男勇者と女Bと男Aと壊れた館
Side:男A
「ん、ふにゅ~…」
ロザリーの頭を撫でてあげたら気持ち良さそうな声を出して抱き付いてきた。猫みたいだ。
「お~お~、見せ付けてくれるね♪」
姫様、嬉しそうだな…
「ロザリーちゃんもこの分だと直ぐに起きるな」
「ジル、前にも言ったがロザリーを泣かせた時は分かっておるな」
勇人の年長者っぽい台詞はリリーの付け加えで台無しになった。哀れ勇人。そしてリリー、疑問文なのに疑問系になってないぞ。
ちなみに馬車はモリッシュが引いて、今はギグの森に向かっている。1度俺達の家に帰って、事件のあらましを整理して、各自帰るらしい。
「ふみゅ~…」
冷やかされながらも撫でるのを止めないのは、ご褒美をあげたかったのと、俺が安心したのが理由だと思う。
だから今は、恥ずかしくてもロザリーの好きにさせて、俺も好きにしようと思った。
しかし猫や犬がするように顔を擦り付けられるのは、ちょっと恥ずかし過ぎる。てか膝枕になっちゃった…
「ふあぁ~…にゅ?」
奇妙な呻き声が疑問系に成ってる。ロザリーの言語は相変わらず不思議に満ちてるな~
「おはよう、ロザリー」
なるべくいつも通りに話しかける。
「あ、ジル~♪おは、よ…う…///」
ロザリーは最初に覗きこんでる俺を見て、次に隣のリリーを見て、周りの皆を見て、最後には顔を真っ赤にして俺の膝枕の上でうつ伏せになって顔を隠してしまった。
プイッて感じだった。
「おはよう、少女。中々良い夢が見れた様じゃないか♪」
「大変幸せそうな寝顔でしたね。私もあの様な寝顔が出来る夢が見たいものです」
貴女が表情作ってる所が想像出来ません。むしろ創造出来ません。
ロザリーはとうとう耳も塞ごうとしている。
「メイドさんの幸せそうな寝顔?」
あっ、バカ、勇人!
「勇人様、どうゆう意味でしょうか?」
「ひっ!い、いや、他意は無いんだ!ただどんな表情か気に成っただけで!」
墓穴掘ってる…
「でも、ロザリーちゃん起きて良かったわ~」
イトハは純粋に心配して…ないな。ありゃ顔上げさせるための方便だ。
ちなみに頭を撫でるのは止めてない。何か癖になるな…
「………ふみゅ~…」
「…ロザリー?」
…寝てる…またしても気持ち良さそうに…
「…丁度良いかの。ジル、話が有るのじゃ」
…他の皆は知ってるっぽいな。
「何?」
「まずはこれを見るのじゃ」
鏡?…ん?俺の右目に…十字模様…
「マジ?」
「マジじゃ」
「移っちゃったの?」
「移っちゃったんじゃ」
「…理由は?」
「お主が死神に止めを刺して、死神の素質有りと認められたからじゃ」
「…誰に?」
「知らん」
「…取れない?」
「お主が死なん限り、無理じゃな」
うわぁお。思った以上に超展開。珍展開の間違いか?
いかん、現実逃避ここまで。これ以上は無意味だ。
「狙われたりは?」
「しないじゃろうな。そもそも倒した者に移るとは限らんスキルじゃし、スキルの存在も知られとらん」
「良かった~…」
これ以上不幸はいらん。
<悪運>でどうにか出来る範疇超えたらたまったもんじゃない。ここいらで手打ちにしてくれ…
「で、どうするんだ?このスキル」
「お主が死神なら問題は無い。そもそも持ち主に問題が無ければ、あ奴も捨て置くつもりじゃった…」
が、そうはならず、死神は死に俺が受け継いだ…運ねえ~…
「そのスキルにはどんな能力が有るんだい?」
姫様の言う通り、大事な事だ。
「うむ。わらわの知っている限り、魔力消費が抑えられるのと、イメージした契約魔具が1つ作れる」
「…それのドコが死神なんだ?」
メイドさんから逃げてきた勇人が皆の心を代弁した。
「知らん。スキルの名前から死神と言われておるだけじゃろう。もしかしたら他の能力も付くのやもしれんが…わらわは知らん」
……かつて、コレ程脱力する話が有っただろうか?
生死を賭けて、仲間の命を賭けて、大切な家族の身柄を賭けて戦い、辛くも勝利したのも束の間、新たな火種を抱えたと思ったら、『わらわは知らん』って…
まぁ、良いか。このスキルの存在すら知られてないなら狙われる事もなさそうだ。
「ロザリーには話しても平気?」
「うむ。とゆうかロザリーに隠し事しようものなら、わらわがお主を、」
「あ~、うん。了解」
最後まで言われたら流石に背筋が寒い。
「それより、家に着くまで暇だし氷の館の種明かししようよ」
「そうね、メイドさんは何か知ってるみたいだし」
イトハ、ナイス援護射撃。
「えっと、メイドさんは地下の本の正体、知ってるのよね?」
「本の正体って何の話だ?」
「ロザリーちゃんが凍ってた部屋に喋る本がいたのよ」
…そんなのいたか?
「では順を追って説明いたします。
氷の壁の向こうには実験室が有り、我々は研究日誌を見つけました。その日誌によると、あの館では最初は人のための研究が行われていたのですが、博士の息子が死んでからは、魔獣と人を使った人体実験に成りました。それにより、人でも魔獣でもないモノが出来ましたようです。
博士の名前はギャレット・フェルマー。そして、恐らく死神が母だと認識していた方です」
…実験で生まれた動物に息子を失った博士が母親代わり…無い話じゃない。
「ここからは憶測ですが、地下に有った本には博士の記憶と意識の一部が写されていたのだと思います」
「そんなコト、出来るの?」
もっともだ。それが出来るなら人間をコピー出来る可能性も有る。
「いいえ。簡単に言えば人形なのです。その人の情報を本に書けるだけ書いて、その人の真似をしているだけの人形。それが、あの本の正体だと思われます」
「…あの部屋で、姫様がホーリーランスを使った時に母親が死んじゃうって言ってたのは、本の事だったのかな」
「そうなんだろうね…でも、これで死神の言ってた事の意味は、大体分かったね」
そうなの?
「博士は、先の戦争で虐殺者として有名に成り過ぎた。その事で大勢から非難され、この館に逃げてきた」
「そして人の為に研究を始めますが、我が子が他界。研究は狂気を帯びたものに変わったのでしょう」
「そして、あの魔獣でも魔族でもない者が出来た。博士は息子として育てようとしたが、何らかの事情で無理に成って…」
「自分の意思を写した本に、死神の親代わりをさせたのでしょう…憶測にすぎませんが」
その事情が、死神の言う苛めるだったのか、別の何かが起こったのかは分からない。知る必要も無い。俺達には振れる事の出来ない過去だ。
館の残骸をひっくり返しても死神の死体は消滅してる。件の本も同じだろう…なら、静かにさせておけば良い。誰にも注目されないのは、ある意味では救いだ。
俺が新しく得たスキルと同じだ。
謎解きは曖昧です
主に作者の能力不足が原因です