男Aはダブルブッキングに嘆く
Side:男A
色彩国家から帰ってきて暫く。赤ヒゲに『お前素手で戦う事に拘りが無いなら何か武器持て』といわれて、大型のダガーを2本作ってもらった。
ナックルガードみたいなのを付けてもらい殴る事も出来るし、手を開いても落ちる事はない。握り直しに便利だ。両手持ちは出来ないけど。
それに伴い浴衣を改造。ベルトを付けられるようにして、背中側の腰にダガーの鞘をクロスさせている。家ではベルト外して帯だ。
おかげで俺の職業スキルにはAランク<グラップラー>の他にBランクのナイフ使い<スライサー>とBランクの魔法使い<魔導師>が付いた。あとダガー投げる練習してたら<投擲>って強化スキルも付いた。
ロザリー曰く『ジルはオリジナルの魔法が多いから<魔導師>のなったんだよ~♪』との事。理由はよく分からんが使えるモノは遠慮無く使おう。<ナイフ使い>が短期間でBランクに成ったのはこの森で獣とのエンカウントが異常に多いから。俺まだ獣達に匂い覚えられてないのか?そろそろ3ヶ月経つぞ?
俺の日課は朝にギグの森の大多数が住んでいる通称『お屋敷』に寄り手紙の確認、その後訓練兼ねた狩、となっている。普段は手紙なんて無いが、今日はリリーから手紙が来てた。中身は家でロザリーと一緒に見よう。
さて、今日は鶏肉…バジルソースでも試してみるか…お、家に着いた。
「ただいま~」
「ジル~、ユビキタスからお手紙来たよ~」
入ってすぐにロザリーの報告。
は?ギルドじゃなく?
ロザリーは職業スキルが製作者のAランク<アルケミスト>なだけあってその辺の言葉を分ける。意識的にではなく無意識的に。
つまり手紙の差出人は本当にユビキタスの国自体からだと言う事だ…嫌な予感しかしない。
「俺もお屋敷に行ったらリリー達からの手紙が来てたよ。そっちはグレゴリウスさんの所?」
「うん。まだ中見てないけどグレゴリウスさんは『オメエ等には丁度良い』って言ってた」
赤ヒゲの真似して眉間に皺寄せたしかめっ面をしようといている…出来てなくて笑える…
「そっか。え~っとこっちは…氷の館の調査を手伝ってくれ?」
「あ、南第2大陸だね~。コッチは…氷の館の調査…」
…手紙を見比べると日付も一緒…
「…両方に『同じ目的の同行者います』って返しとこうか?」
「…うん」
え~って顔で提案したら同じ表情でOKされた。そりゃこんな表情にもなる。
依頼当日の…今は4時くらいか?正直朝から冷や汗が止まらない。
人と魔族のダブルブッキング…最悪この家で戦闘始めかねない…力ずくで止めようにもリリーは魔王、イトハは俺と同レベル…無理だ。今日ほど自分の運の無さを呪うのも珍しい。
普段は『仕方ない』と諦めるが、この家はロザリーの居場所だ。流石に俺の運の無さに巻き込むのは嫌だ…俺ここ好きだし…
「ジル、大丈夫?」
「あ~、うん。ちょっと不安で」
「大丈夫だよ~。ユビキタスは魔族に対しても話し合いを申し込む国だからいきなりケンカなんてしないって~♪」
そうなのか?まぁ魔族に対しても友好的な人が来てくれると良いな…
「っ、ヒヒーンッ!!」
おぉ?リリー達が来たか?
「うわっ!何だ何だ?」
「勇人、落ち着きなよ。馬の鳴き声だろ」
…勇人?てかドアの前に誰かいる?
