はぐれうさぎ と その迷宮 6
ジュニパーは自室に戻った。作業用の服を洗濯物カゴの中に放り入れ、窓の外に目をやる。
夕陽に照らされて赤みがかった灰色の壁面。ベトン造りであるらしき、のっぺりとしたその外壁と、この部屋の窓の木枠との間に見える、橙色の空。
わずかな時間だけ空を支配する夕暮れの朱を、美しいとジュニパーは思う。
ふと、朝セツリが言っていた天気の話を思い出した。
「やっぱり降らなかったじゃない」
なるべく壁に邪魔されずもっと大きく夕焼け空を見ようと、窓を開け放つ。空を見上げようとしたとき、ぞわり、と悪寒のような感覚が背筋を走った。すぐにその感覚ははっきりとした不快な苛立ちの輪郭をつくり、ジュニパーの内でちりちりと燻りはじめる。
あたしは丸くなった?
この生活は悪いものでもない?
何よ、それ。
とんでもない。あたしは、この生暖かい四角い庭で飼い馴らされかけている。
ああ。たまに訪れる苛立ちの正体はきっとこれが理由に違いないわ。そうよ、どうしてこの状態でのうのうとあたしは暮らしているの。
「……っく」
燻らせた煙のように胸に溜まっていく感情は、喉元をせり上がる吐き気を伴ってジュニパーをじわじわと浸蝕し始めた。
窓辺に両手を置いて呼吸を落ち着かせようとする。中枢神経をなだめるように、ゆっくりと息を吐いた。数分して、ゆっくりと顔を上げる。まだ狭まっているような不快感の残る喉に力を込め、何かを飲み込むように鳴らした。
「あたしは……あのコ達とは、違う」
唸るように上げた掠れ声が、燃えるような夕紅に吸い込まれる。
回廊から中庭をのぞき込めば、すぐにフルールとワルツが話しているのが見つかった。
「やっぱり」ジュニパーは口の中で呟いた。
今日は、夕食後に課題のチェックがある。そんな日はワルツはいつも、夕方には中庭に来ているのだ。
フルールが、笑う。頬を染める。ワルツの言葉の一つ一つに一喜一憂する。
なんて可愛いらしい恋する乙女。
くだらない。
思わず嘲笑ってしまう。
馬鹿なんて放っておけばいい。頭ではそう思うのに、心がささくれ立つ。ジェニパーは、そんな自分を自覚してさらに苛立ちを募らせた。