第4話
「こ、こちら店長の…美園」
「今、自分で名前言ったでしょ!?だから店長です、だけでいいの!ほんとバカねぇ、大丈夫?」
「すみません…」
どうやら、この店の店長さんらしい美園佳恋さんは相当厳しいようだ。美人によくあるパターンか、と俺は思いながら冷めたコーヒーを啜った。
「お名前は何とおっしゃるんですか?」
「佐々木周といいます。あの、こちらの店やメイドさんをイラストの参考にさせてもらってもいいですか?美大目指してるんで…」
「えっ、そうなんですか!?ぜひどうぞ。って事は絵を描くのが上手なんですね!うちの娘にもチラシ描かせたんですけどね…自分から描くって言ったくせに絵が泣きそうになるくらい下手で……」
と、言いながらさりげなく鈴っちを睨んでいる。鈴っちはすみません、と消え入りそうな声で謝った。
「自分では上手いか分かんないですけど…どうなんですかね?」
「じゃあ、私をモデルに描いてくれません?絶対上手ですよ!上手そうなオーラ出てるもん」
「は、はい」
鈴っちを描きたかった気もするが、そう言えば俺ではなく、鈴っちが犠牲になるのは分かっている。俺は持ってきたスケッチブックと鉛筆をバッグから取り出した。
「こんなポーズでいいですか?」
腰に左手を当てて、右手でピースサイン、少し体を前かがみにして、笑顔という、案外シンプルなポーズだった。
「はい。大丈夫です」
これが俺の<イラスト人生>のきっかけになった。