コンコン…
「ユビキタスより参りました。グレゴリウス様の紹介で、氷の館の調査依頼をした者です」
来たか…何か相手の想像つくけど…
「は~い♪グレゴリウスさんの代わりにお手伝い頑張ります!」
「あ、俺はジルです。こっちはロザリー。よろしくお願いします」
ドアを空けて自己紹介…やっぱ見た事有る長い金髪のお姉さん…
「よろしく…おや君達は…」
「貿易都市コールスのパレードを見ていた御2方ですね」
濃い紫髪のメイドさん…じゃあもう1人は…
「お久しぶりです。勇人さん」
「お、おう…」
戸惑ってるな。無理も無い。前回苛め過ぎた。
まさか再開するとは…神様の話でもするか?出番欲しいって言ってたし…あれ以来女神様の様子が可笑しいらしく夢に呼ばれてない。出番大丈夫か?
「あ、リリ~♪」
「ロザリー、久しぶりじゃの♪」
「あはは♪リリー日焼けした?」
「うむ。外で稽古しとるとどうもな」
馬車から飛び降りたリリーと走り寄ったロザリーが手を取り合って喜んでいる…微笑ましい。イトハも一緒みたいだ。さて、
「じゃ皆中にどうぞ。調査に向かうのは明日からだし、今日はくつろいでください」
客をイツまでも立たせっぱなしってわけにもいかない。さて、問題はこっからだな。イトハは勇人が自分を巻き込んだヤツだって知ったらどうするかな…
今は皆をリビングに通す。机に俺達ギグの森組とイトハ達魔族組、ソファに勇人達人間組。
「へぇ、良いコーディネイトじゃないか。おっと、自己紹介が遅れたね。私はユビキタス公国公女、フレイヤ・ユビキタスだ」
「御付のメイドで御座います。どうぞ、メイドさんと御呼び下さい」
「俺は正名勇人、フレイヤさんに異世界から召喚されたユビキタスの勇者だ。ジルくんは知ってるけど、ロザリーちゃんは知らなかったし、そっちの2人は初対面だね。よろしくな」
相変わらずのイケメンスマイルで。イトハもリリーもあんま反応ないな。モリッシュは微妙に頬が赤い。あの人は普通っぽいな。
「ふむ、では次はわらわ達じゃな。わらわはリリー・クロンキストじゃ」
「私はイトハ・ユリ。今回一緒に氷の館を調査するんだし仲良くしましょう」
「一角ケンタウロスのモリッシュです」
「…イトハ、奴は…」
「…良いの」
流石にリリーの身分は明かせないよな…それにイトハも話す気は無いみたいだ…
「リリー・クロンキスト様…現魔王自ら氷の館の調査とは、何か特殊な事情が御有りで?」
なっ!メイドさんは知ってんのかよ!
あ、イトハも勇人も同じような顔で驚いてる。そりゃそうか。
「まさか名前でバレるとはの…そうじゃ、わらわは魔王。じゃが調査の間は協力したいと考えている。事情は…人間に離す訳にはいかんのじゃ。すまぬ」
「無理に事情を聞こうとは思わないよ。それに我が国は魔族との戦いは望んでいない。蟠りはここでは無しにしよう」
「うむ」
何かあっさり和平交渉終わっちゃったよ…まぁいいか。勇人とイトハとは別で話の折り合い付けるだろうし。
「お茶淹れてきます。ちょっと待ってて下さい」
「手伝います」
「あ、私も行くわ。リリー、大人しくしてなさいよ」
メイドさんとイトハがついてきた。それにしても今日のリリーは大人しい。前回はイトハから片時も離れよとしなかったのに…心境の変化か?
とりあえず作業。茶葉を選んでもらい、その間に『発火』で火を付けお湯を、
「何ですか今のは?」
「あぁ、ジルの呪文は異常に短いのよ」
あ、メイドさんに見せるのは初めてだった。
「あれで呪文として成立するのですか?」
「さぁ?事実発動してるしね。アイツと戦う時はホント厄介だったわ」
「ほほぅ、是非詳しく聞かせて頂きませんか?」
あ、何かスイッチ入った…まぁ別に隠す事じゃないし良いか……
メイドさんは意外と未知のモノが好きみたいです