最終話 祝宴
翌日、いつものように太陽が昇り、ホッジス王国にいる生き残りたち明るく照らす。
ホッジス王国に元々いた住人や、ミズガルドから来た遠征隊の生き残り…様々な人たちが互いの生存を喜び讃えあっていた。
昨晩、ここホッジス王国を脅かし続けていた元凶であるマモンが死亡した情報が城内に伝わっていた。
あれだけいた配下のゴブリンらは、自らの王がやられたと認識するや否や蜘蛛の子を散らすようにして逃げたのである。
そうして後に残ったのは、無人となってしまった城下街と僅かな生存者たちだけだ。
だがこれでようやく、悪夢が覚めたのである。
しかし、城内の一部の人間らは疑問に思った。「一体、誰がマモンを討伐したのだろう」と。
マモンにやられたと思われていたウォーロットやギルダ、ディッディにノウチも重傷ながらも生存しているが、気を失っていたため皆それを見れてはいなかった。他の戦闘員らも大勢のゴブリンの対処に負われていて同様の結果だ。
だがしかし、数人だけ目撃者がいたのだ。
昨晩、マモンが城の外で人らしき何かと戦っていたこと、そして、最後にはこの城と同等程度の大きさのドラゴンが現れたことを目撃していたのだ。
「だから!本当なんですって!本当にドラゴンがいたんです!」
「お、俺も見ました!あれは間違いなくドラゴンで、そして、口からブレスを吐いてマモンを殺したんです!」
男性二人が興奮した様子でウォーロットに話す。
「わかったから少し落ち着いてくれないか…!」
なんとかして宥め、冷静になった彼らから再度情報を聞き出す。
「――つまり、マモンは人間らしき者と暫し戦闘をした後、今度は蛇のような細長い体躯をしたドラゴンと戦闘になり…死んだと。そういうことだな?」
「はい、ドラゴンに関しては戦闘というか、一瞬の出来事でしたので戦闘と言っていいものなのかわかりませんけどね…」
「ふむ…。なるほどな、情報提供感謝する」
ウォーロットは男性二人を帰した後自慢の白の顎髭を触り、一人考え込む。
(…にわかには信じ難い話だ。あの時、あの場に我々以上の実力者がいたのだろうか、それとも救援が間に合い、他国の実力者が来たのだろうか)
マモンとやり合ったと言われている人物について先に考えてみる。
しかし、はたして高速移動しながら大魔法を連発する人間がいるだろうか。
もしいたとしても、自分はそれを人とは認めないであろうなと、思うウォーロットである。
(だが、問題はそのだけじゃない。その後、その人間はマモンに敗れたのだろうか…?暴れぶりを聞くにちと考えにくいが、だが最終的に止めをさしたのが蛇のような巨大なドラゴンであったというではないか)
人ならざる人はその後どうしたのだろうか?
男性二人はいつのまにか人もドラゴンも消えていたと話していたが…。
(…はぁ、正直この点が実に信憑性に欠ける。あの者らを疑う訳ではないが、窮地に追いやられた故の幻覚と捉えざるを得ない…。そもそも、ドラゴンなれば首は長くとも胴はしっかりと太いハズなのだ。頭から尾まで細いドラゴンなぞ、それこそサーペント種であろうが…うーむ…)
すると考え込むウォーロットを覚ます音が部屋に響いた。
「どうぞ」
ウォーロットが招き入れると、扉が開き見知った顔の男が恭しく入室してきた。
「ウォーロット様、そろそろ祝宴が開催されますのでご準備をよろしくお願いいたします」
丁寧な口調でそう言ってきたのは、おとなしめな印象のノウチであった。
城に結界を張り続けてくれていた大魔導師と魔法使い殿らも含め全員ある程度回復したとのことで、皆で祝福の宴が催されることとなった。
その際、このホッジス城での戦いにおいて最も活躍したと指名されたウォーロットが挨拶をすることになったため、先程ノウチから声が掛けられたのである。
「わかりました。直ぐ行く」
ウォーロットは難しい表情のまま、その歩を進めた。
結局、「マモンを討伐したのは誰なのか」という問いに答えられる人はおらず、最終的には「マモンを倒したのはドラゴンに変化することのできる人」という見事に尾ひれが付いた信憑性のない噂が人々に信じられた。
祝福は朝から始められた。
生き残りの者らは、この喜びを早く形として表現したかったのである。
ガヤガヤと人の歌声やら物音やらで騒々しくなる城内。
昨日まで本当に全滅の危機に瀕していたのかと思う程の人々の笑顔がそこには溢れていた。
城にあった酒や食事を全員に平等に振る舞った。
「ユノ、本当に大丈夫?」
料理を受け取り、ユノに近寄るレヴィアタン。
昨晩、ユノは城の医療班に診てもらい、治療を受けていた。
医者曰く、内蔵に異常はないが、肋骨が罅割れていると判断されたのだ。よって、回復ポーションを処方された。
この世界に、外傷以外を治す魔法は少なく、技術に関しては全くといっていいほどない。
魔法が発達し、全て魔法によって解決するのが当たり前になっているので、骨折や病気に関してもこうして魔法やポーションなどの回復薬で処置する場合が殆どである。
しかし、それが全く駄目という訳ではなく、むしろそのポーションによってユノの骨は驚異の修復力をみせたのである。
つまり、既に全快に近い状態であるということだ。
故にポーション作りに関する技術ばかり発達しているが…。
閑話休題。
「ありがとうレヴィ。でも、もう大丈夫だよ…!自分で取ってこれるから…!」
レヴィアタンが持ってきた食事が乗った皿を受け取りながら言うユノ。
「ダメ!ユノはまだ安静にしてなくちゃ…」
「むしろレヴィこそ!少し疲れてる顔してるよ!」
ユノに指摘され、レヴィアタンは思わず自分の顔を触れた。
レヴィアタンは、先日の“龍化魔法”によってかなりの魔力を消費してしまっていたため、ユノの指摘通りあまり気分が優れていなかった。
「…ありがとう。でも私は大丈夫。むしろ、あれだけ怪我をしたユノのほうが…」
「だから大丈夫だって!」
ユノはその乗せられた料理を平らげ終えると、ぴょんと跳ねるようにして怪我人用のベッドから飛び降りた。
「ほらね!」
ユノは軽快に食事が振る舞われている場所に駆けた。
それをレヴィアタンはあわあわと狼狽しながら追いかける。
「ま、待ってユノ!」
その二人の無邪気なやり取りと子供らしい光景は、見る者に「あぁ平和を取り戻したんだな」と心に染み渡らせることとなった。
「ほらレヴィ!これ美味しいよ!」
ユノが料理を両手一杯に受け取り、笑顔でレヴィアタンに言った。
それを見たレヴィアタンは、笑みと呆れが混じった顔ではぁと一つ溜め息を吐いた。
「じゃあ、頂くね」
「ひままでほんなにおーひーのはべたほほなひ!」
「え、何?今なんの魔法を唱えたの?」
「おーひーってひっはほ!」
「お、おーひーってひっはほ…?」
両の頬をパンパンに膨らましたユノは満足気に頷いた。
「…いや、分かんないんだけど」
そしてお互いに笑いあった。
本来はまだ続きがありましたが、私事によりここまでとなります。
稚拙な小説でしたが最後まで読んでいただきありがとうございました。
次作を投稿したら、そちらも是非よろしくお願いいたします。