フルールの環 6
タオルを下に一定のリズムで呼吸をする小鳥に、フルールは顔をほころばせた。
「また、巣のみんなに会えるね……」
フルールから小鳥を受け取ったワルツの行動は素早かった。腰に下げた革の鞄から取り出した、ラベルのない遮光瓶に入った薬品や道具での処置は、フルールにはまるで手品のように見えていた。横に立つワルツが鞄に道具を仕舞い終えるのを見て、フルールはワルツにぺこりとおじぎをした。
「ありがとうございました……!」
自分を見上げ感極まったように涙ぐんでいるフルールに、ワルツは息をついた。
「そんなに大袈裟に感謝されるようなことはしてない」
「いいえ……! ワルツさんは、すごいです」
「フルールだって、覚えればすぐにこれくらいできるようになる」
フルールは両手の指を、胸の前で組んで所在なさげに動かす。
「わたし、器用じゃないから……手当てしようとしてるのに、傷つけてしまいそうで」
「わからないさ。まずは模型か何かで練習してみればいい」
「ううん、ダメです。……わたしにできることなんて……。いんちょうもジュニパーも綺麗でしっかりしてるし、ティネットちゃんも可愛いくて家事もなんでもできる。みんな、すごくちゃんとしてる。わたし、取り柄なんてないし……」
フルールはハッと顔を上げる。
「あっ、ご、ごめんなさい。こんなこと言われても、困っちゃいますね。急に関係ない話。何言ってるのかな。……なぐさめてほしいわけじゃ、ないんです」
フルールは髪の毛を束ねているリボンを右の手でひと撫でし、物憂げに手を止めた。
「何かあったのか」
「……あの、ちょっと……あって。なんだかみんなと顔、合わせづらいなって……」
笑顔を作ろうとしたが、頬が上手く動いてくれない。フルールはしおれたでき損ないの泣き笑いのような顔を隠すように俯く。
「仲良くなれそうって、思ってたのにな……難しいですね」ぽつりと呟いた。
いつも、難しい。みんなはまっすぐ前を見て進んでいるようなのに、わたしはいつも迷ってしまう。
したいこと。大切なもの。譲れない想い。
繋がっているはずなのに、すぐにばらばらと解けてしまう。
そして、それらをすくってやっと顔を上げる頃には、一つだった道はいくつにも枝分かれしている。
「フルールは、フルールが信じた道を行くといい」
ワルツの言葉に、フルールは驚きに大きくまばたきをした。
「……どうして。わたしが考えてることなんて、お見通しなんですね」
「そんなことはない」
「ううん、いつもそうなんです」
「やりづらいか」
「いいえ。ワルツさんといると、勇気をもらえます。いつも、いつも」
フルールは顔を上げると、ワルツの目を見つめた。




