第十話 魔剣士ユノと試験
場所は冒険者ギルドの地下修練場。
冒険者になりたいユノは、受付嬢の案内に従い、この場所まで来た。
側にはレヴィアタンもいるが、今回はユノだけがこの試験の対象だ。
「…ということで、以上が冒険者特別認定試験の内容です」
受付嬢が主にユノに説明をする。
内容は非常に簡単で、これから来る試験官と模擬戦を行い、勝利せずとも、戦えるかどうかを判断する試験である。
武器は全て木製で、剣、短剣、弓、槍、槌の五種類の中から選ぶ形式だ。
とあることで迷ったユノは、レヴィアタンに確認をとる。
「ねぇ、レヴィ?」
「なぁに?」
「…“他の”って使っていいの?」
ユノは「“レヴィアタン以外の武器を”使っていいの?」と暗に聞いていた。勿論、近くにいて聞こえていた受付嬢には全く伝わってないし、しかし、レヴィアタンにはしっかりと伝わっていた。
「勿論大丈夫よ」
故に、レヴィアタンはユノの背中を後押しした。
実際に、レヴィアタンと契約をしているとしても、他の武器を扱っていいのだ。過去にはレヴィアタンは操っていた人に防具を着用させていたこともあった。即ち、特に気にしていないのだ。
ユノはどこか独占欲の強いレヴィアタンに対して気を使っていたが、そう言われてしまえば迷うことはなくなった。
「私、これにします!」
そうして手にとったのは、木製の剣。
レヴィアタンはそれを見て、内心嬉しくあった。
「じゃあ、それで決定ですね。もうしばらくお待ちください、そろそろ試験官が来ると思いますので…」
するとタイミング良く、修練場の扉が開かれた。
「よお!待たせたか!俺が今回の試験官を務める銀級冒険者のエレヒムだ!」
そこには、二十代前後の若い男性がいた。
エレヒムと名乗った男性は真っ直ぐこちらに歩みより、迷わずに試験用の木剣を手にとった。
それを呆気に取られた表情で見つめるユノ。
唐突に入ってきては自己紹介をし、間髪入れずに武器を手に取る。まるで嵐のような人だなと、ユノは感じていた。
「どうした?俺は名乗ったんだ、君も名乗ってくれないか」
すると、エレヒムは木剣を叩くようにして何度か肩に当てる。もうこちらは準備万端なんだと、暗に伝えている。
それを見たユノは慌てて名乗る。
この一連の流れを見ていた受付嬢は「すでにエレヒムさんのペースに飲まれているな」と感じていた。
事実、このエレヒムはこの試験場に入室するときから相手の力量を測っていたのだ。
先ず、自己紹介の時に告げた“銀級”冒険者であること。この銀級という単語を知っている人が聞けば、何らかの反応は示すはずだとエレヒムは考えていた。なにしろ、銀級冒険者と言えば一流の世界に生きる者を指す。冒険者の等級を知っている、つまりは常識を知っているかどうかの判断材料なのだ。
この銀級冒険者と告げた際、ユノは不思議そうな顔をしていたため、エレヒムは冒険者の知識が浅いことを確信した。
次に、直ぐ様木剣を手にとったのも理由がある。これは相手と同様の武器を持たれたときの反応を伺うためだ。同じ武器の使い手だから闘志を燃やすか、同じ武器の使い手だったから武器を変更するのか…。
様々な要素をまたここで見定めることが出来るのだが、ユノはこれには特に反応示さなかった。
そして今、目の前の少女はあわてふためいて自己紹介をしている。
以上のことからエレヒムは思う、「この少女は、まさしくどこにでもいる平凡な少女だな」と。
まぁ、軽くいなして終わりにしようと、ユノに興味が薄れたエレヒムは仕事を早く終わらせようと考えていた。
「じゃあユノ、頑張って」
「うん、頑張る!」
レヴィアタンは、受付嬢に案内されて観戦席へと移動する。
レヴィアタンは一切、この試験について心配はしていなかった。自分がユノに与えたステータスがあるから大丈夫だろうと、安心していたのだ。
そして、試合はエレヒムの声で始まる。
「じゃあ、準備はいいか?」
「はい!」
「気合いは十分だな。まぁ、手加減するから、よろしくな!」
会話が終わり、場に静寂が訪れる。
エレヒムは脱力し、なんの構えもないまま立っていた。
対するユノは、ゆっくりと剣を頭上に持っていく。
(…あまり見ねぇ型だ。誰かに教わったのか?)
エレヒムはユノの独特な構えに思案する。この構えは実はアークデーモンに放った闇魔法の場面と同じ型なのだが、ユノはただ、癖になりつつあるこの構えを無意識にしただけに過ぎない。つまり、この構えに特に意味はないのだ。
(まぁ、何でもいいか。来ねぇならこっちから行くまでよッ!)
考えるのをやめたエレヒムは、真っ直ぐユノに突っ込んだ。
次の瞬間、エレヒムの視界の中のユノがブレた。
ユノは銀級冒険者の目で持ってしても追いきれない程の速さで動いていた。




