第8話
「今、隣の女の部屋から出てきたやろ。遅いねん!ウチやって引越して来て、待っとったんやから!さー、入って!あ、名前?水森春絵!あんたは?」
「佐々木周です…」
「ふーん、変な名前。ま、入って」
もったいないと思う。だって、12月にも関わらず、長くて細い足を惜しげもなくさらすホットパンツ。に黒ハイ。華奢な腕とくびれを見せつけるかのような、肩見せぴちっとセーター。小さい肩にかかるくらいのストレートボブヘアに、細い首からの顔はこれまた端正!一つの難点は、胸が平均よりもちょっと小さいくらい。いわば72点。なのに!
「大阪弁…」
「大阪から来たからやけど…文句あるか?」
ある!もったいない!
「いえ、何も…」
春絵さん(これも放っといてほしい)の部屋は、たこ焼きで埋め尽くされていた。たこ焼きのじゅうたん、クッション、テーブル、カーテンなど。たこのぬいぐるみも4つほど。
「たこ焼きお好きですね」
「だってうまいもん」
そっちか。
「あ、そこに座ってて。たこ焼き持って来る!」
マカロン食べた後のたこ焼き…ま、いっか。しばらくして春絵さんが、ホカホカしたおいしそうなたこ焼きを持ってきた。
「いただきます」
おいしい。口に入れた瞬間、それしか出てこない。
「それ、大阪で超人気のお土産用たこ焼き。だから、大阪人は食べた事あんまないねん…」
と、言いつつ、口からよだれが出ている。
「食べますか?」
「はっ?べ、別にそんなんいるなんて一言も言ってないし!」
言外には。てか、じっと見すぎ。ツンデレ?激カワ。
「はい」
「う……」
春絵さんは負けてとうとう食べた。そして、途端に笑顔になる。可愛い。
「何これっ!たこウマっ!激ウマ~!!!」
ふと、たこ焼き型の壁掛け時計を見る。ヤバイ、佳恋さんからの内職が終わってない。
「すみません。ご馳走さまでした」
「あっ、ちょっ…」
立ち上がった時、袖の裾を引っ張られた。転びそうになるくらいの怪力だったが、何とか踏みとどまる。
「?」
「ま、また来て下さい…」
目線をずらし、頬を赤めらせながらもじもじと言う。か、可愛い。
「はい」
自分の部屋に戻った途端、忘れていた現実味。
さて、始めるか。