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水月  作者: COLETTE
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第7話 ~群青のむこう~



「…はぁ、はぁ……。」


二人は、旅だったのだろう…。

野田と彼女は身体を解放され、元の二人に戻ったようだが、どうやら彼女の様子がおかしい。


「はぁ……、はぁ…。」

「あの、大丈夫?」

額には大量の冷や汗が滲んでいる。顔色も良いとは言えない。


「…だ、大丈夫…だよ。」

「待ってて! 今水を! 野田!」


と振り返ると、まるで蛇に睨まれた蛙のごとく、直立不動で立っていた。

「わ、若! あっちあっち!」とアイコンタクトしてきた。


“?” ぼくは野田が指し示す方に目を向ける。


するといきなり、暗かった病室に電気がついた。

「おいお前ら! もう面会時間はとっくのとっくに過ぎてるのに、まだこんなとこで油売ってんのか~!」


それはそれは、“蛇”、というか“鬼”の形相をした、怖い怖い五十嵐様だった。


「いい、五十嵐様! いや、これにはわけが…」

「問答無用! 電気も点けないで何やってんだ!? いいから二人とも表に出ろ!」

『ひぃぃぃ!』

なんと情けない声だっただろう。


「そ、それよりこの子の体調が良くないんだ! 診てやってよ!」

苦し紛れの言い逃れ。でも具合が悪そうなのは本当だから必死に弁解する。


「ん? 確かに顔色が悪いかな? ちょっと担当医の先生呼んでくるから、お前らはもう帰れ」

“ふぅ…、どうやら嵐は去ったようだ”


「―――このツケはまた後日だな」

“どうやら悪夢ははまだ終わっていないようだ!”


「若…。五十嵐怖いんで、俺はこれにて失礼!」

と、野田はそんな捨て台詞を言い捨てて、“ぴゅぅぅ”っと、自分だけ一目散にこの場を逃げ出した!

“あのやろう…。”


「じゃあぼくも自分の部屋に戻るよ。じゃあね…。ええっと……。」

そう言えばまだ彼女の名前を聞いてない。


「―――…あや。」

ぼくに青い瞳を向け、小さくつぶやいた。

明かりの点いた病室はやけに明るく、彼女の瞳の青さが、さっきまでより鮮明に見えた。


「―――じゃあ、あやちゃん。お大事に…。」

「―――うん。また明日」


“また明日”ってことは、明日も来てもいいってこと?


今まで“次の日の約束”なんてしたことが無いぼくは急に嬉しくなった。

「―――うん! また明日!」


とても長い、長い一日だった。


どっと疲れを感じ、更に睡魔までも襲ってきた。

ぼくは深い海に落ちるように、眠りの中に入っていった。


まどろみの意識の中、ふと思い出したのは、ほんの数分前の彼女の青い瞳。


“あぁ、そう言えば、あれは青というよりも…。何色だろう…―――。”


“「群青」、だった、かな…。”


―――その夜、ぼくは夢さえ見ずに、深く…、眠った。





―――特に変わり映えのしない、いつも通りの朝。

いつもだったら寒い朝方、五十嵐曰く、温かいご飯を食べさせるために看護婦さんに叩き起こされ、眠い目をこすりながら、洗面台へと向かうぼくなのだが、何故か今日は目覚めが良く、清々しい気分でいた。

廊下に出て、待合室の窓を、ガラッっと開け放つ。冷たい朝の匂いが混じった風と、暖かい朝日がとても気持ちが良かった。

遠くで小鳥の囀りが聞こえる…。


「早起きは三文の徳」、というのはこういう事かと身にしみて感じた。


洗面台へ向かう途中、同室のおばあちゃんが「あら、おはよう」、と挨拶してくれた。

こちらも返すと、更に心地よい気持ちになった。


“あぁ、早起きってなんて素晴らしいんだ!”

そう、心の底から思った。


―――はずなのに…。


「おや? 今日は早いね! じゃあ昨日の罰として廊下掃除しな!」


―――朝だろうが夜だろうが、いつでも元気ハツラツとした五十嵐様、再び!


“ニコッ”っと笑いながらバケツとモップを手渡す五十嵐。

“ぼく病人なんですけど~?”、とは到底言えるはずも無く、渋々掃除用具を受け取る。



―――右腕が使えないため、片腕一本での掃除は、かなり悪戦苦闘した。

体力が乏しいので、朝から疲れがピークに達してしまった。


“野田には何をさせようかなぁ~”

五十嵐はドス黒い笑みを浮かべながらいろいろ作戦を練っているようだ。

 “美人なのに…。勿体ない。”


過酷な掃除が終わり、温かくも、お世辞でも美味しいとは言えない朝食を食べ、昨日出会った彼女の病室へと向かう。


“こんなに気持ちが高まるのは、本当に久しぶりだ”


軽くドアをノックする。

すると、昨日と変わらない、とても高い声で“どうぞ~”、と返ってきた。

 

病室の中は、換気の為だろうか、廊下と同じように少し肌寒かった。


そっと病室を見渡す。

―――野田…なし。五十嵐…なし。


“よし! 今日は誰もいないぞ~!”

今日こそは彼女と仲良くなろう!


