女勇者の力
Side:女勇者
「戦闘…闘争の事だな。貴様らが望むのならば仕方有るまい。何よりも魔の性を持つ者は危険。此の地で滅ぼす!」
言葉と同時に羽で突風を生み出し煙と瓦礫を全て吹き飛ばした。戦い易い地形には成ったな。
「ほう、黒髪に黒目。魔の性を持つ者相応しい風貌ではないか」
「そう言う貴様もまさに竜と言った風貌じゃないか」
大きさは大体成人男性の3人分。体は深い緑の鱗に覆われ、赤いギョロリとした瞳で私達を睥睨している。ティラノサウルスの様に前足は小さく後ろ脚のみで立っていて、尻尾は地面に垂れている。まるで羽と角の付いたゴジラだな。気紛れに尻尾が振られるだけで地面が軽く抉れている。あれを生身の人が受けたら即死だろうな。
邪魔にならない様に髪を結う。変態巫女が私のうなじに目を爛々とさせているのが気持ち悪いがそうも言ってられない。
「待たせたな」
「ふむ、では始めようぞ!」
「っ!散開っ!」
いきなり中央に突撃してきたか!
竜を私とクロ、団長と変態巫女で挟む形に成ったが、あまり意味があるとも思えない。
「各々の判断でコイツを倒すぞっ!」
「はいっ!」
「おうよっ!」
「にゃっ!」
さて、本当なら飛べない様に地面に拘束してしまいたかったんだが、この際贅沢は言えないな。
「ほう、力の塊が生命の真似事か。興味深く、そして不愉快だ」
クロの事か。
「不愉快なのは貴様の存在だっ!」
カリバーンで足に切り掛かる。竜は口を開け何かしようとしていたが反対側から団長に、此方側からはクロの尻尾に阻まれて易々と私の斬撃を叩きこめた。
ガンッ
「ほう、こうも容易く潜られるとはな。唯の力の塊と侮る事も出来んようだ」
「まさか此処まで硬いなんてな!巫女さんっ!」
「はいっ!業火よ 眼前の障害を焼き払え ファイア・ボム!」
「ぐぬう…」
竜の頭部で爆発が起こった。鱗に阻まれた私の斬撃よりは効果が有りそうだな。
向こうは団長が前衛、変態巫女が後衛と役割を決めているようだ。まぁ変態巫女に前衛は無理だから必然的にそうするしかなかったんだろう。
「クロ!」
「にゃっ!」
「良い子だ」
私が魔法を貯める時間を稼ぐために竜に突撃していった。おそらく素早く出せる速度重視の魔法では竜の鱗は貫けない。多少の時間稼ぎが必要だ。
「人間と力の塊にしては戦い方を心得ているようだ。それにしても解せん。魂呼びの巫女に<ナイト>よ、何故貴様らは魔の性を持つ者と共に居る」
「それが任務だっ!」
「勇那様と共にいるのに理由なんて必要有りませんっ!」
そう言って団長は切り込み、変態巫女は距離を取った。
「この者が人の世に仇成す力を持っていると知ってもか?」
「…何の事だ?」
「興味が有りません!」
変態巫女言い切ったな。団長の反応が普通だと思うが…
「私の心は勇那様に捧げました。勇那様がいる所が私の望む場所ですっ!その場所を壊すと言うなら、人も、魔族も、民ですらも、私の敵です!」
凄いな。あそこまで堂々と言い切られると何も言い返す気に成らない。
「そしていつかこの身も捧げてみせますっ!!」
ゾワッ
何だ今の悪寒は…ああ、変態巫女か。しかし緊張感に欠ける台詞だ。
「無知とは時に罪成り。魔の性は人の世どころか、我らにも害を成しかねん」
「理由を聞こうか…」
魔力を練りながら睨み合う。理由次第では今後の身の振りが決まるからな…
「魔の性は他者に強烈な感情を叩き付ける。そしてそれは集団を操る力と成る」
先導者の才能とゆう事か?
語りながらも団長とクロからの攻撃を弾き、防ぎ、時に攻める。
「貴様が叩き付ける感情は何だ?
悲しみか?哀愁か?快楽か?感動か?恐怖か?殺意か?
どれにしても貴様の中にある<魔性>は人の世を壊し世界の姿を変えてきた力。見過ごす訳にはいかん」
他者に感情を叩き付ける力…そう言えば召喚された時巫女が腰を抜かしそうなほど怯えてたな…そうなると殺意や敵意か?ふむ、実戦で使えそうだな。
「なら身をもって私の感情を体験しろっ!」
ヤツにありったけの殺意を向ける。ふむ、多少動きが鈍ったな。
「これが…貴様の殺意…」
「影よ 形無き矛成し 敵を穿て シャドウ・ツェペシュ!」
月明かりに照らされたヤツ自身の影から無数の槍がヤツを串刺しにした。羽にもダメージが入ったようだししばらくは飛べないだろう。
「グアァ…貴様…此れ程の殺意を、平然と…」
「よそ見している余裕が有るんですか?業火よ 眼前の障害を焼き払え ファイア・ボム!」
「ガアァッ!魂呼び等に頼る軟弱者の分際でっ!」
む、変態巫女に狙いを絞る気か。
「そう簡単には、通さねえよっ!」
「邪魔だ、人間っ!たかが<ナイト>如きが我を阻めると思うなーっ!」
先程から騎士ではなく<ナイト>…何か違いが有る様だな。そいつに関しても吐いて貰うとしよう。
「時すら歪める引力よ その力使い眼前を滅せよ シュバルツシルド!」
団長によって思うように巫女に近づけなかった竜が地面に平伏す様に叩きつけられた。
闇魔法は影以外にも重力や腐食なんかも起こせるが流石に腐食は使いたくなかった。異常に強烈な悪臭がするのだ…
「貴様、ら…この程、度で…我が屈するとでも思ったかーっ!」
振りきられたか…まぁこの程度で死ぬとも思えなかったが。人間なら原型も残さない程圧縮されるのだがな…
「勇那様!カリバーンの能力をお使い下さいっ!」
剣の能力?ああ、そう言えばこの聖剣は持ち主の魔力を吸うんだったな。
「どうすればいい?」
「魔力を流し込んで、斬って下さいっ!」
なんともありきたりだな。
「やらせんっ!」
単純だなこの竜。脇目も振らずに私に突撃してきた。
「コッチの台詞だっ!」
「ニャッ!」
両側から団長、クロに攻撃され動きが鈍ったな。
「舐めるなーっ!」
咆哮と共にヤツが魔力を貯めるのが分かる。団長もクロも咆哮の衝撃波で怯んで動けないだろうな…
「消し飛べーっ!」
言いながら口から炎を吐いた。渦を巻き此方に向かってくるがあの様に分かり易い初動が有れば簡単に避けられる。
「グウゥ、小癪な」
ちょうど良い。竜を倒すのによく使われるアレを試してみよう…
必殺技って悩みます…