第6話
外に出ると、夕日で空がオレンジと薄い紫色のグラデーションになっていた。 スマホを見るともう5時半。家を11時くらいに出たから、既に6時間半くらい経っている。最初の2時間は客だったから、働いた(絵を描いた)時間は実質4時間半。こんなに一気に絵を描いた事がなかったから、右手が痛いし、鉛筆で黒くなっている。しかし、佳恋さんは一回自分の配下に置くと、ズカズカ来るタイプだ。何を言われた(された?)かは割愛させていただきたい。 とにかく、俺はひたすらメイドさんを描きまくった。それだけ?だ。
アパートに着いたら、すっかり暗くなっていた。もう本格的な冬で日が落ちるのが早い。どうでもいいが、このアパートの名前は『加住荘』だ。あくまで大家の人の名前が加住さんなだけであって、ウケ狙いではない。………と思う。
俺はいつも通りに錆びている音がうるさい鉄の階段を上り、いつも通りに一番端っこから2番目の古びた赤茶色のドアまで歩こうとした。歩いた。が、俺の一つ前のドアが勢い良く開き、俺の横顔に見事ヒットした。大ヒットだ。いや、それ以前にここには誰も住んでいなかったはずだ。遅れて横顔(左)の痛みと、若い女性の声がそばから聞こえてきた。
「ごめんなさいっっ!大丈夫ですか?すみませんっ」
ドアからひょいっと顔が出てきて、俺は尻餅をついた。驚きではない。あまりにも可愛いすぎる女性がいるからだ(これも驚きだが)。
「あっ、あの今日ここに引っ越してきました!村上晴子って言います!よろしくお願いしますっ」
痛みも吹っ飛んだ。