第5話
しばらく俺の手は動かなかった。真正面でこんな美女を見る事のない俺にとっては、これは神様がくれた小さそうで大きい奇跡なのだ。
「いい感じに描けてます?」
その声で、俺はふと我に返った。見惚れている場合じゃない。でも、また見れば、動かない気がする。
(切れ長の目に厚い唇、左目の下に涙ぼくろ、鈴っちより大きい胸に抜群のスタイル…ああ、ダメだ!)
必死に手を動かし、15分後にやっと描き終わった。疲れきった顔の美園さんに見せると、ぱっと笑顔になった。
「ど、どうですか?美園さん」
「やだあ、佳恋さんって呼んで下さいよ!…すごく上手ですね!やっぱり、私の見立てどうり」
「ありがとうございます。佳恋さん」
「いえいえ、そんな……………………………………………そうだっ!!」
「えっ?」
考え込んでいると思ったら、いきなり声をあげ、びっくりしていると、いきなり握手し、ブンブン手を振ってきた。
「なっ、なんですか?」
「うちで働かない!?チラシ描いたり、ポスターも!メニュー表とか、色んな所に絵を!バンバン!描く!ひたすら!……時給はねぇ、950円!どう!?」
「きゅっ、950円!?」
その上、俺の得意な<イラスト>を生かせるのだ。こんな良い仕事は他に見つからないだろう。
「やります!やります!よろしくお願いしますっ!」
「金絡みだとテンション上がるのね。そーいう所好きだわ。…鈴!」
「はっ、はい!?」
「今日からアルバイトとして働く、佐々木周君ですっ♪あんた、ほんとに絵が下手だから…ほらっ、自己紹介!」
「はっ、長谷川鈴です!よろしくお願いしますっ」
まぶしい笑顔だった。