって、少年を抱えている訳だし、変に見えるよ…」
「そうなの…?」
なかなか注目の的であったことだ。
気を失っているかのような力なくだらりとしている少年を、金髪少女が軽々と片手で脇に抱えているのだから、色々と不自然だ。
そこで、ユノがレヴィアタンに小声で耳打ちをした。
「…流石に、変だから下ろした方がいいよ。レヴィが魔剣だってバレないようにしないと…」
流石に、それだけでこの金髪少女が魔剣レヴィアタンだとバレることはないだろうが、ユノの言った通り変ではあった。
「そうね…じゃあ、こうしよう」
そう言って行った行動は、脇に抱えていた少年を手前に立たせるように置き、その背中を両手で掴み無理矢理立たせていた。端から見たら、まるでゾンビと見間違える程にグダリとした格好で立たされている。
これでよしとばかりに満足気な表情のレヴィアタンだが、どうみても改善できたとは言えず、余計に注目を浴びているようにも感じる。
それを見たユノは慌てて訂正と説明を加えて、ようやくその場は収まった。
意外にもどこか常識的な部分で抜けている魔剣であった。
ユノとレヴィアタンがそんなやり取りをしている間に列は進み、ようやく三人の出番となった。
三人は門番の目の前に行き、門番の検問を待ち受けていた。
しかし、門番は怪訝な顔付きで三人もといユノとレヴィアタンと少年を交互に見ていた
「…おい、その…少年はどうした?」
当然の質問である。
「実は…」
ここでレヴィアタンが、経緯を説明。馬車がオークに襲われていたこと。オークは既にいなかったため、その場の生き残りを探索。結果、この少年だけ見つかったといった内容だ。証拠として地図を見せ、話の信憑性を上げた。
ちなみに、オークを倒したことにしなかったのは、どうやって倒したのかを必ず疑いの目でもって質問されるとわかっていたからだ。
オークという魔物は、少年少女が簡単に倒せるような魔物ではないと知っていた。そのための、火魔法による証拠隠滅であった。
レヴィアタンの説明を受けた門番は、徐々に眉を潜め、ついには瞼を閉じた。彼には何か事情がありそうだとレヴィアタンが感じたのも束の間、門番が口を開いた。
「…その馬車には、俺の友人が乗っていたはずだ。そいつはな、冒険者に成り立てで、初めての護衛クエストだった…。随分張り切っててな、「必ず成功させるんだ」と意気込んでいたんだが…そうか…」
淡々と語っていく門番であったが、最後には涙を溢していた。
門番は自身の友人の死によるショックで、レヴィアタンの状況説明にオークはどうなったとかの疑問は湧かなかった。
そんな門番は涙を拭いて、仕事に切り替えた。
結局、ユノたちはその馬車の被害者及び帰還者として扱われ、馬車の大体の場所を聞かれるだけで、通行料は支払うことなく街へ入れてしまった。
ちなみに、放心状態の少年は門番が預かっている。
ユノたちは街へ入るだけの賃金は所持していたが、門番の裁量により無料で入れることになったので、運が良かったと思いつつ入っていった。
この街の名前は“ミズガルド”。
近辺に鉱山があるこの街は、石工、鉄工業ともに盛んである。
そのため、街には職人、商人などが活気を持って働いている。しかし、何も商売をしている人が血気盛んなわけではない。
魔物の討伐、捕獲。鉱山で資源の採集、商人の護衛などを引き受ける人たちといった力がある者が多い。こちらも、この街では特色の一つを担っている。
その人たちをみんなは口を揃えてこう呼ぶ、“冒険者”と。
「…てことが、この街の人たちに聞いて分かったことね。後、冒険者ギルドの場所も」
「案内通りに来てみれば、本当にあったね、ギルド…」
ユノとレヴィアタンは街と冒険者ギルドの情報を聞き込み、この場所へと着いた。
目の前には、白くて武骨な建物がユノたちを見下ろしている。
建物の中からは、人々の喧騒が鳴り響いてくる。恐らく、冒険者たちによる声だろう。
ユノは初めて訪れた場所、初めて多くの人の往来を、初めての冒険者ギルドを経験し、思わずギルドの前で立ち往生してしまう。
「ユノ、緊張しているの?」
「う、うん…。少し…」
「大丈夫、私がついてるから」
「うん、そうだよね。…ありがとう」
ユノは、レヴィアタンの励ましによって、覚悟を決めた。
そして、ゆっくりと冒険者ギルドの門を開いた。