表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廻逝のロンド  作者: ささ
第一幕
6/33

フルールの環 6

 タオルを下に一定のリズムで呼吸をする小鳥に、フルールは顔をほころばせた。

「また、(おうち)のみんなに会えるね……」

 フルールから小鳥を受け取ったワルツの行動は素早かった。腰に下げた革の鞄から取り出した、ラベルのない遮光瓶に入った薬品や道具での処置は、フルールにはまるで手品のように見えていた。横に立つワルツが鞄に道具を仕舞い終えるのを見て、フルールはワルツにぺこりとおじぎをした。

「ありがとうございました……!」

 自分を見上げ感極まったように涙ぐんでいるフルールに、ワルツは息をついた。

「そんなに大袈裟に感謝されるようなことはしてない」

「いいえ……! ワルツさんは、すごいです」

「フルールだって、覚えればすぐにこれくらいできるようになる」

 フルールは両手の指を、胸の前で組んで所在なさげに動かす。

「わたし、器用じゃないから……手当てしようとしてるのに、傷つけてしまいそうで」

「わからないさ。まずは模型か何かで練習してみればいい」

「ううん、ダメです。……わたしにできることなんて……。いんちょうもジュニパーも綺麗でしっかりしてるし、ティネットちゃんも可愛いくて家事もなんでもできる。みんな、すごくちゃんとしてる。わたし、取り柄なんてないし……」

 フルールはハッと顔を上げる。

「あっ、ご、ごめんなさい。こんなこと言われても、困っちゃいますね。急に関係ない話。何言ってるのかな。……なぐさめてほしいわけじゃ、ないんです」

 フルールは髪の毛を束ねているリボンを右の手でひと撫でし、物憂げに手を止めた。

「何かあったのか」

「……あの、ちょっと……あって。なんだかみんなと顔、合わせづらいなって……」

 笑顔を作ろうとしたが、頬が上手く動いてくれない。フルールはしおれたでき損ないの泣き笑いのような顔を隠すように俯く。

「仲良くなれそうって、思ってたのにな……難しいですね」ぽつりと呟いた。

 いつも、難しい。みんなはまっすぐ前を見て進んでいるようなのに、わたしはいつも迷ってしまう。

 したいこと。大切なもの。譲れない想い。

 繋がっているはずなのに、すぐにばらばらと(ほど)けてしまう。

 そして、それらをすくってやっと顔を上げる頃には、一つだった道はいくつにも枝分かれしている。

「フルールは、フルールが信じた道を行くといい」

 ワルツの言葉に、フルールは驚きに大きくまばたきをした。

「……どうして。わたしが考えてることなんて、お見通しなんですね」

「そんなことはない」

「ううん、いつもそうなんです」

「やりづらいか」

「いいえ。ワルツさんといると、勇気をもらえます。いつも、いつも」

 フルールは顔を上げると、ワルツの目を見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