プロローグ
「あんったは何やってんのっ!!」
「ひえっ!」
まだ新しく買ったばかりのスマホから鬼の声が聞こえる。何だろう、最新のスマホは無駄に音声機能が良いのか。
「今の今まで調子こいてて!そんなだから、2年も浪人する事なんのよ!少しは学習しなさい!学習!」
ここまでくると、怒りで真っ赤に染まった鬼の形相まで見えてきそうだ。俺はただ、この説教が早く終わる事を願うしかない。もうすでに30分以上経過している。
「もっと良いアルバイトして、ちゃんと勉強して、大学入りなさい!日本一のイラストレーターになるのが夢なんでしょ…もうこれ以上心配させないでよ」
急に声が低くなって驚いたが、2年連続でイライラしてただけではないらしい。おれは90%の安堵と10パーセントの感謝の気持ちで素直に謝った。
「ごめん。次は絶対合格する」
「まあ、あんたの<絶対>は期待出来なさそうだけど…頑張りなさい」
そう言うと、一方的に切れた。ほとんど聞き流していたけど、最後の言葉で少し元気が出た。
俺、佐々木周は唯一得意の<イラスト>で去年、美術大学を受験したが不合格、1年の浪人生活を過ごし今年同じ大学を受験、そしてまたもや不合格。内心ビクビクしながら、さきほどの声の主(俺の母さん)佐々木翔子に報告したのがたった今だ。結局、なんだかんだ言いながら最終的には収まる。それは良いのだが、確かにちゃんと勉強しなくてはいけない。でも、どうすればいい?
「……あ」
ふと、目に止まった白い丸テーブルの上の一枚の紙。手に取ると俺が描いたイラストだった。若い女性がメイドのコスプレをして、ピースサインをしている(地味にアヒル口)。
つい先日、このイラストのモデルになった女性とある事件に遭った。その事件の詳細を語るとなぜこの女性がメイドのコスプレをしているのかが分かるが…。次にしておこう。
俺は、丸テーブルに置いてあったもう一枚の紙を取ると、アパートを出た。