第四話 魔剣士ユノとゴブリン
『とりあえず、街を目指そうか』
剣に戻ったレヴィアタンは、ユノに握られながら念話をする。
一先ずの目的として、生き残らなければならないという話になり、では寝床はどうするか、食糧はどうするかとなったときに、ユノから冒険者はどうかと提案があったのだ。
レヴィアタンは冒険者というものを知らないので、冒険者という職業を知りたいと自身も思ったために、寝床も食事も安定してありつけることができる街へと目指すことに同意した。
冒険者は、“冒険者ギルド”に所属していなければ名乗れない職業だ。
ユノの父が実際に冒険者だったために、良く冒険者としての父の話を聞いていたのだ。
そんな父を誇りに思っていたユノは、冒険者に対して興味があった。
しかし、ギルドがある街への行き方がわからない。
「こんな適当に進んでて、大丈夫かなぁ…」
ユノは当然の心配をするのであったが、
『私がいるから、魔物とかに出会っても大丈夫。戦い方も教える』
その心配だけじゃないのだけれどと思うユノであったが、口には出さなかった。
『ああ後ね、私は今の時代も脅威だと知られる恐れがあると思うから極力、アークデーモンを倒した時のような闇魔法は使わないで欲しい』
続けて、出来るだけ自分の存在を隠匿して欲しいことを言われる。これはレヴィアタン自身のためだけではなく、ユノのためでもあるのだ。
過去に暴れていた魔剣を持つ者を、どんな理由であれ放置しておくなど有り得ないからだ。
必要なことをばーっと捲し立てるレヴィアタンに、ユノはしっかりと聞き耳を立てて頭と心の内に刻み込む。
なるほど、お伽噺の悪役だけあって、バレると面倒なことになりそうだなと、ユノは理解するのであった。
「……でもレヴィは方向音痴」
会話をしながら、レヴィアタンの指し示す方角へと歩いていたユノは、ついに、崖という行き止まりへとたどり着いてしまった。
結局、元来た道を引き返して、また村へと帰りそしてまた村を後にするという妙な里帰りを果たしたユノは、それはとても微妙な表情をしていた。
『ユノ、前方に魔物!』
村からでて数刻後、村から離れた森へと歩を進めていたユノたちは、魔物との鉢合わせをしていた。
「わかった!」
静かに魔剣を構えるユノ。
そして、レヴィアタンの警告通り、前方から三体の魔物が姿を現した。
「ニンゲン!ニンゲン!」
「タベル?クウ!?」
「オンナダ!オカセ!」
ギャアギャアと耳障りな声を上げるその三体は、緑色の皮膚、尖った耳に曲がった鼻。
醜悪な顔をしている彼らはゴブリン。
動物の皮を腰に巻き、手には彼ら手作りの棍棒が各々の手に握られている。
ユノより小さい体格の彼らだが、野生に生きる魔物。
油断すれば大人でも簡単に殺せてしまう程の力を持っている。
ユノはゴブリンを見ても、後退りせずに正面で見る。
(…アークデーモンを見た後だと、ゴブリンなんか怖くないや)
アークデーモンという正真正銘の化け物を目の当たりにしたユノにとって、このゴブリンという魔物は恐れるに足りなかった。
『ユノ!さっき話した通り、私の力は使わないで戦って。大丈夫、あなたの身体能力だけで勝てるから』
「大丈夫、わかった!」
これまたアークデーモンとの戦闘を経ていたユノは、ゴブリンらを切り伏せることが可能だと信じて疑わない。
『だけど、油断は禁物だからね』
レヴィアタンの忠告に、ユノは心から同意する。
良くも悪くも、慎重な性格なユノは、油断や慢心には繊細に気を使っていた。
ギャアと奇声を発して、ゴブリンが一斉に襲いかかってきた。
それをユノは、魔剣を使って次々と切り伏せた。
棍棒が降り下ろされる前に、打点から避け、首を斬り飛ばす。
二体目は、その返す刃で素早く首を飛ばす。
最後の一体も、自身の俊敏さを活かして同様にする。
どうやら、ユノはあの一件以来、特に魔物の命を奪うのに躊躇が無くなっていたようだ。
以前は返り血など浴びることのない、平和な生活を送っていたのだが…人は変わるものだ。
特に問題なく三体のゴブリンを狩ったユノは、ゴブリンの血がべっとりと付いた魔剣状態のレヴィアタンを見て、問う。
「れ、レヴィ。…血、気持ち悪くない?」
時おり、彼女が剣だということを忘れてしまうユノは、そう聞いた。
そう問われたレヴィアタンは、おかしくて思わず吹き出してしまった。
『大丈夫、今は剣だから感触が無いの』
人型時なら感触があるが、剣型時はその硬い剣身故に感触がない。
ちなみに、視界についてはユノの視界と共有されているし、感知魔法を駆使しているために正直眼が見えなくてもある程度なら周囲を知ることができるのである。
閑話休題。
私は剣であるからと当然の返しをされて、赤面するユノであった。