女Aは戦争の歴史を学ぶ
Side:村長
凛が来てから暫く立った。村全体が凛に馴染んできた頃、それは起こった。
「皆森に逃げろーっ!」
村の高台に居た見張りの声が響いた。そして、理由は直ぐに分かった。
「奴らは人間に仇成す蛮族だ!1人残らず殲滅せよっ!」
まだかなり距離があるが、遠くからでもよく響く指揮官の声と共に膨大な数の騎馬兵が村に突撃してくるのが見えた。
「何ですかコレはっ!」
凛が驚愕と怒りの混じった声で騎馬隊を睨んでいる。
「凛様、彼らは私達とは違う国の者です。説得には応じないかと」
「そんなのは問題じゃありませんっ!今すぐ止めさせないと…」
「どのように?」
「聞かないのならば、力づくでも止めます!」
「……お供いたします」
なっ!あの2人死ぬ気か!?相手はどう見ても200超えてるんだぞ!
「バカッ!無謀だ、戻れ!」
人間達の狙いはエルフだけだ。事実あの2人は視界に入っていないようだ。ただし騎馬隊は真っ直ぐこの村を攻撃しようとしている。
「緑髪の奴らだけを狙え!人間2人は無視して構わんっ!」
「私は勇者・無勇凛です!貴方達は何故この村を襲うのですかっ!事と次第に寄っては私が相手になりますっ!」
「しれた事。先に我らの国を攻撃してきたのは緑髪のエルフ達だ!あのように大規模に、滅亡寸前まで攻撃しておいて何を言うっ!」
「なっ!ここの人達は村から大人数で何日も離れた事はありませんっ!何かの間違いですっ!」
「ふんっ、もう遅い。我らは唯、復讐するのみっ!」
何の話だ?エルフが人間の国を攻撃した?俺達は何もしていないんだぞ。それに凛が勇者だと!?
「速く逃げろ!あの数は無理だっ!」
村長の声に固まってた皆が逃げ始めた。でも相手は騎馬だ。このままじゃ追いつかれて本当に滅ぼされる…
「森に入れ!そっからはバラバラに逃げろ!エルフの血を絶やすなっ!」
そうゆう事かよ、クソッ!
「お前ら、ついて来い!絶対に生き延びるぞ!」
いつものように魔法の練習をしてた子供を纏めて逃げる。子供がこんなにいたんじゃ、逃げ切れないかもな…
「村長っ!我らが足止めをする。その間に…」
「…スマン」
ん?村のジイさん達が村長と話してる?速く逃げろよ!今からじゃ絶対助からないぞっ!
「オニイちゃん…」
クソッ!とにかく逃げなきゃ!コイツらだけでも逃がさなきゃっ!
「きやがれぇいっ、人間共!何が何だか分からねぇがっ、村には一歩も入れさせねぇっ!」
この声、先代の肉屋か?
「弓、構えぇ!……てぇぇぇぇっ!」
「突、撃いぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
羊飼いと服屋の先代達も…まさかっ!
「此処を通すなっ!刺し違えてでも村を守れぇっ!」
クソックソックソッ!追い先短いからって自分の命投げ出す奴があるかよっ!
「怯むなっ!所詮蛮族の使う時代遅れの武器だ。我らに負けは無いっ!前軍、突撃ぃっ!」
「だから何度違うと言えば分かるんですかっ!」
俺は…コイツらを死なせる訳にはいかないんだ…
村のジイさん達の怒号と断末魔に背を向けて、決して振りかえらない様に、俺は走り続けた…
どれだけ逃げただろう…多分3日くらいは西へ西へと逃げた…途中でもう1人の村長候補と大人達に会い、人気の無い森に入って隠れ里として皆で暮そうと決まった。
…あの時のジイさん達の覚悟と行動は…どうしても理解出来なかった…
Side:女A
「これが、この村が外と繋がりを持た無い、隠れ里に成った訳じゃ…」
何て言っていいのか分からない…
「後で騎馬隊の様子を見に行った者の話では、人間達はエルフを捕える事はせずにその場で殺したそうじゃ…」
「…酷い」
「そうじゃな。じゃが、ワシは良かったと思った」
それを聞いた瞬間、私は耐えられなくなって机を叩いた。
「何でっ!全然良くないよっ!皆殺されたんでしょ!?」
「クリスっ!」
「あっ…」
シオン君が鋭い声と手で私を止めた。
「最後まで、聞いてくれ」
「うん…」
これ以上、何を聞けばいいんだろう…
「続きを話すぞ?普通、戦に負けた国の男は過酷な労働に、女は男の慰みのもにされる。じゃが、あの時はそんな事にはならずに、皆辱めを受けずにすんだのじゃ。ワシは…そう考える事で、自分を納得させたんじゃろうな…」
「ゴメンなさい…」
村長さんの考えは、私には分からない…けど、だからと言って否定するのは違うと思った。
「いいのじゃよ。この村に居るのならば、いずれは話さねばならなかった。それが今だったとゆうだけじゃ」
「ジジイ、そろそろ続きを…いや、緑のエルフが襲われた理由も話してやれよ」
え?今の言い方…エルフって緑じゃないのもいるってコト?
「年寄りをそう急かすな。え~と、ワシらが襲われた理由じゃったな」
何か、緑じゃないエルフの方が気になってしょうがない…
「この場所に新しく村を作ると気また時はの、まだ大人達の一部は人間に復讐しようと言っていたんじゃ。そうして村の外の情報を積極的に集めたんじゃが、人間達は緑のエルフに攻撃され続けてると話しておったんじゃ。じゃが緑のエルフにはあの襲撃で戦が出来る程の戦力はどう考えても残っておらん。そんな矢先じゃ、人間を攻撃している真犯人が判ったのは」
何かミステリっぽい雰囲気…
「それは神祖と呼ばれる体を自由に変えられる種族じゃった」
「体を自由に変えられる?」
「うむ。彼らには生まれつき備わっている能力なんじゃと。彼らは人間から迫害、弾圧、差別され虐げられてきた。じゃから変身能力で違う種族に変身して人間の国を疲弊させ、復讐しようとしたらしい。その頃は神祖の活動もあって人間同士での戦も絶えなかったと聞く」
人間にも変身したのかな?
「でも、これが元で神祖は世界中から憎まれる種族になったって話だしな…」
シオン君が補足説明を入れてくれた。神祖を苛める人達がいなければそうはならなかったんだろうな…
「ふぅ。ジジイに長話は応えるわい……ワシも、今のままで、良いのじゃろうかと思う事は有る…」
村長さんのこの言葉は、ダイニングに静かに、でもハッキリと響いた…