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 ぼんやりとした夏の日の午後。

 意識はぼんやりとしたとしても、その日差しは強い。昇りきった太陽は容赦なく下界を照らしつける。

 そんな日差しの中、クロエは麦わら帽子を被り、街の港の桟橋に座り、海上に足をぷらぷらと揺らしていた。

 太陽の光の強さもさることながら、その光を海が反射したその光もまた強い。見ている分には、キラキラ光っていて綺麗なのだが、女性の肌には天敵である。クロエはその白目の肌を保つべく、日焼け止めの乳液など対策している。だいたい、肌が焼けるのが嫌であるなら、このように暑い時間帯に出てこなければいいのだが、クロエとしてはいたたまれなかったのだ。

 今日は、クロエの父親が久々に帰ってくる日。もう二ヶ月ぶりといったところだろうか。いつもならひと月ほどすれば帰ってくるのだが、今度は長かった。クロエとしては父親と会う今日この日は待ちに待った日であり、帰ってくるとあるならば、もう家でじっとなどしていられない。ちなみに、帰ってくるのはあと三時間後。いくら待ちきれないからといって、いささか早すぎた。

 でも、クロエにとっては時間など些細な事だった。待つのは十分に待った。二ヶ月も。それに比べれば三時間など、ほんの一瞬だろう。

 今日ばかりは店を閉め、午前中は父親のために色々と準備をしていた。最近自分で開発した、新作のパンの試し焼きをしたり、その他いろいろ買い出しに行ったり。準備は万端だ。

 あとはただ待つだけ。

 水平線の向こうに視線を向ける。今度行っているのはどこの国と言っていただろうか。クロエとしてはよく覚えていなかったが、どこか遠くの国ということはわかっていた。

 知らない場所を転々としていく自分の父親。不安がないといえば嘘になる。二度帰ってこなくなるのではないかという不安。

 ずっとその不安を押し殺して、そして帰ることを知らせてくれる手紙に安堵する。その繰り返しだった。

 いつかずっと父親と一緒にいられたら。そんなif(もしも)でしかない想像を繰り返して、むしろそれが無理なことだという確信が強まっていく。

 クロエは父親が好きだ。

 だから、自分の父親には幸せでいてもらいたい。そう。だから彼にとって、世界を渡り歩く仕事、が幸せなことなら、クロエもそれでいいと思っていた。ただし、少し前までは。

 今は少しだけ寂しかった。

 空を見上げるとウミネコが一羽だけ、ひらりと飛んでいた。いつもは何羽か一緒にいるはずなのに、今日はどうしたのだろうか。ネコのようなあの鳴き声も出さずに何かを探しているようだった。

 ぼうっとそれを眺めていると、ふと足音に気づいた。

「やあ。こんな暑い中なにしてるの?」

 声にはっとなり、クロエは振り返る。

 そこには、昨日パン屋に来た、あの不思議な男の人がたっていた。

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