第十五話 魔剣士ユノと怒り
「―今後ともこの私、カナリアをよろしくお願いします!」
そう受付嬢の自己紹介をもらった後、二人は受付カウンターを離れ、ギルド内の酒場で昼食を取っていた。
酒場とは言っても、未成年者も利用できるし、なにより酒だけではなくちゃんとした料理も注文できるのだ。
宿と食事処が併設したような場所であるこのギルドは、とても快適に思えた。
その酒場で料理を楽しんでいた際、二人に声を掛ける者がいた。
「ねぇ君たち、ここに新しく入った娘たちだよね?」
若い男性だ。ここの冒険者だろうか、剣に胸当てなど装備を身に付けている。
その男以外にも似たような格好の男が一人その男の近くに居ることから、どうやらこの二人は組んでいることが推察できる。
「そうですけど…何か用ですか?」
ユノが問いかける。
「いやなに、新人ちゃんに冒険者として色々教えてあげようかなと思ってね」
「そうそう、俺らランクが―銅級なんだ。だから色々知ってるからさ、俺らとパーティー組まないか?」
笑みを浮かべたまま、話をする二人。
冒険者はそのほとんどが数人でパーティーを組み、クエストを受けている。その恩恵は生存率、クエスト成功率の上昇、行動の分担、効率化が図れるなど、様々なメリットがあるがデメリットもある。
そういった面でパーティーに誘う者が多いがはたして。
「えーと、ですね…―っ!?」
ユノが何かを最後まで言いきる前に、レヴィアタンがユノの手を引いて席を離れる。
「わわっ、ど、どうしたの!?」
「あれは関わらなくていい」
レヴィアタンは、話しかけてきた彼らの真意を看破していた。
つまりは、下心を持って、近付いてきたのだ。
それを早くも察知したレヴィアタンが面倒事になるまえに退きたかったが、男二人は諦めが悪かったようで、素早く移動してはレヴィアタンの前で立ちはだかった。
「ちょっと待ってよ!どうして逃げるんだい?」
レヴィアタンは思わずため息を吐いてしまう。面倒だな、と。
周囲を見れば、こちらの状況を窺っている者がちらほらといる。見せ物を観ているような感覚でいる者、つまらなそうに見ている者…。
(さてと、どうしたものか…)
ここで騒ぎを起こしては、ギルドの規則に反することになる。かといって逃走をしてもこの男達は着いてきそうな勢いすら感じた。
レヴィアタンは考えた。
(何か、こいつらの弱みになるようなモノはないか…?)
考えを凝らそうとしていると、ふいに後方から声がした。
「ね、レヴィ。パーティーを組むのに別に悪い気はしないんだけど、ここはこの人たちと組んでおかない?」
「そうだよ!この娘のいう通りさ、組んだほうが色々と得だと思うんだ」
すると一人の男が徐にユノに同意しながら近寄り、その肩に手をまわした。その男の突然な行動にユノは驚く。
…その行為は、とある人物の何かの引き金となる行為とは知らずに、男は卑しい笑みを浮かべている。
「…ユノから離れなさい」
レヴィアタンは静かにそう言った。
「君たちだけじゃ不安なんだよー、命の危険が付きまとうのがこの冒険者という仕事だからね」
だが男は、聞こえていないような素振りをする。
目線はレヴィアタンを見てはいるが、どこか視線が下向きだ。
「…何度も言わせるな…離れろ」
再度警告を促すレヴィアタン。流石にこれにはユノも初めて見るレヴィアタンの怒りに戸惑いを隠せない。
そのユノの様子を見た肩に手を回している男が、何を勘違いしたのか、さらに大胆な行動を取った。
肩に回していた手はユノの顎を触り、自らの顔をぐっと近付けたではないか。
男は、自分の容姿に自信があるのか、大胆な行動をするのに躊躇はなかった。実際、彼は優れた容姿を持つのだが、ユノは唐突な接近に怯えた。
それを見たレヴィアタンはついに堪忍袋の緒が切れ、激昂した。
「…その手をどけろ!下衆野郎ッ!」
彼女が放つ殺気ににも似た怒気は、一人の男を恐怖の色に染めた。
――七つの大罪“嫉妬”
怒りと共に発せられた嫉妬の感情。
彼女に嫉妬を向けられた者は、その場でまるで力が抜けたようにしてその場に崩れ落ちた。
無意識に使用してしまったスキル。レヴィアタンはハッとして直ぐ様スキル発動を止めたが、その効果は絶大。嫉妬に蝕まれて地面に手を付いていた男は暫く立ち上がることが出来なかった。
「レヴィ…」
驚いた表情でレヴィアタンを見つめるユノ。
騒然と歓喜の声が混ざるギルド内。
レヴィアタンはいたたまれず、ユノの手を引いて逃げるようにしてギルドを出た。




