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廻逝のロンド  作者: ささ
第二幕
13/33

はぐれうさぎ と その迷宮 6

 ジュニパーは自室に戻った。作業用の服を洗濯物カゴの中に放り入れ、窓の外に目をやる。

 夕陽に照らされて赤みがかった灰色の壁面。ベトン造りであるらしき、のっぺりとしたその外壁と、この部屋の窓の木枠との間に見える、橙色の空。

 わずかな時間だけ空を支配する夕暮れの朱を、美しいとジュニパーは思う。

 ふと、朝セツリが言っていた天気の話を思い出した。

「やっぱり降らなかったじゃない」

 なるべく壁に邪魔されずもっと大きく夕焼け空を見ようと、窓を開け放つ。空を見上げようとしたとき、ぞわり、と悪寒のような感覚が背筋を走った。すぐにその感覚ははっきりとした不快な苛立ちの輪郭をつくり、ジュニパーの内でちりちりと燻りはじめる。

 あたしは丸くなった?

 この生活は悪いものでもない?

 何よ、それ。

 とんでもない。あたしは、この生暖かい四角い庭で飼い馴らされかけている。

 ああ。たまに訪れる苛立ちの正体はきっとこれが理由に違いないわ。そうよ、どうしてこの状態でのうのうとあたしは暮らしているの。

「……っく」

 燻らせた煙のように胸に溜まっていく感情は、喉元をせり上がる吐き気を伴ってジュニパーをじわじわと浸蝕し始めた。

 窓辺に両手を置いて呼吸を落ち着かせようとする。中枢神経をなだめるように、ゆっくりと息を吐いた。数分して、ゆっくりと顔を上げる。まだ狭まっているような不快感の残る喉に力を込め、何かを飲み込むように鳴らした。

「あたしは……あのコ達とは、違う」

 唸るように上げた掠れ声が、燃えるような夕紅に吸い込まれる。



 

 回廊から中庭をのぞき込めば、すぐにフルールとワルツが話しているのが見つかった。

「やっぱり」ジュニパーは口の中で呟いた。

 今日は、夕食後に課題のチェックがある。そんな日はワルツはいつも、夕方には中庭に来ているのだ。

 フルールが、笑う。頬を染める。ワルツの言葉の一つ一つに一喜一憂する。

 なんて可愛いらしい恋する乙女。

 くだらない。

 思わず嘲笑ってしまう。

 馬鹿なんて放っておけばいい。頭ではそう思うのに、心がささくれ立つ。ジェニパーは、そんな自分を自覚してさらに苛立ちを募らせた。

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