「おはよう! 具合はどう?」

昨夜は体調が悪そうだったのが、今は大分良くなってるようだ。


「うん。今日は体調が良いの! こんなの久しぶり!」


―――聞きたい事が山ほどある。まずはどこから聞いていこうか…。

「とりあえず、昨日はありがとう。助かったよ。―――それで聞きたいんだけど、あやちゃんの家は、その…霊能関係、なの?」

するとあやちゃんは窓の方を向いて、どこかを指差した。

「ほら、あそこ! 見える? あの神社。あそこがボクの家で、巫女さんやってるんだ~」


“あぁなるほど巫女さんか…。”


降霊術師は主に女性に多い。

青森の恐山に住んでいる“イタコ”という口寄せの人たちもみんな女性だ。

もちろん巫女にも霊を自身の体に降霊させることは可能だ。


「そうだったんだ! ぼくの家もあの神社の近くで、小さい頃に行ったことあるよ」

“まぁ野田が強引に連れて行ったんだけどね…。”


「ボクは君のこと知ってるよ? ボクと君の家って、ここの地域の御三家だもん」


“? 御三家? ぼくの家が?”

―――聞いたこと無いな…。


「その御三家って、ぼくの家と君の家と、あと一つはどこ?」

「えぇっと、確か杉山家だったような…。」


“杉山…。家にしょっちゅう来るおじさんのことか。”


「それで、その御三家ってなんなの?」

野田すらぼくにこんな話をしたことは無い。 どうしてだろう…。


「ボク達御三家は、大昔から続く、由緒正しい霊能関係の家なんだよ。この地域は霊場が不安定でさ、度々怪奇現象とか起こるわけ。

知らない? この近くにも霊場が不安定な心霊スポットがあるんだよ。結構有名な。」

と、淡々とした口調で話す。


“あっちの方だったかな”と、彼女は北の方を指差した。

確かあっちにはお化けが出る噂の公園があったはずだ。

何年か前に、そこの展望台から飛び降り自殺があったと、ずいぶん前にテレビで報道されてた。


「つまり、ボクたち御三家はお互い協力してそんな、この地域の霊障濃度の高い霊場の封印と、霊体の成仏補助を、代々主にやってるんだよ。

でもボクはこの通り身体が弱くて、昨日の、ほんの数分間の降霊でもかなりの負担がかかっちゃった」

あはは、と彼女は笑った…、―――ように見えたが、次に真剣な表情を見せた。


「それで、ついこの間ボクもお父さんから聞いた話なんだけど…。その御三家には、代々受け継がれた“モノ”があるらしいんだ」


“受け継がれたモノ? 「家宝」ってやつかな?”


「まず、ボクの家の彌高神社には、黄泉の国である“黄泉比良坂”へ続くと言われる、『水鏡』


さっき言った杉山家には、その『水鏡』を祭ってる祭壇に穢れを持ち込まないようにするための『法印の霊符』


そして、『水鏡』が作る、“黄泉比良坂”への霊道を封印する『五行の剣』」


“五行の剣? そんな物騒そうな物、家にあったっけ?”


―――あ、あるわー。野田が興味本位で通販で衝動買いした模造刀が…。


「もともとは『水鏡』だけだったんだけど、一世紀前から信仰心が薄れてきて、霊道の制御が出来なくなったんだって。それで『法印の霊符』と『五行の剣』で抑制してたんだけど…。」


「―――けど?」


「―――その『五行の剣』の、五本うちの四本が、今行方不明なんだって」


“なな、なんじゃと~!?”

なんと、家の大失態だった! そんな剣のことは今まで知らなかったけど、これは…、どうしよう。


「えーっと…。どうすれば良いんだろう?

 情けない事に、女の子に助言を求めてしまった。


「ボクもあまり詳しくは知らされてないんだけど、五本のうちの一本、『水切』が無事だったみたい。剣は五本でひと組みたいな存在だから、それを持ってると他の剣の在りかが分かるって。お父さんの受け売りだけどね。」


“五行”というのは、この世の万物を構成してる五大元素のことで、全部で火・水・木・土・金がある。

多分その剣はこれに関係してるのだろう。


「他の剣の名前はなんて言うの?」

彼女は必死に“う~ん”と、軽く首を傾げて行った。


「…確か、火が『業火』、木が『刀樹』、土が『覇山』、金が『玲瓏』…、だったような、なかったような…。」

「それで水が『水切』か…。―――それで、なんでその四本は無くなったの?」


さらに首を傾げた。

「う~ん。分からない。ごめんね。お父さんもそこまでは知らないと思う。実はボクもその剣見たことないんだ。『水切』なら今君のおじい様が持ってるはずよ」


“おじい様か…。”

この世であんまり関わりたくない人ナンバーワンだけど、背に腹は代えられない。


ぼくは早速家に電話を掛けに一階へ降りた。

昼時だというのに、診察に来る患者の人数は絶えることはない。


一階ロビーの隅にある公衆電話に十円玉を三枚程入れ、家に電話を掛ける。


“プルルルルルっ、プルルル…ガチャ。”


“もしもし?”


驚いたことに、電話に出たのはおじい様だった。あの腰の重いご隠居が…。


“なんか用か?”


―――相変わらずの無愛想な声である。


「『水切』って何?」

―――そっちがそうならこっちも対抗してやる!

何故かぼくも無愛想っぽくしてみた。

すると、短い返答が返ってきた。


“病室で待ってろ”


―――と、おじい様は言って電話を切られた。

十円玉が三枚で足りるかと心配してたが、逆に二枚も返ってきた。


………。

「あの! クソじじいぃぃぃ~~!」


多分、その時ロビーにいた患者さん全員が注目しただろう。


―――真昼間から騒がしいひの出来事。


 ここが良かった・ここはこうした方が良いなど、どんなことでもご指摘下されば幸いです!!


 些細な感想等などもどんどんお願いします!!

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