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暗い部屋。ベッドの上に寝転がりながら、窓から見える夜空なんかを眺めていた。
星は残念ながら見えない。薄い雲がかかっている。別段、星を見る目的でないからいいのだけれど。雲がその上にあるのであろう月の光を吸収して、淡く光っている。星の輝きもいいけどこれもまた一興。
ふと昔パパと見た夜空を思い出した。あれはまだ私の幼いころ。確か、冬のことだったと思う。ああ、そうだ。あれはいつかの年明け、初詣で山の中腹辺りにある神社に参った時だった。あまり大きな神社でないけれど、地元の人はたくさん訪れる。たしか、その時になんとなく空を見上げて冬のなんともない雪空になぜか感動したことを覚えている。以来、たまにこうして空を見つめる。
そういえば、あの神社――なんていう神社かは忘れてしまった――へ最近行ってないなぁ。明日、パパが帰ってきたら、一緒に行ってみようかな。今回は一週間くらいこちらに留まるらしいし。
「うーん、待ち遠しいなぁ」
前回は帰ってくるといって、なんだか色々あって有耶無耶になってしまったせいで、結局帰ってこなかった。あのときはたしか、パパが行っていた近くの国の政情が不安定だったとかで。正直言ってあの時は本当に泣きそうだった。ずっとずっとパパと一緒にいられるわけじゃない。それが分かっているというのに、それをずっと体験しているというのに、やはり受け入れられないものというものはある。
でも、だめだ。こんな事ばかり考えていたらキリがない。
無駄な、それも悪いことなんか考えるのはもうやめて、明日に備えて早く寝よう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ぼんやりとした感覚。
磨りガラスを通したような曖昧な視界。
耳を手で塞いでいるかのようなこもった音。
あまつさえ、足が地に付いていないような浮遊感。
そこは見慣れた場所。――港近くの何もないひろば。
それは見慣れた私――。あれ? 私の視点が私を見ている?
これは……夢?
この不思議な視界は私の意志で自由に動く。ちょうど、カメラをのぞきながら歩いているみたい。ぼんやりとした輪郭で切り取られた世界だ。
よく見ると、そこにいる私は、今の私でないようだった。
幼い頃の私。まだ、ママもパパもそばにいる時の私。
でもそこにいる私は一人だ。
なぜ、一人で。
一人で泣いているのだろう。