女勇者はレベルアップする
Side:女勇者
「クロ、団長、もう1度挟みこめ!エルは魔法で援護だ!」
全員が了承した。私も動くとしよう。
「人間がどれ程の策を弄そうとも…」
「影よ 形無き矛成し 敵を穿て シャドウ・ツェペシュ!」
「グアッ!」
今度は地面に縫い付ける様に刺す。これで多少は狙いが付けやすく成った。
「そのまま這い蹲っていなさい!業火よ 眼前の障害を焼き払え ファイア・ボム!」
「うわ、巫女さんエグいな…」
まさか私の魔法で地面に縫い付けられて動けない所に追撃を入れるとは…意外と容赦無いな。だが…
「クロ、団長、追撃しろ!止めを刺す!」
さて、ようやくカリバーンの能力を試せるな…
左下に構え魔力を込める。私の黒い魔力が白い剣に吸収され、力を溜めるのがのがわかる。
……剣の重さが少し変わったか?
む?変態巫女と団長が此方に動揺した視線を向けている。2人にまで殺意を向けてしまったか?
「貴様…何だ、それはっ!」
竜が五月蝿い。一体何だと言うのだ?
「勇那様、カリバーンに、何をされたのですか?」
ただ魔力を込めただけだが?
ふと手元の剣に視線を向けてみると、そこに聖剣は無かった。闇の塊が、剣の様な形を作っていて、私は闇の棒を剣の様に握っているだけだった。
…剣として使えれば問題は無いな。
未だ地面に叩き付けられ呆けている竜に接近する。
「なっ!貴様っ、来るなーっ!」
ブレスを吐こうとしているが、もう遅い。吐く前にその口にこの闇の塊を突き刺す。
ザシュッ!
「弾けろ」
ブシャーッ…
剣を形作っていた闇が竜の体を内側から突き破り、奴の体を破壊していく。
やはり竜には体内からの攻撃が一番効く様だな。
「貴、様…聖剣を、そのように…」
首だけに成っても話せるとは、馬鹿げた生命力だな。…しまった、何故私達の事が分かったのか聞きそびれたな…今聞くとしよう。
「おい、貴様は何故エルや団長の事を魂呼びの巫女や<ナイト>と呼んだ」
「…ふっ…人は、変わらず…己の力を、見る事も…出来んのだな…」
聞き取り辛いな…
「勇那様、この者の言っているのは、多分スキルの事だと思われます」
スキル?
「あ~、魔族なんかは普通に認識してんだっけか?」
「はい。その人の職業や特技によって身に着くモノだと言われています」
職業や特技の証の様な物か?私の場合は殺意を他者に叩き付ける、と…誰でもやっている事だと思うが…
「城に戻り鑑定士に聞けば何か分かるかもしれません」
「そうだよな~。あの婆さんなら何か知ってそうだ……で、勇者様。ちょ~っと聞きたいんだけど」
団長が現実逃避を止めた様だ…流石に私の手の中に有る物を無視出来なく成った様だ。
「それは…カリバーンか?もはや別物にしか見えねえんだが…」
そう。竜の中で闇を払って私の手に残ったのは、刀身の黒い日本刀だった。ついでに鞘まで刀の形に変わっている。至れり尽くせりだな。
「正真正銘カリバーン…の筈だ。手を離れた様な感触は無かった」
「貴様は…」
コイツまだ生きてたのか。
「貴様は、神の剣を…汚した、のだぞ…なんとゆう、事を…」
そろそろ限界か。しかし神と言えば…アレか…汚しても何も言わなさそうだな。寧ろ爆笑していそうなものだが…
「私はこの世に仇成す者だからな。神の作った物を汚して当然だろう?」
嫌味を言っておく。自分で言った事なのだから納得も出来るだろう。
「貴様っ、本当に神にっ……」
興奮し過ぎで出血が激しくなってきたな。首の断面から血が滝の様に流れ出ている。
自ら死を早めるとは…竜とは理解できない生き物だな。
「貴様は…我が……っ…」
完全に死んだか。目は焦点の合わないまま上を向き、舌はだらしなく地べたに垂れ唾液と共に地面を濡らしている。先程までの誇りを持った姿は見る影もない。そうしたのは私だが…
「…勇者様、色々聞きてえ事があんだが」
そう言って団長は私に剣を構えた。何度か竜の尻尾に当たって立っているのもやっとだろうに良くやる。
「団長!何をっ…」
「黙れっ!」
「っ!」
一括で変態巫女を黙らせるか。第1騎士団団長の名は伊達ではないな。
「まずアンタのスキルだ。身に覚えは?」
「有るな。何度かエルやメイド、貴族が私の敵意、いや、殺意に当てられて腰を抜かしかけた事が有る」
「自分に特殊なスキルが有るとは考えなかったか?」
「スキルとゆう言葉自体さっき知ったくらいだからな。考えなかった」
「分かった。この話は城に帰ってから鑑定士の婆さん交えて話そう。本題は次だ!」
いつもの斜に構えた態度は形を潜め、組織のトップらしい責任感と義務感に溢れた顔をしている。
ほう、そうゆう顔も出来るのか。
「アンタは、聖剣に、カリバーンに何をしたっ!?」
あの剣によっぽど思い入れが有ったのか、それとも聖剣を変質させた私への危機感か。
「エルに言われた通り、唯魔力を流し込んで竜を斬ろうとした。本当ならどうなっていたんだ?」
「あっ、はい!本当なら、鍔から勇那様の魔力で出来た斬撃が出るはずでした」
いきなり説明を求められて変態巫女が慌てふためいている。完全に蚊帳の外に居るつもりだったな。
「だが実際には闇の塊を纏った…その片刃の細剣に成った!」
興奮しているな。
「そうだな。この形は私の世界で私が修練していた武道の剣だ。刀と言う」
「それ以上の説明はしなくて良い。問題は、どうして聖剣がそうなったかだ」
普通に考えれば私の魔力に当てられて私の使い易い形に成ったから、とゆう推論をするんだろうな。
「巫女さん、今までにこんな事は有ったか?」
東の空が少々白んできた…長い夜だったな。
「私の知る限り…有りません」
「……城に帰ったら事の顛末を全て報告する。どうゆう決定が出るかは俺にも分からん。それで良いか?」
「構わない」
「分かりました…」
変態巫女は納得がいかない様だな。私に罰が下ると思っているのかもしれない。
どちらにせよ、私の今後の行動は変わらない。さて、手始めに…この刀に名前を付けなければな……
人間の国ではスキルはあまり重要視されていません
皆知ってはいます