表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廻逝のロンド  作者: ささ
第二幕
11/33

はぐれうさぎ と その迷宮 4

 ジュニパーが廊下を歩いていると、今度は、最近話題に上ることが増えた、黒系統の色でまとめた装いの人物に出くわした。ジュニパーは頭に無造作に引っかけていたタオルを外し、肩に掛け直すと髪の毛を払った。

「今日はアナタが来る日だったの」

「ジュニパー。おはよう」

 ジュニパーはあいさつを返さなかった。

 ワルツは気にした風もなくそのまま擦れ違おうとする。

 ジュニパーは道を開けずに、相手の足を取るような仕草で片足を伸ばした。

「どうかしたのか」ワルツは訝しがる素振りもなく立ち止まった。

「そういえばアナタ、歳はおいくつなの?」

「勝手に決めてくれていい」ワルツは馴れたように質問を流した。

 ジュニパーは、やっぱり、と鼻で笑う。

「アナタのこと、何も教えてくれないのね」

「口下手なんだ」

「ならあたしのことは、どう思う?」

「なんだ急に」

「いいじゃない。少しお話しましょうよ」ジュニパーは壁にもたれ掛かると足を交差させた。

 ワルツは足止めされたときのまま廊下の真ん中に立ち、視線だけを横のジュニパーに向ける。

「で、どう思ってるのかしら?」

 ワルツは腕を組みながら、考える風でもなく、

「どうって。ジュニパーだとしか思わない」

「ふ。なによそれ。あたし、中学でミスだったのよ。ここに来ていなければ、三年連続だったはずだわ」

「それはすごいな」

「こんなこと、聞かなくても見ればわかるでしょ」

 ジュニパーは心底あきれたように手の平を振った。

 ワルツはジュニパーを眺める。

 砂色をした、ウェーブがかった肩下の長さの髪。スラリと伸びた手足に、整ったつくりのパーツが並ぶ小さな顔。瑪瑙色をした瞳の、長い睫毛に縁取られた気だるげな目がとくに印象的なこの少女。口調や仕草とも合間って、歳を聞かなければとても十代前半とは思えない。

 確かに、こんな娘が中学にいたらさぞ目を引いたことだろう。

「そうだな。ジュニパーは綺麗だよ」

「ええ、そうよ」満足げにジュニパーは頷いた。

「ねえワルツ、あたしのこと抱いてもいいのよ」

「……あ?」ワルツはわずかに片目を細めて声を漏らした。

 ジュニパーは小馬鹿にするような笑みを隠しもせずに、ワルツの肩に手を掛けた。

「冗談よ」

「ああ」ワルツは長く息をついた。「滅多なことをいうものじゃない」

「でも、アナタは特別。その気になったらいつでもどうぞ」

「冗談でもそんなことを言うのはやめなさい」

 ワルツが自分の手を肩から降ろそうとするその手に、ジュニパーは指を絡める。

 ワルツはジュニパーの手をやんわりとだが跳ね退けるようにして降ろすと、そのまま自身の胸元でさっきよりも固く腕を組んだ。

「相手が私でなかったら、ただじゃすまないかもしれないぞ」

「ふふ。おキレイな説教ならティネットにどうぞ。あのコの言ってたとおりね、アナタをからかうと楽しいわ」

「ティネットか……今度言っておかないとな」

「そういえば、あのコ今週は朝食当番よ。今キッチンにいるんじゃない」

 ジュニパーは目配せをした。ジュニパーの寄りかかる壁の対面、ワルツ越しの斜め向かい数メートル先の壁面に、キッチンのドアがある。

「ああ。腹が減ったから軽食をもらってきた所だ」

「だから今日は大目に見ようって?

 しっかり餌付け済みじゃない。どうせ今日はあたし達と朝食も取るんでしょ。待てなかったの」

「体を動かすとすぐに腹が減るたちでな」

「あら、何かしてたの?」

 ワルツは無言を返した。

「あーはいはい口下手さんなのよね、答えなくていいわ。途端に貝になるんだから」ジュニパーは視線を上方にやると、ふっ、と一笑する。「ティネットのゴハンはおいしいわよねぇ」

「ああ。レシピも見ていないようだし、どこであんな本格的な料理を覚えたんだか」

「そういえばフルールが新しい料理の本をほしがってたわね。買ってあげたら。あのコなら、アナタのためなら料理だけじゃなくて、なんだってしてくれるわよ、きっと」

 ジュニパーは爪先立ちになるとワルツの耳元に顔を寄せ「なんだって、ね」と囁いた。濡れた髪から石鹸の香りを漂わせ、踊るようにワルツから離れると、婉然とした微笑みを浮かべる。

「大切になさいな。じゃね、ワルツ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