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魔剣使いの少女  作者: 抹茶スライム
第一章 はじまりの村
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第五話 魔剣士ユノと誘い


 村から出発し、既に夕暮れ。

 

 ユノとレヴィアタンの二組は、森の中で寝床を確保していた。

 場所は小さな洞窟。その中で一晩過ごす予定だ。

 

 食糧は森にあった果実や動物の肉を食べ、水分はレヴィアタンの魔法で出してもらい、火もユノには起こせないので、レヴィアタンが火の魔法でかがり火を灯してくれた。

 

 人型になったレヴィアタンが問う。

 

 「ユノって、もしかして魔法が使えない?」

 

 先程、火を魔法で起こそうとしていなかったことから、レヴィアタンはもしかしてと思い疑問を口にした。

 

 「うん。私は生まれつき魔法が使えないの。理由はわからないけど…」

 

 「ん、そうなんだ」

 

 レヴィアタンは、ユノの告白に少し驚く。

 

 この世界では、魔法が使えない人が殆どいない。

 故に、一般的に知れ渡る魔法が使えない人というのは、“魔法が得意ではない人”という意味となっている。

 小さな火を出したり、微風を吹かせたりと、どんな人でもある程度は魔法が使えるのだが。このユノのように、一切の魔法の行使が出来ない人は魔剣から見ても珍しい存在であった。

 

 それはつまり、ユノには魔力的某が微塵もないことを示している。

 

 そこから、ある仮定をレヴィアタンは作った。

 

 (…もしかして、私の“契約”魔法が正しく発動しなかったのは、ユノに魔力が無かったせい…?)

 

 この仮定は半分正解で半分不正解なのだが、今のレヴィアタンにこれを知る術はない。

 

 

 

 他愛もない話が続き、もう既に日が落ち、火の明かりが灯るのみであった。

 

 「レヴィ、私眠くなっちゃった。もう寝るね」

 

 ユノは、目元を擦りながら欠伸をする。

 

 「はい、おやすみ。安心して寝てて良いよ。火の番と見張りは私がやるから」

 

 剣であるレヴィアタンは、食事も睡眠も必要としないのである。ただし、決して取れない訳ではない。食事も睡眠も普通に出来るのだ。

 

 しかし、ユノはそれを許可しなかった。

 

 ユノは寝転びながら、手を広げ、こっちへおいでと言わんばかりの目線を投げ掛けた。

 その行為は、人肌恋しくなったための行動である。ユノは、レヴィアタンに辛い火の番と見張りはしなくて良いよという理由より、ただ自分が寂しかっただけだったのだ。

 

 レヴィアタンは、そのユノを見て、いつか感じた心の変化を再び感じる。

 

 頬が熱くなるのを感じたレヴィアタンは、ユノの誘いに抗いきれずに、ついに負けてしまう。

 

 「…あったかい」

 

 お互い、抱き合う形で寝転ぶ少女二人。

 

 ユノは、少女にしては豊かなレヴィアタンの胸に顔を埋め、そして寝息を立てる。

 

 

 レヴィアタンは、そんなユノの頭を優しく撫でた。

 

 

 

 

 

 翌朝、日が昇りきる前に支度を済ませたユノらは、早々に出発した。

 

 気持ち良く寝れたユノは、元気が良い。

 一方のレヴィアタンも、幸福感が一杯補充出来たので調子が良い。

 

 「今日はどっちへ行く?」

 

 『じゃあ、あっちの方角で』

 

  今日もまた、二人の宛のない旅が始まる。

 

 

―――

 

 

 とある街。

 

 ここ“レジン”では、とある事件の話で持ち寄りだった。

 

 住人は誰もが落ち着かず、引っ越しさえも考えている者が出るほどだ。

 

 商人や領主らも、これから起こるであろう災厄に、頭を悩ましている。

 

 兵士や冒険者、傭兵らは皆緊迫した面持ちでいて、全体的に空気が重くなっていた。

 

 事の発端は、ユノたちが洞窟で暖をとっていた時のこと、それと同時刻、この街の冒険者ギルド“開拓の大剣”に、とある男が駆け込んだ。

 

 その男は酷く憔悴しており、汗や涙で顔がぐしゃぐしゃであった。

 そんな不信感溢れる男が、必死になってこう叫んだ。

 

 「だれかぁ!!助けてくれぇ!!村が…俺たちの村が、化け物に襲われちまって!皆死んでいったぁ!!」

 

 泣きながらそう説明する彼の話を、ギルド内にいる者の殆どが聞いていた。

 

 その姿を見て、滑稽だと嗤う者が居たがその男の次の話を聞いて、全員静まり返ることとなる。

 

 ギルドの職員が問う。

 

 「その化け物とやらは、何かわかりますか?それと、あなたの村の名前を教えてください」

 

 「村は“キハナ村”だ!そんで、化け物はぁ…あ、あぁ…アーク…デーモンだ…!!」

 

 わなわなと震えながら話す男性。

 そう、あの惨状から辛くも逃げ切った人が居たのだ。

 

 彼はその日運良く、アークデーモンの襲来の時、村の近くに居なかったのだ。

 少し離れた川で魚を調達していた彼は、アークデーモンの魔の手から村の外から気付けたのだ。

 

 そして、見てしまった。

 

 村の人間が抵抗すら許さず、いとも簡単に殺されていくのを。

 

 彼は気付いたら、何もかもを捨てて逃げ出していた。

 

 夢中で走り、ずっと走り続けて、この街へとやってきたのだ。

 

 助けを乞うために。

 

 

 ちなみに、ユノたちは街の方角がわからなかったために、明後日の方向へと進んでいったのであるが…。

 

 閑話休題。

 

 

 

 

 男性の話を聞いていたこのギルドのマスターが、崩れている男性に近寄った。

 

 「…その話、アークデーモンってのは、本当か?」


 男性は、首を縦に振る。

 

 

 ギルドマスターは目を瞑り、一拍置くと口を開く。

 

 「全員聞けぇ!“緊急クエスト”だ!!」

 

 ギルドマスターが口にした“緊急クエスト”。

 普段、クエストと呼ばれる様々な依頼をこなしている彼らは、ギルドマスターが言った緊急クエストという意味を瞬時に理解する。

 

 「内容はキハナ村の閉鎖!及びその周辺に斥候希望者を置く」

 

 しかし、ギルドマスターから放たれた内容は、キハナ村を見捨てる方針の内容であった。

 

 ギルドマスターは淡々とクエストの詳細を話していく。

 キハナ村近辺への立ち入り禁止、銀級冒険者以上の者へのアークデーモンの討伐依頼など。

 

 次々に語られていく信じがたい内容についにキハナ村の男性は、ギルドマスターの足にしがみつき、どうしてと泣きついた。しかし、ギルドマスターから返ってくる言葉は、男性にとっては絶望的で、だが、とても現実的な答えであった。

 

 「…悪いがな、アークデーモンなんて化け物中の化け物が出りゃあな、助け出すことなんて難しいんだよ。勿論、救ってやりたいのは山々なんだがな…。救い出すには、必ずしも犠牲が出る。一体それはどのくらいか?そもそも、奴さんに勝てるのか?…お前も、俺でもわからない」

 

 喋りながら、丁寧に足にしがみついている男性を引き離す。

 

 

 「…だけどな、俺たちは最善は尽くす!」

 

 ギルドマスターは男性の肩を力強く掴み、言った。

 

 それを聞いた男性は呆然とし、項垂れるように頷いた。

 

 「どうか…おねがい、します」

 

 ギルドマスターは、その背にある大剣の重みを感じながら、視線を上げた。

 

 

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