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廻逝のロンド  作者: ささ
第二幕
16/33

はぐれうさぎ と その迷宮 9

 午後ニ時からの、三十分の日課。少し背の高いテーブルを囲み、少女達は刺繍をする。

 ジュニパーは自分以外の三人を眺めた。

 刺繍は、ここで暮らすようになってわりとすぐに習慣化した作業だ。手順を覚えてからもう一年近くになる。それなのにフルールは相変わらずたどたどしい手つきで、淡いピンク色の花を縫っている。

 ティネットは楽しそうに首を揺らして、リズミカルに大小の猫二匹を縫っている。

 セツリは真剣な顔で一針一針に力を込めるようにして、几帳面に白い建物を縫っている。

 この建物はセツリの故郷のものだろうか。そうジュニパーが考えていると、セツリが顔を上げ目が合った。ジュニパーが最近マイブームになっているウインクをしてみせると、セツリは嫌そうに顔をしかめた。

「ジュニパー、手が止まっている」

「そうね」

「まだ本調子ではないのではないか。雨に打たれて中庭で昼寝などするから風邪をひく。それとも、打ちどころが悪かったのではないか。かなり豪快に転んだようだったが」

「……そんなこと」

 ジュニパーは、あの日の夕暮れから昨日までの数日ほどを、ほとんど自室にこもって過ごした。風邪なんて本当はひいていない。今日は目の腫れも消え、ワルツも来ない日のようだったので、午後から日程通りに動こうと出て来たのだ。あまり課題をため込むと、どしゃぶりの雨の中で昼寝をできるなんてことを疑いもしない目の前の少女が、一対一で面倒を焼いてくる。

 ティネットが刺繍から顔を上げた。

「もぉ。ジュニパー気を付けてねっ。ドジっこはフルールだけで十分だよぉ」

「ドジっこ……?」フルールが小さく首を傾げる。

 ティネットはにこやかにフルールの頭を撫でた。

「具合が悪ければ、セツリと一緒に入院するか」セツリは心配そうにジュニパーに尋ねた。

 ジュニパーはゆったりと微笑む。

「アナタと一緒にだけはお断りだわ」

「なら手を動かしたまえ」セツリはむっとし、いつものようにさぼっているだけと見てジュニパーを注意した。

「はいはいそうねそうねーいんちょう」

 セツリを上の空にあしらい、ジュニパーは考える。

 脳天気なちまっこ小動物。正義かぶれの仕切りた委員長。世間知らずのお子ちゃま乙女。

 やぁね。再確認するまでもなく、やっぱりこの中で一番マトモなのは、あたしじゃないの。

一番っていうか、唯一と言ってもいいんじゃないの。ナンバーワンでオンリーワンね。

 ジュニパーは満足げに笑うと足を組み直した。

「ジュニパー。今、何か失礼なことを考えただろう」セツリが訝しげにジュニパーを睨んだ。

 ……なんでこのコたまに妙に勘がいいのよ。

 ジュニパーは内心毒づきながらも笑みを浮かべたまま、

「あら、どうしてそう思うのかしら。アナタのこと、いい正義の味方になれるわ、って思ってあげてたのに」

「おお。俄然やる気のでる一言。任せておけ」

 セツリは身を乗り出し、ジュニパーの肩をぽんと叩くようにして自分の手を置いた。

 まったく、おべんちゃらが効きやすいコだこと。

 ジュニパーはあきれたように視線を横に流した。

 ……冗談が通じない、単純なのって、案外取り柄なのかもね。考えすぎてるのはあたしの方かも。

 ジュニパーが視線を正面のセツリに向けると、セツリは驚いたように目を開いている。ジュニパーが目を合わせると、不思議そうにまばたきをした。

「何よ」ジュニパーは目を細める。

「……いや」

 セツリは今度は誇らしげに破顔した。

 何か嬉しいことでもあったのか、フルールとティネットも顔を見合わせて微笑んでいる。

「なんなの薄気味悪い。アナタ達、随分と楽しそうね」

 思い出したようにセツリの手を自分の肩から煩わしげに払いながら、ジュニパーはこの同居人達を、初めて少し羨ましいと思った。

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